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その日、僕は初めて自分を知りました。

椎名蒼

プロローグ②

中学生活はどんな風になるんだろう?


帰り道、僕の頭にふとその疑問が浮かんだ。




小学生と違って、少しは大人みたいに自由に生きれるのかな?でも中学に入ったら受験が待っているな……部活はどんな部に入るだろうか?どのような部があるんだろうか。勉強難しいかな...恋はできるかな?......


あと、




中学に入っても、またみんなとうまくやれるかな......


正直、僕が一番気にしているのはそこだった。同じクラスのみんなも違うクラスの人たちも、みんな幼馴染みたいなものだけど、仲が良くて一緒に遊んだりする友達など、ほんの一部だ。今はたまたま仲が良い友達が同じクラスにかたまっているだけで、他のクラスの......それこそ話したことのない友達と本当にうまくやっていけるのだろうか。


ただでさえ、忘れ物がひどくて不器用でいい加減な風来坊で周りの友達がいなきゃなんにもできない僕なのに......


もしかしたら......


その時、僕は、向こうの方からものすごいスピードで走ってくる女の子が目に入った。
黒いパーカーにジーンズを履いた髪が長く、色白な女の子だった。その子は前方の僕に気づいたのか、こっちに向かって走ってきた。


あの子は確か隣のクラスの前島さん......


前島さんは視線を一線させて僕の目だけを見て、ハアハアと息を切らしながら止まった。


汗だくの彼女は頬が赤色に染まり、額から流れ出てくる汗を一生懸命パーカーの袖で拭った。そんな彼女から汗の臭いとかすかに甘い、香水のような臭いが漂ってくる。


しかし、そんな彼女を前に僕は状況がうまく飲み込めず、ただ呆然と立ち尽くすだけだった。ハアハアと息を切らす彼女は僕に向けてかすれた声をやっとの思いで出し、「確か….隣のクラスの......赤宮くん....だよね?」と真っ赤になった顔をあげて僕に尋ねた。


「え......あ、はい。そうだけど」


そう答えたものの、僕はどうしていいのかわからないままでいた。おどおどとしている僕を見て彼女は
「逃げよ」と僕の手を強く握った。


「え?!に、逃げるって??」


僕は連れられるがまま彼女と一緒に走り出した。


それにしてもこの子はなにから逃げているのだろう


なんで僕のことを知っていたのだろう


2人はしばらく走ると橋の下の河原に倒れこんだ。


汗だらけだった僕は制服のブラザーとワイシャツを脱ぎ、下に来ていた半袖だけになった春が近いとはいえ、まだ寒い季節だ。なのに散々走り回ったせいか、吹く風が自分の火照った体を涼め、心地よく感じるくらいだった。


「ごめんね赤宮くん......こんなに走らせちゃって」
彼女は僕の顔を覗くように見つめたあと、ちょっぴり微笑んで見せた。暑いせいか、彼女はパーカーを脱いだ。半袖だけになった彼女の胸元が見えそうになり、慌てて顔を伏せた。


「ううん。それはいいんだけどさ、前島さん一体なにから逃げてたわけ?」


僕はずっと気になっていたことを聞いてみた。


「あ、うん、大内くんから逃げてたんだ。だってあの子しつこいんだもん。付き合ってくださいって言われてあんまり何回も言ってくるから付き合ったけど、他の男友達と一緒だったり帰り道友達といるとすごく嫉妬するの。馬鹿みたい。だって私たちまだ小学生だよ??」


前島さんに彼氏が最近できたことはクラスからクラスに伝わり僕も知っていたことだ。彼女は可愛くてスタイルが良くて誰からも人気があった女の子だから。


でもよりによって前島さんの相手が大内だったとは......奴とは幼稚園の時同じ組になったことがあり、よく意地悪されたことがあった今もたまに廊下ですれ違うと睨みつけてくる。


俺はあいつ以上に嫌いな奴はいない。あいつの性格から言って前島さんにしつこくあたり、彼女が逃げたのも無理はないだろう。


でもどうして....


僕は手で仰いで風を起こしている彼女にもう1つ気になることを聞いた。


「でもどうして僕を一緒に連れてきたの?」


彼女は仰ぐ手を止めてひとこと、


「ずっと赤宮くんが気になっていたから」







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