碧き舞い花

御島いる

358:二人が纏うもの

 セラは急旋回する。
 砂の滑りを利用して、ヌロゥを回り込み、ヅォイァの身体に手を触れ、跳んだ。
 敵との適切な間合いに老人と共に姿を表す。
 一人で敵に斬り掛かったジュラン。
 彼の細身の剣は、淡い輝きを放つヌロゥの首元に納まっていた。
「かてぇな、クソ」ジュランはヌロゥから離れる。「あんときのやつか」
 外在力。
「あのときの? くくく、同じだと思うか?」
 笑うヌロゥはその指にはめた黒き指輪を光らせた。すると、彼の空いた手にもう一本、歪んだ形の剣が現れた。
 二本の剣も空気を纏い、淡く輝く。
「さあ、第二幕と行こうか」
 外在力により向上した身体能力。
「ごめんなさいっ!」
 セラは言葉と共に、隣のヅォイァに向かって衝撃波で吹き飛ばした。
 ヌロゥは瞬く間にセラとの間合いを詰めていた。彼女は敵の狙いが自分と見せかけ、ヅォイァ老人であると勘付き、彼を吹き飛ばしたのだ。
 案の定、彼がさっきまで立っていた箇所は、鋭利な斬撃により大きく斬り抉れていた。砂たちがその溝を埋めようと動き始める。
 砂上に倒れたヅォイァを気に掛けながらも、今度は自身の番だとセラはオーウィンを前に出す。共に、久々に鎧のマカを纏った。
 二本の歪んだ刃を受け止めると、張ったばかりの魔素の鎧は砕け、彼女の後方の砂と共に舞った。
「っく……」
 瞬時の判断で鎧を纏ったことが吉と出た。制止させた闘気だけでは、無傷では済まなかった。それほどに刺々しい空気圧だった。
 剣から斬撃として飛ばすのではなく、身体に纏わる空気を一気に押し放つ。同じ外在力だが、ズィーにはできないものだった。
『紅蓮騎士』よりも外在力を使いこなしている。
「また外在力が勝ったな」
 ぬらっとした笑みがオーウィンを押し込んでくる。
 セラは膝を着かされる。「っん……」
 今さっき部隊長の一人を葬ってきたばかりだというのに、この男との間にはこれほどまでに力の差があるのか。
 ぬか喜びだった。セラは自身を責める。何を笑っていたんだと。
 この男とこれほどまでに差があるとなれば、あの褐色の大男、ガフドロとの間にも大きな差があるのは自明だ。
 膝が砂を押し退け、埋まり始める。足場が安定をなくしはじめる。
「っ……術式――」
 違う。今さら何をくよくよと。
 目に見えないところでの実力差は分かりきっていたことではないか。野獣ガルオンがとりわけ弱かったとは言わないが、目の前の男はそれを上回る気配を、技術を、殺気を持っている。
 勘と力だけで部隊長になったことも、もちろん大いなる実力だろう。しかし、やはり野獣は勘と力だけだった。
 ズィーに浮かれるなと言われ、分かってると答えたのはどこの誰だ。
 セラは小さく首を横に振る。そしてキッとくすんだ緑を睨む。
「展開っ! フロア!」
 足場が確立され、セラは目一杯に歪んだ剣たちを押し返しはじめる。その目にエメラルドの輝きを宿しながら。
「ん? なんだその目それは?」
「?」
 セラは一瞬、ヌロゥが何のことを言っているか分からなかった。しかし、すぐに自身から碧きヴェールが醸し出されたことで、状況を把握する。
 ――あの力だ。今度は自分で!
 エァンダからのものでなく、己から出る力だと知って初めて発現させる力。彼女はその湧き上がる闘志と漲る力のままに淡く輝くヌロゥを撥ね返す。
 弾かれたヌロゥは着地と共にセラとの間合いを開いた。その表情からは警戒の色が窺える。
「渡界人の特性……? フェースは言及したことないが……」
 そんな彼の呟きを耳にしながら、セラもすぐには動かず、自身の感覚を確かめるように身体に意識を向ける。
 どうやって発現させたのだろうか。意思が強まったからか……。なんにせよ、今は考えている時ではない。
 これならいける。セラは勝ちへの自信に満ちた、凛とした瞳をヌロゥに向けた。

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