碧き舞い花
293:ケン・セイとシオウ
物語は遡り。
評議会に闘気を広めたのはケン・セイだった。
ケン・セイは闘気を評議会で教えるとき、最初に『全ての戦闘技術の基盤となるもので、戦いに身を置く者が最初に学ぶべきもの』という旨の説明をした。
だから、評議会に参加している戦士たちは大抵、闘気術を心得ている。
しかし、セラはそれを聞いたとき疑問に思った。戦いを学び出したばかりの彼女に、どうしてケン・セイはこの技術が教えてくれなかったのか。そもそもイソラやゼィロスでさえ知らなかったということを。
彼女がケン・セイの話を聞いたのは、異空巡りをはじめて二年経つか経たないかといった、あらゆる世界の知識はすでに多く得ていた頃だった。それなのに、どこの世界でも闘気のことを聞いたことがなかったのだ。
当時、そのことを彼女が尋ねると、ケン・セイは先のない左肩を擦って応えてくれた。
その左腕を斬り落とした男、彼の師シオウ・ヴォナプスとのことを。闘気術を生み出した男との話を。
若き日のケン・セイ青年はヒィズルを出て武者修行をしていたという。そこで出会ったのがシオウだ。若くしてヒィズルで敵なしの剣術使いとなった彼は、外の世界にすら敵はいないだろうと思い上がっていた。
そんな折の出会いだったという。
自慢の剣術で戦いを挑んだケン・セイ。しかし武器も持たぬその男に呆気なく敗北した。その時に言われた言葉は今でも彼の心に強く刻まれているものとなっている。
『武器を強さと勘違いする者は弱者なり。強さは己にこそ宿り、武器は己を発揮する道具にすぎぬ』
これに彼の解釈が加わり、『武器は己、刀は己の一部』という言葉となって弟子への教えとなっているのだ。
敗北したケン・セイはシオウに教えを乞うた。しかしシオウは弟子を取る気はなく、自分を極めることだけに興味がある男だった。当時はまだ闘気術も未完成な上に、技術を記した書物を残そうともしなかった。これが技術が広まらなかった理由だった。
結果としてケン・セイには教えたわけだが、それも簡単なことではなかった。
何度も何度も頭を下げ教えを受けることを望んだケン・セイを鬱陶しく思ったシオウは、ケン・セイが二度と戦えないようにと利き腕、左腕を斬り落としたのだ。これで自身に付きまとうことはなくなるだろうと。
だがケン・セイは諦めず、執念を燃やした。その強さを求める姿にシオウは自分を重ねたのか、「教える気はない。勝手に盗んでいけ」と彼の追随を許したのだという。
この「勝手に盗んでいけ」という言葉は、後に師の立場となったケン・セイの「見て学べ」という姿勢を生み出したものだった。
こうしてシオウの弟子となったケン・セイ青年は師の動きを見て学び、闘技の腕を磨いていった。
そもそも心得ていた剣術も合わせ、ケン・セイが徐々に闘技を自分のものへと昇華していった頃、シオウは闘気術を完成させた。その頃になると二人には絆が生まれていて、闘気は二人だけ、師弟の絆としての技術となった。
それ故に、ケン・セイも今まで誰にも伝承することがなかったのだ。
物語は現在に戻る。
セラとケン・セイの組手はあまりの激しさに、剣とナパードなしで戦えるかという確認の域を超えたと判断され、ゼィロスによって止められた。
「セラは三日後にフェリ・グラデムへの潜入を開始する。ケン・セイは明日にはスウィン・クレ・メージュだ、よく休んでおけ」
というゼィロスの言葉を最後に訓練場に集まっていた人々は解散していった。
汗の滴るセラに、まだまだ余裕を残したケン・セイが話し掛けてきた。憤りと懇願の入り混じった声色だった。
「『夜霧』、なぜ闘気、知る。探ってくれ」
「そういえば、ケン・セイのお師匠さんも誰にも教えてないって言ってたんだよね」
ケン・セイは約二年前に闘気を評議会で教えようと思い立ち、その旨を師に尋ねるため、シオウのもとに出向いていた。その時シオウはとっくにケン・セイが約束を破り、闘気を広めているのではと、二人は一戦交えたらしかった。『夜霧』が闘気を使っているということがシオウの耳にも入っていたからだ。
そう、『夜霧』は闘気を使っている。
それをセラも四年前に、あろうことかケン・セイの世界であるヒィズルで体験していたのだ。
求血姫ルルフォーラが彼女の肋骨周辺に負わせた打撲。当時は理由が分からなったが、あれは力を迸らせる、放出の技術を用いたことで実現した強打だったのだ。
「それなのに『夜霧』が闘気を使ってる」
「そうだ。コクスーリャ、怪しい」
評議会が集めた情報では彼は拳闘使いだと判明している。武器を使わずに戦い、今では部隊長となっている実力者だ。闘気を『夜霧』に持ち込んだ可能性は大いにあると考えられる。
「わかった。出来たらだけど、探ってみる」
「頼んだ。シオウとの約束、汚すこと許さん」
評議会に闘気を広めたのはケン・セイだった。
ケン・セイは闘気を評議会で教えるとき、最初に『全ての戦闘技術の基盤となるもので、戦いに身を置く者が最初に学ぶべきもの』という旨の説明をした。
だから、評議会に参加している戦士たちは大抵、闘気術を心得ている。
しかし、セラはそれを聞いたとき疑問に思った。戦いを学び出したばかりの彼女に、どうしてケン・セイはこの技術が教えてくれなかったのか。そもそもイソラやゼィロスでさえ知らなかったということを。
彼女がケン・セイの話を聞いたのは、異空巡りをはじめて二年経つか経たないかといった、あらゆる世界の知識はすでに多く得ていた頃だった。それなのに、どこの世界でも闘気のことを聞いたことがなかったのだ。
当時、そのことを彼女が尋ねると、ケン・セイは先のない左肩を擦って応えてくれた。
その左腕を斬り落とした男、彼の師シオウ・ヴォナプスとのことを。闘気術を生み出した男との話を。
若き日のケン・セイ青年はヒィズルを出て武者修行をしていたという。そこで出会ったのがシオウだ。若くしてヒィズルで敵なしの剣術使いとなった彼は、外の世界にすら敵はいないだろうと思い上がっていた。
そんな折の出会いだったという。
自慢の剣術で戦いを挑んだケン・セイ。しかし武器も持たぬその男に呆気なく敗北した。その時に言われた言葉は今でも彼の心に強く刻まれているものとなっている。
『武器を強さと勘違いする者は弱者なり。強さは己にこそ宿り、武器は己を発揮する道具にすぎぬ』
これに彼の解釈が加わり、『武器は己、刀は己の一部』という言葉となって弟子への教えとなっているのだ。
敗北したケン・セイはシオウに教えを乞うた。しかしシオウは弟子を取る気はなく、自分を極めることだけに興味がある男だった。当時はまだ闘気術も未完成な上に、技術を記した書物を残そうともしなかった。これが技術が広まらなかった理由だった。
結果としてケン・セイには教えたわけだが、それも簡単なことではなかった。
何度も何度も頭を下げ教えを受けることを望んだケン・セイを鬱陶しく思ったシオウは、ケン・セイが二度と戦えないようにと利き腕、左腕を斬り落としたのだ。これで自身に付きまとうことはなくなるだろうと。
だがケン・セイは諦めず、執念を燃やした。その強さを求める姿にシオウは自分を重ねたのか、「教える気はない。勝手に盗んでいけ」と彼の追随を許したのだという。
この「勝手に盗んでいけ」という言葉は、後に師の立場となったケン・セイの「見て学べ」という姿勢を生み出したものだった。
こうしてシオウの弟子となったケン・セイ青年は師の動きを見て学び、闘技の腕を磨いていった。
そもそも心得ていた剣術も合わせ、ケン・セイが徐々に闘技を自分のものへと昇華していった頃、シオウは闘気術を完成させた。その頃になると二人には絆が生まれていて、闘気は二人だけ、師弟の絆としての技術となった。
それ故に、ケン・セイも今まで誰にも伝承することがなかったのだ。
物語は現在に戻る。
セラとケン・セイの組手はあまりの激しさに、剣とナパードなしで戦えるかという確認の域を超えたと判断され、ゼィロスによって止められた。
「セラは三日後にフェリ・グラデムへの潜入を開始する。ケン・セイは明日にはスウィン・クレ・メージュだ、よく休んでおけ」
というゼィロスの言葉を最後に訓練場に集まっていた人々は解散していった。
汗の滴るセラに、まだまだ余裕を残したケン・セイが話し掛けてきた。憤りと懇願の入り混じった声色だった。
「『夜霧』、なぜ闘気、知る。探ってくれ」
「そういえば、ケン・セイのお師匠さんも誰にも教えてないって言ってたんだよね」
ケン・セイは約二年前に闘気を評議会で教えようと思い立ち、その旨を師に尋ねるため、シオウのもとに出向いていた。その時シオウはとっくにケン・セイが約束を破り、闘気を広めているのではと、二人は一戦交えたらしかった。『夜霧』が闘気を使っているということがシオウの耳にも入っていたからだ。
そう、『夜霧』は闘気を使っている。
それをセラも四年前に、あろうことかケン・セイの世界であるヒィズルで体験していたのだ。
求血姫ルルフォーラが彼女の肋骨周辺に負わせた打撲。当時は理由が分からなったが、あれは力を迸らせる、放出の技術を用いたことで実現した強打だったのだ。
「それなのに『夜霧』が闘気を使ってる」
「そうだ。コクスーリャ、怪しい」
評議会が集めた情報では彼は拳闘使いだと判明している。武器を使わずに戦い、今では部隊長となっている実力者だ。闘気を『夜霧』に持ち込んだ可能性は大いにあると考えられる。
「わかった。出来たらだけど、探ってみる」
「頼んだ。シオウとの約束、汚すこと許さん」
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
4
-
-
768
-
-
361
-
-
89
-
-
2265
-
-
125
-
-
238
-
-
549
-
-
337
コメント