碧き舞い花
313:何よりも知りたいこと
「話の流れを止めて悪い。次は?」
コクスーリャは言って、安楽椅子の上で仰け反った。倒れんばかりであったが、体の軸がぶれずに、行った軌道をそのまま戻った。
セラは腕を組み、しばし考える。すでにコクスーリャのことは疑っていない。小さな疑問から訊いてきたが、ここらで一番知りたいことを訊きたくなっていた。
「本拠地は、グゥエンダヴィードはどこにあるの?」
「おっ、急に踏み込んできたな。会話が温まってきた証拠だな。思考が上手く流れ出した」
「で、どこ? 漂流地だってことは知ってる」
「へぇ、そうか。でも、それはグゥエンダヴィードのことだな。俺が場所を知るのもグゥエンダヴィードの方だけだ。本拠地は知らない」
「グゥエンダヴィードは本拠地じゃないってこと?」
「ご明察。あそこはナパスの民を捕えておくための、牢獄世界だ。出口が一つしかないからうってつけだったんだろう。発足当時はあの場に兵が集まることもあったみたいだけど、今は部隊長クラスは全くといっていいほど立ち寄らない。俺も行ったことはないけど、場所ならわかる。ちょっと待って」
コクスーリャは懐から紙と羽ペンを取り出すと、椅子の脇にあった机に向かう。そして奇異なことに、羽ペンの先で自らの手の甲を数度突いた。訝るセラだが、彼はいたって普通に紙になにやら書き始めた。
書き終えると、紙をセラに渡す。「これがグゥエンダヴィードの座標だ……? ああ、このペンが不思議って顔だね。まあ、とりあえず受け取って」
彼はセラの手に紙を渡した。
「このペンは『真実の口』と同じフィアルム探偵七つ道具の一つでね。『情報の翼』だ。インクいらずで字を書ける。そのうえ、情報を受け取った人の頭に情報が定着するか、情報の獲得を放棄すると書いた情報は跡形もなく紙面から消える。フィアルム人同士なら、空中に書いた字を送り合える。だから翼ってわけだ」
「じゃあ、この紙を評議会に持ち帰っても、その頃にわたしがこの座標を覚えていたら消えるってこと?」
「そうなる。でも、その頃にはもう頭の中にしっかり入ってるさ」
「他の人がこの紙を見たら?」
「インクいらずと言ったけど、俺の意思がインク代わりなんだ。俺が君に宛てて書いたって認知してるから、消えてしまえば他の人間には見ることは出来ない。すぐに覚えれば、文書からの情報の漏洩を防げるってわけ」
「そっか」言って、セラは紙を炎のマカによって跡形もなく燃やした。すでに字が消えていたからだ。「じゃあ、もういらない」
「そういうことだ。さ、次は?」
「本拠地を知らないって言ったけど、全員で集まるところはないの? 『白昼に訪れし闇夜』も含めて。そもそも、あなたは会ったことあるの? あなたたちの統率者は何者なの?」
「一気にきたな。まず決まった集会所はない。部隊長のいる世界に集まることがもっぱらだ。それから――」
口を閉ざし、コクスーリャはまたも紙になにやら書き始めた。グゥエンダヴィードの座標にくらべて時間がかかっていた。文章を書いているようだった。
ペンを置くと黙ってセラに紙を差し出した。
異様な態度に眉を顰めるも、差し出された紙を受け取ったセラ。
紙面をみると目を瞠り、息を呑んだ。
『ヴェィル・レイ=インフィ・ガゾン
夜霧指導者『白昼に訪れし闇夜』の名だ
俺たちは彼の名はおろか、彼の情報を
何ひとつ口にすることが出来ない
しようとすれば気が狂う
そういう呪いを掛けられている 下っ端ですら
だから書いて伝えている
対面したのは夜霧に入ったとき一度だけ
誰もが最初に一度対面し、呪いを受ける
だがその姿を目にしたことは一度もない
今、彼と面会できるのはただ一人
フェース・ドイク・ツァルカのみだ』
紙にはそう書かれていた。
コクスーリャは言って、安楽椅子の上で仰け反った。倒れんばかりであったが、体の軸がぶれずに、行った軌道をそのまま戻った。
セラは腕を組み、しばし考える。すでにコクスーリャのことは疑っていない。小さな疑問から訊いてきたが、ここらで一番知りたいことを訊きたくなっていた。
「本拠地は、グゥエンダヴィードはどこにあるの?」
「おっ、急に踏み込んできたな。会話が温まってきた証拠だな。思考が上手く流れ出した」
「で、どこ? 漂流地だってことは知ってる」
「へぇ、そうか。でも、それはグゥエンダヴィードのことだな。俺が場所を知るのもグゥエンダヴィードの方だけだ。本拠地は知らない」
「グゥエンダヴィードは本拠地じゃないってこと?」
「ご明察。あそこはナパスの民を捕えておくための、牢獄世界だ。出口が一つしかないからうってつけだったんだろう。発足当時はあの場に兵が集まることもあったみたいだけど、今は部隊長クラスは全くといっていいほど立ち寄らない。俺も行ったことはないけど、場所ならわかる。ちょっと待って」
コクスーリャは懐から紙と羽ペンを取り出すと、椅子の脇にあった机に向かう。そして奇異なことに、羽ペンの先で自らの手の甲を数度突いた。訝るセラだが、彼はいたって普通に紙になにやら書き始めた。
書き終えると、紙をセラに渡す。「これがグゥエンダヴィードの座標だ……? ああ、このペンが不思議って顔だね。まあ、とりあえず受け取って」
彼はセラの手に紙を渡した。
「このペンは『真実の口』と同じフィアルム探偵七つ道具の一つでね。『情報の翼』だ。インクいらずで字を書ける。そのうえ、情報を受け取った人の頭に情報が定着するか、情報の獲得を放棄すると書いた情報は跡形もなく紙面から消える。フィアルム人同士なら、空中に書いた字を送り合える。だから翼ってわけだ」
「じゃあ、この紙を評議会に持ち帰っても、その頃にわたしがこの座標を覚えていたら消えるってこと?」
「そうなる。でも、その頃にはもう頭の中にしっかり入ってるさ」
「他の人がこの紙を見たら?」
「インクいらずと言ったけど、俺の意思がインク代わりなんだ。俺が君に宛てて書いたって認知してるから、消えてしまえば他の人間には見ることは出来ない。すぐに覚えれば、文書からの情報の漏洩を防げるってわけ」
「そっか」言って、セラは紙を炎のマカによって跡形もなく燃やした。すでに字が消えていたからだ。「じゃあ、もういらない」
「そういうことだ。さ、次は?」
「本拠地を知らないって言ったけど、全員で集まるところはないの? 『白昼に訪れし闇夜』も含めて。そもそも、あなたは会ったことあるの? あなたたちの統率者は何者なの?」
「一気にきたな。まず決まった集会所はない。部隊長のいる世界に集まることがもっぱらだ。それから――」
口を閉ざし、コクスーリャはまたも紙になにやら書き始めた。グゥエンダヴィードの座標にくらべて時間がかかっていた。文章を書いているようだった。
ペンを置くと黙ってセラに紙を差し出した。
異様な態度に眉を顰めるも、差し出された紙を受け取ったセラ。
紙面をみると目を瞠り、息を呑んだ。
『ヴェィル・レイ=インフィ・ガゾン
夜霧指導者『白昼に訪れし闇夜』の名だ
俺たちは彼の名はおろか、彼の情報を
何ひとつ口にすることが出来ない
しようとすれば気が狂う
そういう呪いを掛けられている 下っ端ですら
だから書いて伝えている
対面したのは夜霧に入ったとき一度だけ
誰もが最初に一度対面し、呪いを受ける
だがその姿を目にしたことは一度もない
今、彼と面会できるのはただ一人
フェース・ドイク・ツァルカのみだ』
紙にはそう書かれていた。
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