碧き舞い花

御島いる

422:助力を願う

「地図?」
 イソラは反対側に首を傾げる。
 ゼィロスが応える。「そうだ。テムが機転を利かせ、異空図にウェル・ザデレァ温湿漠原の遺跡の場所を記憶させた。『夜霧』の知らない入り口がある場所を。それを白輝との交渉材料にする」
 指揮者が手を上げる。「それだけでは弱いので~は?」
「そうかもしれんな。だが、やる価値はある」
「なにもしないよりはマシというわけだな、ズエロスよ」カッパがうんうんと頷く。「それに無窮を生み出す装置は白き者たちも欲しているもの。案外うまくいくやもしれんぞ、メルディンよ」
 言われたメルディンは肩をすくめて黙る。
「白輝とはわずかずつでも友好関係を強めていく必要がある。根気強くやるさ」
 ゼィロスはそう締めくくると、話題を変える。
「それと、セラの報告の方に話を戻してすまないが、グゥエンダヴィードの座標が明らかになった。私情を大いに挟んでしまうが、調査したい。願わくば同胞を救いたい。そのために評議会の力を借りたい」
『異空の賢者』は椅子から立ち上がり、深々と頭を下げた。
「確か戦士ではないのでしたよ~ね、囚われているの~は。評議会として得る価値が小さいです~ね。それ~に、救ったとして住む場所~は? まさかこの地にとは考えていないでしょ~う。なの~で、わたくしは反対しま~す」
『界音の指揮者』首を横に振る。その斜め後方、弟子のキノセは同調せずに視線をセラに向けた。そしてすぐに逸らした。
「俺は、いい。ヒィズル、評議会に救われている」
『闘技の師範』の言葉に後ろの二人の弟子も大きく頷いて見せる。
「弟子の同胞のことだ、できることが惜しみなく協力したい」
『空纏の司祭』は後ろに座るズィーをちらりと見てから、心強い言葉をゼィロスに投げかけた。
「わしらは当然じゃのぉ、カッパよ」
「うぬ」
『変態仙人』とカッパは三つ目と一つ目を交わし合い、互いに頷いて見せた。
「妾はどちらでもよいさ。場所が判明している以上、妾の出る幕はないだろうぞ」
『神降ろしの巫女』は微動だにせず、口だけを動かした。
「わたしももちろんいいわ。……サパル?」
『鍵束の番人』は快諾しつつも、離れた場所で新参者の渡界人の横に座る同胞の考え込んだような表情に、呼び掛けた。
「……ああ。すいません。もちろん、僕も。でも、一ついいですか?」
「ああ、そうだな」とエァンダが相棒に続いて声を上げた。「ちょうどいい話の流れだしな」
「いや、ごめんエァンダ。その話もそうなんだけど……すいません、二ついいですか?」
「?」
 部屋が疑問符に包まれる中、ゼィロスは顔を上げ、視線で許し促す。
「ありがとうございます。まず、一つ目ですけど、ゼィロスさんが一族の問題を評議で話されたので、その便乗になってしまうんですが、僕からもお願いしたいことがあります。『夜霧』にも関係しますし、異空の平和に関わることなので」
 ゼィロスは椅子に納まる。「なんだ?」
「鍵のことです。今回の戦争で『夜霧』が所持していると判明した『悪魔の鍵』の。……あれはソウ・モーグ・ウトラ扉の森七封鍵しちほうけんの一本なんですが、世界の神を封じる力を持っています。そして封じた神を支配下に置き、使役できるという危険な代物です。実は四年前、『追憶の鍵』を使えないかと戻ったときにはすでに紛失していました。ですが、僕たちの中でも使える人間はごくわずかだったので大丈夫だろうと、元老院たちに口止めされていました。でも、『夜霧』がその手にしているうえに使用できる者がいるという状況に、評議で話すべきだろうと」
「ちょっと、サパル」ルピが戦々恐々といった様相でサパルに訊く。「元老院のジジババにはこのこと話したのかよ?」
「……」
「独断!?」ルピが立ち上がりサパルに向かっていく。「ちょっと、いくらあんたでもやばいでしょ!」
「それでも、みんなには話しておかないといけないことだ。もう、ただ無くなったって状況じゃないんだから」
「でも――」
「ルピ」ゼィロスが割って入る。「ソウ・モーグ・ウトラの階級制度は俺たちも知っているが、すまない、内輪の話はあとで済ませてくれ」
「いや……ごめん、ゼィロスさん。大丈夫」ルピは踵を返し、席に戻る。そして座り掛けにわずかに笑んでサパルに言う。「あんたらしいよ、その判断。わたしじゃできない」
「理解してくれててありがとう、ルピ」
「続けてくれ、サパル」
「はい」

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