碧き舞い花
417:マスター
暗黒の靄がはっとざわめいた。碧きヴェールを発現させたセラを見て、まるで驚いたように。
「 」
彼女には理解不能な言語で何か言うと、ざわめきは収まり、靄は切っ先を真っ直ぐセラに向けた。鋭く研ぎ澄まされた、それでいて身体の靄のように定まらない戦意と共に。
「お前が『白昼に訪れし闇夜』……ヴェィル、なのか?」
薄闇に碧き光を映えさせながら、セラは靄を睨む。ヴェールを纏ったからか、恐怖はわずかばかりではあるが、和らいでいるように思える。
「 」
何を言ったかはわからなかったが、靄に会話の意思がないことだけはセラにも分かった。靄が、彼女との間合いを一瞬にして詰めた。
刃を交える。
敵の剣は靄であるが、金属の実体を有しているようだった。打つ音や擦れる音が金属同士のそれだった。
この相手がはっきりとヴェイルだと判明した訳ではない。それでも、セラの勘や本能に近い部分はそう結論付けていた。『夜霧』との戦いの場、通り名との合致、神を圧倒するほどの力の持ち主。それら全てがその答えへと収束していた。
『夜霧』を統べる者が目の前にいる。力の差などとうに承知しているが、それでも、この機を逃すわけにはいかない。その想いが、彼女にヴェールと勇気を与えたのだ。
高揚している割には落ち着いていた。
そういえばズィーがこの戦いが『夜霧』との最後の戦争に、親玉が出てくるかもしれないという勘を口にしていたことを思い出す。技術としてではない、冗談で口にしたものであったその勘が当たったのかもしれない。いいや、まだだ。
最後の戦いという彼の勘を正しいものにしなければ。
セラと靄が動くたびに、碧と漆黒が揺らめく。
互角の戦い。
あからさまにあった実力差が、戦いはじめると徐々に縮まっているように感じ、セラは訝しむ。
様子見をされているわけでも、遊ばれているわけでもない。
いくらヴェールを纏ったと言えど、ここまで力が均衡するなどありえない。力が弱っているのは靄の方だった。それを現すかのように、身体となっている靄の集まりが、現れた当初よりまばらになっていた。
そのことに歯がゆさやもどかしさ、憤りを感じているのか、靄の動きがまさに散漫になってきた。
靄に何が起きたかは知らないが、好機に違いない。ここで決めてしまおう。
――碧花乱舞。
薄闇に碧き花びらたちが舞うはずだった。
代わりに、黒き渦が靄を中心に広がった。
セラはその渦に巻き込まれ、排斥される。背を砂に打った。「ぁぐっ……」
上体を起こす。荒々しい黒き風圧が、彼女の白銀を揺らす。そして碧きヴェールを吹き払っていく。
身体がぶるりと震えた。恐怖からだ。
セラは再び恐怖に見舞われた。呼吸が荒く、ままならない。立ちもせず、後退る。だが、ふとある気配を感じて止まる。
「マスター!」
黒き渦の後方。暗い藍色が煌めいた。ナパードで現れたのは、裏切りのナパス。
フェース・ドイク・ツァルカ。
顔の上側を仮面で隠した男が、靄の中心に向かって叫んだ。
「やめてくださいっ、それ以上は!」
「      フェース」
「ここまでの成果が水泡と帰す!」
「 」
わずかにフェースと会話を交わしたかと思えば、靄は彼に向かって力を放った。それをナパードで避けたフェースは苦々しいく口元を歪める。
これではっきりした。
フェースがマスターと呼んだ、靄。
あの靄は、ヴェィル・レイ=インフィ・ガゾン。
しかし……。
その事実が判明しようとも、今のセラにはなにもできなかった。
「 」
彼女には理解不能な言語で何か言うと、ざわめきは収まり、靄は切っ先を真っ直ぐセラに向けた。鋭く研ぎ澄まされた、それでいて身体の靄のように定まらない戦意と共に。
「お前が『白昼に訪れし闇夜』……ヴェィル、なのか?」
薄闇に碧き光を映えさせながら、セラは靄を睨む。ヴェールを纏ったからか、恐怖はわずかばかりではあるが、和らいでいるように思える。
「 」
何を言ったかはわからなかったが、靄に会話の意思がないことだけはセラにも分かった。靄が、彼女との間合いを一瞬にして詰めた。
刃を交える。
敵の剣は靄であるが、金属の実体を有しているようだった。打つ音や擦れる音が金属同士のそれだった。
この相手がはっきりとヴェイルだと判明した訳ではない。それでも、セラの勘や本能に近い部分はそう結論付けていた。『夜霧』との戦いの場、通り名との合致、神を圧倒するほどの力の持ち主。それら全てがその答えへと収束していた。
『夜霧』を統べる者が目の前にいる。力の差などとうに承知しているが、それでも、この機を逃すわけにはいかない。その想いが、彼女にヴェールと勇気を与えたのだ。
高揚している割には落ち着いていた。
そういえばズィーがこの戦いが『夜霧』との最後の戦争に、親玉が出てくるかもしれないという勘を口にしていたことを思い出す。技術としてではない、冗談で口にしたものであったその勘が当たったのかもしれない。いいや、まだだ。
最後の戦いという彼の勘を正しいものにしなければ。
セラと靄が動くたびに、碧と漆黒が揺らめく。
互角の戦い。
あからさまにあった実力差が、戦いはじめると徐々に縮まっているように感じ、セラは訝しむ。
様子見をされているわけでも、遊ばれているわけでもない。
いくらヴェールを纏ったと言えど、ここまで力が均衡するなどありえない。力が弱っているのは靄の方だった。それを現すかのように、身体となっている靄の集まりが、現れた当初よりまばらになっていた。
そのことに歯がゆさやもどかしさ、憤りを感じているのか、靄の動きがまさに散漫になってきた。
靄に何が起きたかは知らないが、好機に違いない。ここで決めてしまおう。
――碧花乱舞。
薄闇に碧き花びらたちが舞うはずだった。
代わりに、黒き渦が靄を中心に広がった。
セラはその渦に巻き込まれ、排斥される。背を砂に打った。「ぁぐっ……」
上体を起こす。荒々しい黒き風圧が、彼女の白銀を揺らす。そして碧きヴェールを吹き払っていく。
身体がぶるりと震えた。恐怖からだ。
セラは再び恐怖に見舞われた。呼吸が荒く、ままならない。立ちもせず、後退る。だが、ふとある気配を感じて止まる。
「マスター!」
黒き渦の後方。暗い藍色が煌めいた。ナパードで現れたのは、裏切りのナパス。
フェース・ドイク・ツァルカ。
顔の上側を仮面で隠した男が、靄の中心に向かって叫んだ。
「やめてくださいっ、それ以上は!」
「      フェース」
「ここまでの成果が水泡と帰す!」
「 」
わずかにフェースと会話を交わしたかと思えば、靄は彼に向かって力を放った。それをナパードで避けたフェースは苦々しいく口元を歪める。
これではっきりした。
フェースがマスターと呼んだ、靄。
あの靄は、ヴェィル・レイ=インフィ・ガゾン。
しかし……。
その事実が判明しようとも、今のセラにはなにもできなかった。
「碧き舞い花」を読んでいる人はこの作品も読んでいます
-
-
3万
-
4.9万
-
-
5,217
-
2.6万
-
-
9,711
-
1.6万
-
-
1.2万
-
4.8万
-
-
8,191
-
5.5万
-
-
2.1万
-
7万
-
-
1.3万
-
2.2万
-
-
1,301
-
8,782
-
-
2,534
-
6,825
-
-
614
-
1,144
-
-
614
-
221
-
-
265
-
1,847
-
-
213
-
937
-
-
23
-
3
-
-
218
-
165
-
-
164
-
253
-
-
29
-
52
-
-
6,681
-
2.9万
-
-
65
-
390
-
-
450
-
727
-
-
9,448
-
2.4万
-
-
3
-
2
-
-
10
-
46
-
-
62
-
89
-
-
47
-
515
-
-
1,658
-
2,771
-
-
62
-
89
-
-
187
-
610
-
-
1,000
-
1,512
-
-
6,237
-
3.1万
-
-
86
-
893
-
-
89
-
139
-
-
7,474
-
1.5万
-
-
477
-
3,004
-
-
42
-
14
-
-
10
-
72
-
-
83
-
250
-
-
398
-
3,087
-
-
86
-
288
-
-
17
-
14
-
-
7
-
10
-
-
6
-
45
-
-
9
-
23
-
-
18
-
60
-
-
183
-
157
-
-
3,224
-
1.5万
-
-
6,199
-
2.6万
-
-
104
-
158
-
-
14
-
8
-
-
1,391
-
1,159
-
-
408
-
439
-
-
3,548
-
5,228
-
-
215
-
969
「ファンタジー」の人気作品
-
-
3万
-
4.9万
-
-
2.1万
-
7万
-
-
1.3万
-
2.2万
-
-
1.2万
-
4.8万
-
-
1万
-
2.3万
-
-
9,711
-
1.6万
-
-
9,545
-
1.1万
-
-
9,448
-
2.4万
-
-
9,173
-
2.3万
コメント