碧き舞い花

御島いる

480:二度目の再会

 セラは白くて黒い、黒くて白い地に立った。
 ヅォイァには全て話したわけではなかったが、察してくれた。独りで舞い戻ったその場所は、懐かしくも目新しい。以前より、色味が増えたようだった。
 ナトラード・リューラ・レトプンクァス。
 向かうべき場所は決まっている。真実を確かなものへと導く答えを知る人のもとだ。
 恐さもあった。自分の中に異空に危機をまき散らす者の血が流れていると確定してしまうことへの。しかしそれ以上に、意志をさらに強くするものでもあった。ゼィロスの話を聞きながら、そうなのではと思考が行き着いた時からそうだった。娘ならば、自分が止めなければならないのだという使命感。
 建物の扉の前。セラは薬カバンを擦る。
 意を決して、扉を叩く。
「どちらさま?」
 懐かしい。そう思える声が中から聞こえてきた。実際、久々に会うのだが、それ以上に心のうちから込み上げてくるものがあった。
「セラです。セラフィ・ヴィザ・ジルェアス。覚えていますか? 昔ここでお世話に――」
 扉が開いた。記憶より皺が増えたようだとセラは思った。そして気のせいかもしれないとも。破顔しているからそう見えるのかもしれないと。
「セラ! また会えるなんてっ」
「お久しぶりです。クァスティアさん」
「あぁ、綺麗に、なったのね。今日はどうしたの、突然?」
 室内へと招き入れるクァスティアに一度頷き、セラはきゅっと結んだ唇を開いた。
「クァスティアさん。わたし、ゼィロス伯父さんから、聞きました。あなたがわたしのお母さんだって」
「……」クァスティアは愁いの色を覗かせながら、微笑んだ。「そう」


 と、ここまでだ。筆師が失礼するよ、ははっ!
 申し訳ないがこのときのセラとクァスティアの会話を詳細に記すことはできない。あまりにも個人的なことだからだ。……あと、実を言うと、僕も彼女から詳しい内容は聞かせてもらえなかった。
 ただ、重要でありながら周知の事実となっていることはしっかりと書いておこう。
 セラの父親はヴェィル・レイ=インフィ・ガゾン。
 それがこのとき、疑いのないものとなった。


 彼女たちの話を書かない代わりに、セラが漂流地を訪れる前にゼィロスにした報告を含めた話し合いの内容を軽く書いておこう。
 まずはセラの出生に関する話から、フェルの話題へと移った。ヴェィルと双子である彼女が、100余年前にホワッグマーラで世界を造った一族の末裔を名乗った予見者だという事実が濃厚になってきた。神々と共に古くから時軸上に存在すると思われ、ヨコズナやフュレイが予見について触れていたからだ。
 それからゼィロスは彼女の生存を含め、居所を探すことが評議会として必要だと結論付けた。武神に対し試練を望む者の予見を残したこと。フェルがヴェィルを討とうとしていると邪神が語ったこと。フェルは評議会にとって最大の協力者になりえるのだ。
 ただ今の今までその姿を見せていないことだけが不安要素だった。


 次は二人にとって重要な、エレ・ナパスの鍵の保持からの解放について話した。しかし、話す前からセラには状況が芳しくないことはわかっていた。ゼィロスと二人きりになる前に、エァンダが「エレ・ナパスが戻ることを期待してろよ」と言い残し、サパルのもとへ向かったからだ。
 ゼィロスに詳しく聞くと、恐らくエァンダが加わっても復活は遠いだろうということだった。なんでも思い出が足りないらしい。それを受け、グゥエンダヴィードに囚われている同胞たちの救出の重要度は上がったのだと、ゼィロスは話題をそちらに移した。


 イソラとルピが潜入を試み、そして成功したという連絡を二週間前に受けた後、二人との連絡が途絶えてしまっているという。自身のナパードによる移動以外に連絡手段を持たないセラとは違い、二人には評議会から支給されている通信機がある。未だに技術が及ばず、異なる世界では連絡が困難になることもある。潜入に伴い連絡のできない状況なのかもしれない。
 セラは自分が様子を見に行きたいと申し出た。そのままナパスの民を救うことも視野に入れて。しかしゼィロスは首を横に振った、すでに適任者を向かわせている。その者には様子を確認したら、二人が危機的な状況にあっても報告に戻るように言ってあるのだと。


 そうしてスウィ・フォリクァに戻らない者として次にキノセの名がゼィロスから挙がった。
 新たな『夜霧』の拠点捜索に出た彼だが、こちらは帰ってはいないが連絡は定期的に入っているという。
 フェースを追っている。本拠地に迫れるかもしれない。それが彼の現況だった。
 その事実にセラが嬉々として驚き、会話は一旦途切れた。


 再開一番の話題は『白輝の刃』のことだった。そういえばと思い出したようにセラが「テムは白輝とうまく交渉できたんだね」と言ったのがはじまりだ。
 だがキノセの働きによる嬉しさから続くようににこやかに口にしたセラに対して、ゼィロスは「いや」と彼女を手で制した。
 白輝では『黒・白・七色戦争』のちに内乱が起きたのだという。青年将軍ズーデルが輝ける者を絶対とする古い体制に対して革命を起こしたのだ。革新派と保守派に分かれた争いは保守派が世界を追われるという形で早々に決着がついた。『かげりの内乱』だ。
 こうして世界の覇権を得たズーデルは『青雲覇王せいうんはおう』を名乗り、新たな体制を作りはじめた。
 だがテムが出向いたのは覇王のもとではない。目的は無窮を産みだす装置を欲していた輝ける者。世界を追われた保守派の方だ。
 交渉は難なく進んだ。装置が眠る遺跡の入り口を記憶した地図と引き換えに技術を提供してもらう。その提案に輝ける者たちは諸手を挙げて頷いたのだ。謀反者であるズーデルがいつ自身たちの命を狙ってくるやもしれんと、永遠の命を求めて。


 ざっとこんなところだろう。
 最後にゼィロスは、クァスティアのもとを訪ね終えたらトラセードと極集中の実力を見せるようセラに言った。ケン・セイが子どものように待ちわびていると。

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