碧き舞い花
484:焼き付けたい戦い
集中を深めたセラはケン・セイを前にしながらも、観戦者の中に気になる気配を感じていた。
ゼィロスの横、プォルテの気配を知っていたのだ。王族とも距離が近い渡界人だからというわけではない。むしろ彼は渡界人ではない。
極集中状態だからこそ、彼が隠しているものを感じられたのだ。偽りのない彼の気配を。
なるほど、適任者ね。そう心で呟き、警戒に値するケン・セイから一瞬目を逸らしてセラがプォルテを見ると、爽やかに笑みを返され、頭を振り彼女の前方を示された。
ケン・セイが、迫っていた。
セラはわざわざ教えられなくとも気配でわかっていた。狂気じみたケン・セイを相手に目を向けることなく、彼の蹴りを受け止めた。
先ほど床に刺した刀をその右手に納めるケン・セイ。すぐには抜かず、また支えにしてセラに大きく蹴り上げた脚を振り下ろす。
セラは時を緩める。すぐ後ろへ、トラセードで動いた。すかさず反撃に転じる。着地目前のケン・セイへ、お返しとばかりに蹴りを繰り出す。
セラより早くケン・セイの足が地についた。そこから師範の足と床が高音と共に擦れる。水馬だ。
キュルロロォォォッ――――。
黒髪の上をかすめていく、セラの脚。それをケンセイは手で掴んだ。水馬の勢いのまま、セラの体勢を崩しにかかった。
ケン・セイが着地に合わせて引き抜いていた刀が、彼の後方に浮いているのをセラは倒れながら目にする。
そこからの追撃が来る。その思考が終わるより早く、セラは姿勢が悪いまま刀の上方へと跳んだ。そして、浮かび上がっていた刃を再び床に押し込む。そのまま足を引き上げながら身体を翻すと、ケン・セイの後頭部を狙う。
が、再び体勢が崩れた。
ケン・セイが自らの刀を迸った闘気と共に蹴り、折ったのだ。ウェル・ザデレァで折れたのち新調してからそう経っていない刀を、易々と。
がくんと重力に従うセラの顔を、浅黒い手の掌底が狙う。
エメラルド揺れるサファイアが見開かれる。
「ぬっ!?」
プラチナが大きくたなびいた。
凄まじい速さの突きが、セラの顔の横を通り過ぎたのだ。目を細めるケン・セイは腕に引っ張られるようにして、そのままセラの脇を転げていった。
受け身を取り着地するセラ。勢いを殺して立て直すケン・セイ。
寸刻の応酬に一区切りがついた。
「俺に、使ったか」
「そう」
セラはケン・セイの手に対して圧縮のトラセードを施したのだ。セラ自身でさえ慣れるまでに時間のかかった急激な加速。洩れることなくケン・セイでも対応できないとふんでの対抗策だった。千切るための拡大もそうだが、動いている敵に局所的なトラセードを使うのは困難なことだ。しかしそれも自身を狙ってきているとわかっている動きに対してならば、格段に容易くなる。
「面白い。もっとだっ!」
休みはいらない。そう言わんばかりに好戦的な表情でケン・セイはセラに向かって駆けてくる。
鋭く、自在な体術と剣術。
それらの基盤に、二人がそれぞれに磨き上げた数多の技術が装飾を加わる。観戦者への配慮など二人の頭にはなかった。訓練場は戦場という仮面を被る。
この一カ月半ほどで戦士たち全体の実力は大きく底上げされていたが、それでもこの戦いを悠然と観察できる者は限られた。そんな彼らを残し、多くの者が二人のいる中心地から距離を取り出す。そうしてもとから大きかった観戦者たちの輪は一度散らばり、そして壁際でさらに大きな、まばらな輪となることで落ち着いた。身の危険を感じながらも、やはり二人の戦いは見ておきたいのだ。
ゼィロスの横、プォルテの気配を知っていたのだ。王族とも距離が近い渡界人だからというわけではない。むしろ彼は渡界人ではない。
極集中状態だからこそ、彼が隠しているものを感じられたのだ。偽りのない彼の気配を。
なるほど、適任者ね。そう心で呟き、警戒に値するケン・セイから一瞬目を逸らしてセラがプォルテを見ると、爽やかに笑みを返され、頭を振り彼女の前方を示された。
ケン・セイが、迫っていた。
セラはわざわざ教えられなくとも気配でわかっていた。狂気じみたケン・セイを相手に目を向けることなく、彼の蹴りを受け止めた。
先ほど床に刺した刀をその右手に納めるケン・セイ。すぐには抜かず、また支えにしてセラに大きく蹴り上げた脚を振り下ろす。
セラは時を緩める。すぐ後ろへ、トラセードで動いた。すかさず反撃に転じる。着地目前のケン・セイへ、お返しとばかりに蹴りを繰り出す。
セラより早くケン・セイの足が地についた。そこから師範の足と床が高音と共に擦れる。水馬だ。
キュルロロォォォッ――――。
黒髪の上をかすめていく、セラの脚。それをケンセイは手で掴んだ。水馬の勢いのまま、セラの体勢を崩しにかかった。
ケン・セイが着地に合わせて引き抜いていた刀が、彼の後方に浮いているのをセラは倒れながら目にする。
そこからの追撃が来る。その思考が終わるより早く、セラは姿勢が悪いまま刀の上方へと跳んだ。そして、浮かび上がっていた刃を再び床に押し込む。そのまま足を引き上げながら身体を翻すと、ケン・セイの後頭部を狙う。
が、再び体勢が崩れた。
ケン・セイが自らの刀を迸った闘気と共に蹴り、折ったのだ。ウェル・ザデレァで折れたのち新調してからそう経っていない刀を、易々と。
がくんと重力に従うセラの顔を、浅黒い手の掌底が狙う。
エメラルド揺れるサファイアが見開かれる。
「ぬっ!?」
プラチナが大きくたなびいた。
凄まじい速さの突きが、セラの顔の横を通り過ぎたのだ。目を細めるケン・セイは腕に引っ張られるようにして、そのままセラの脇を転げていった。
受け身を取り着地するセラ。勢いを殺して立て直すケン・セイ。
寸刻の応酬に一区切りがついた。
「俺に、使ったか」
「そう」
セラはケン・セイの手に対して圧縮のトラセードを施したのだ。セラ自身でさえ慣れるまでに時間のかかった急激な加速。洩れることなくケン・セイでも対応できないとふんでの対抗策だった。千切るための拡大もそうだが、動いている敵に局所的なトラセードを使うのは困難なことだ。しかしそれも自身を狙ってきているとわかっている動きに対してならば、格段に容易くなる。
「面白い。もっとだっ!」
休みはいらない。そう言わんばかりに好戦的な表情でケン・セイはセラに向かって駆けてくる。
鋭く、自在な体術と剣術。
それらの基盤に、二人がそれぞれに磨き上げた数多の技術が装飾を加わる。観戦者への配慮など二人の頭にはなかった。訓練場は戦場という仮面を被る。
この一カ月半ほどで戦士たち全体の実力は大きく底上げされていたが、それでもこの戦いを悠然と観察できる者は限られた。そんな彼らを残し、多くの者が二人のいる中心地から距離を取り出す。そうしてもとから大きかった観戦者たちの輪は一度散らばり、そして壁際でさらに大きな、まばらな輪となることで落ち着いた。身の危険を感じながらも、やはり二人の戦いは見ておきたいのだ。
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