その日、僕は初めて自分を知りました。

椎名蒼

プロローグ③ (最終)

その声は小さく、かすれていた。


だけど、僕にはしっかり聞こえた。


「君がずっと気になっていたから」


彼女はそう言うと、人差し指で自分の頭を突いて見せた。


「え?」


「赤宮くんてさ、おどおどしてて忘れっぽくて不器用で....そんなところがあると思うんだ。隣のクラスでほとんど喋ったことないくせに、なんでそんなことわかるんだって思うかもしれないけど、私にはずっと気になってた。だって普通じゃないもんね。赤宮くんが自転車教室で自転車忘れた時、正直そう思っちゃって....でも、それと同時に少し私に似てるなって思ったの」


「......」


「私もそうだったから。忘れっぽくてドジで自分の世界観が強くて....でも、周りの友達に助けられてなんとかやってきた。」


彼女はうつむいたまま続けた。「だから中学に行ったら今まで通りみんなと仲良くやっていけるか不安なんだ。今日、大内くんから逃げるとき、視界に赤宮くんがいて驚いた。赤宮くんなら一緒に逃げてくれる気がしたから....」


「前島さん......」


驚いたのは僕の方だった。前島さんが僕のことを気にしていたこと、僕と同じ悩みを持っていること。不思議な気持ちと同時に少し嬉しかったことを覚えている。


でもそのあと彼女はごめんね、と謝って僕の元を後にした。そしてその二週間後、僕らは私立くれき野小学校を卒業した。


根拠もなく得体の知れない、意味もないかもしれない不安を抱えて。


 いや、意味はあったのかもしれない。


そう、これから僕は人生最大の後悔をすることになったのだ。

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