碧き舞い花

御島いる

396:ナパードさながら

 件の力を纏ってなお、今回のセラは落ち着いた。
 自分の力で発現させたことや、どうして発現したのかなどは全く考えなかった。考えるより先に身体が動いていた。
 ナパードで包帯二人の間に挟まれるように移動した。
 現れた彼女に、ガルオンとフォーリスは即座に反応し、ガルオンは爪を彼女に、フォーリスは魔素を自身たちも含めたその場に向かって降らせはじめる。
「おいおい、お前がやるのか?」
「ころ゛ぉーっす!」
「……」
「俺の勘じゃ」
「しねぇえっ!」
「……」
「お前はこれで――」
「終わりだっ――」
 二人の四肢が、飛び散った。おまけに首も。
「マジかあいつ……金剛裁断、楽々やってやがるよ」
「面白い。ビズラスを思い出す」
 ズィーとケン・セイの零した声が鮮明に聞こえた。そんな中、セラはそれぞれの斬り口から血が噴き出すより早く、その場から離れた。
 碧花の残光を鮮血が反射する。
 そんな中、その場にフォーリスの魔素が落ちてきて、二人のばらばらとなった身体を、ぐしゃりと押し潰した。
 ナパードさながらの瞬殺劇。
 もう蘇ることもないだろうと思われる二つの死体に、セラは静かに言い放つ。
「勘は外れることもあるのよ。それと殺すとか死ねとか、それしか言えないなんて悲しい人」
 それからセラは、包帯の戦士などもとよりいなかったと言わんばかりに、あっさりとした物腰でリーラとシーラにそれぞれ視線を向けた。二人とも驚愕の表情をしていた。気になって、ふと砂上に寝たノーラにも目を向けてみると、彼女の顔も同様だった。
 彼女のヴェール纏いし姿を見て、神は驚いている。セラにはそれに覚えがある。ヨコズナ神もまた、そうだった。彼女のこの力を見た途端戦いをやめ、セラを意識の底へと誘ったのだ。
「よもや……」
 リーラが声を発した。セラは視線を彼女に戻す。
まなこに光を宿すに留まらないとは……。血を、引いている? 誰の? 双子以外に、人の形を残している者がいる? そんなはずは……。やはり双子の子……?」
 神とは思えぬたどたどしい口の動きにより、言葉を紡ぐリーラ。誰に言うでもなく、自分に語り掛けているようだ。
 ヨコズナ神もそんな場面があったが、これも神と呼ばれる者たちの特徴なのだろうか。セラはそんな戦いとは関係のないことを冷静に思いながら、リーラに問い掛けようとした。しかしその当人がまじまじと彼女のことを見つめきたことで、そうしなかった。
「……よくよく見れば若き日のフ――」
「リーラちゃんっ……! 何をしているのっ!」
 空からルルフォーラの声が遮る。
「わたしが窮地じゃないっの! お喋りしている暇なんてないのよ?」
「おうおう、窮地だぁ?」ジュランが細身の剣を空振る。「逃げ回ってるだけじゃねえか、このアマ!」
「あらやだ、野蛮な男は嫌いよ? それに、あなたの攻撃が下手なんじゃなくて?」
 ルルフォーラは武装することなく、まるで宙を漂う一枚の羽根のように、ジュランの攻撃を避けていた。ルルフォーラ自身の能力も、指輪に納めているであろう武器も、いまや評議会の捕虜となっているプルサージの血から得た幻覚の力も、まったく使わずにただ避けるだけ。
 ジュランは皮肉にも、血をあまり流させないでというセラの忠告に過剰に従ってしまっていた。ルルフォーラは無傷だ。
 あのジュランが、空中で弄ばれている。『異空の悪魔』を圧倒したジュランがだ。
「くそがっ!」
「ふふふっ、ほら、リーラちゃん、早くわたしを助けて」
 まるで楽しむようなルルフォーラの余裕な笑みが、月夜に浮いていた。

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