碧き舞い花

御島いる

317:敗者の結末

「ッチ。しょ、勝者!……セブルス」
 なんとも不満げな声で、エーボシにより勝者宣言が成された。薬で感覚が鋭くなっていなくとも分かるほど、あからさまな舌打ちだった。
「敗者、ポルザ・ユンはただいまを持ってにえとなった」
 エーボシの言葉にセラは訝り、一人呟いた。「贄?」
「いやだよ!」闘技場の外、地に尻を吐いたポルザが血相を変えていた。「オイラは外の人間じゃん! そこまで従うことないじゃんっ!?」
「往生際が悪いぞ、敗者めが!」
 野太い声の一喝。ポルザのことなど全く見ることなく、シメナワが腕を組んで言った。
「ふ、ふざける。こんな世界、出てってやるじゃんよ!」
 ポルザは何やら慌てて懐を探り出した。異空を渡る道具でも出すのだろう。恐怖を感じているらしく、覚束ない手つき。彼の懐からぽとりと真ん丸の水晶が落ちた。それは落ちたその勢いで彼から離れて行くように転がっていく。
「あぁ……」
 大きな図体で地を這い、水晶を追う狼男。セラの目から見ても惨めだった。
「止めましょうか?」
 そんな時、表情を殺したコクスーリャが立ち上がり、シメナワに尋ねていた。シメナワは全くポルザには関心がない態度のままだ。
「必要ない。ヨコズナ様からは逃げられん故な」
 言われるとコクスーリャは腰を降ろした。
 何が起ころうとしているのか、セラには分からない。ただ、神前試合での敗北は死だという。ポルザはその死から逃れようとしている。それだけは彼女にも分かっていた。
 試合の末に相手が命を落とすなど、セラとしては耐えられないこと。しかし何が起こるか分からない以上、不用意に手出しするのは危険だと判断し、成り行きを見守るに徹する。
「クフフ、それじゃあ、皆さんさよならじゃんよ……?」
 水晶を手にしたポルザ。だがその体は、突如空より舞い降りた二つの壁によって挟まれた。まるで木の実を潰すかのような、軽い音が小さくなった。呆気なく、狼男が潰れた。
 赤い血の付いた二つの壁は上空へと舞い戻る。向かう先は、神の口。二つの壁はヨコズナの指先だったのだ。
 ヨコズナは、その全容の見えない巨体には物足りないであろう、指先にちょぴりとついた真っ赤なジャムを一舐めする。
「獣臭い。少ない。我を呼びし者よ。血は最後に全てをよこせ」
 エーボシが頭を下げた。「畏まりいたした」
 あっという間の出来事に、セラは放心していた。あれほどいとも簡単に、人の命が終わった。その事実は、悲しみや怒りを置き去りにしていった。自分がああなるのかもしれないということさえも、考えさせなかった。
「続いての試合、東、ハンスケ・ゾーエ。前へ」
 エーボシの声と共に、すらりとした男が闘技場の中央に一瞬で移動してきたのをセラは視界の外に感じた。
 人の死などなかったかのように平然と試合は続いて行くようだった。
 死を悼む間もなく。とにかく目の前の試合に集中しなければと、セラは中央に向き直り、ハンスケを見据える。細長い腕に、外側に刃がついた輪をいくつも通していた。あれが武器か。
「これ以上誰も殺させない、とでも考えているのか? 通り名よろしく浮かれた考えだ」
「なにっ」
「戦いとは殺し合い。負けて死ぬのは当たり前。……それとも、己の命を投げ出すか? お主が負ければ、その甘い考えも成就されるだろうよ」

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