碧き舞い花

御島いる

290:草花の芳香漂う部屋

 スウィ・フォリクァの居住区は、卵型の建物が数件ずつまとまり、いくつもの群れを成している。卵の大きさは大小さまざまで、単身から複数人が暮らせる家屋が揃っている。
 そんな居住区へ着くと三人はいくつかの空き家を回った。そうしてヒュエリとユフォンが住処を決めると、セラは自分の部屋に戻り伯父を待つことにした。
「ユフォンは荷物持ってこなくていいの?」
 草花の匂いが薄っすらとする自室へ入ったセラは、連れ立った筆師に訊いた。ヒュエリは決まった新居に必要なものを取りに、一度ホワッグマーラに戻ったのだった。
「僕の部屋、もちろんホワッグマーラの方。ほら、全部流されちゃったからね、ははっ」
「……ごめんね」
 自分たちが液状人間から逃れるために選んだ場所。壊したのはヌーミャル・コーズだが、彼女は自身を責める。
「謝らなくっていいよ。マグリアで無事だった家なんて、最終的には三分の一もないだろう? それに、僕には紙と筆があれば充分。……あと、セラ」
「……ありがと」微笑むセラ。「でも、最後のは、今はいらなかったかも」
「えっ、そうかい? その割には嬉しそうな顔してるよ?」
「嬉しいのはそうだけど、もう伯父さんと『闘技の師範』が近くに来てるから、聴かれてたらって思うとちょっと恥ずかしい」
「あ、ははっ。そっか、じゃあまたあとで、って言っても、君はこれから仕事なんだよね。長くなるかい?」
「たぶん。潜入して情報を探るから。前に同じようなことをイソラとしたことがあるけど、あのときは長かった」
「そっか。でも一人で行くんだよね。ってことはズィプも君と会えないってことだ」
「そういうことになるね」
「ちょっとホッとした。ところでズィプは? まだマグリア?」
「うーん……」セラはスウィ・フォリクァ中に意識を向けた。するとすぐに、近くに目当ての気配を見つけた。「もう、帰ってるみたい。四つ隣の家がズィーの家。あとで行ってみたら?」
「分かった。行ってみるよ」
 とそこへ彼女の家の扉を叩く音が数回。
 セラは応える。「入っていいよ、伯父さん、ケン・セイ」
 彼女にとって、誰が来たのかを尋ねることは意味を持たない。扉を叩く前にはその鋭い感覚で判明しているのだから。
「ユフォン悪いが……」
 入ってくるなり、ゼィロスは筆師に向かって口を開いた。彼もまたその感覚で部屋に誰がいるのか前もって分かっているのだ。
「ははっ、第三位の僕はやっぱり駄目ですよね。すぐ出てます」とユフォンはゼィロスに向かって言うと、早々と扉まで移動しセラに手を振って去って行った。「早速ズィプのところに行ってくるよ」
「評議会のことも話してあったか」閉まった扉を見てゼィロスが言った。「話が早くて助かる。確か彼は筆師だったな。後々には評議記録を取ってもらうことを考えて、ジュンバーの補佐につけてみるか」
「ほんと? ユフォン喜ぶよ、役に立てることがあるなら」
「信頼も高いようだしな。ズィーと彼、どっちがより親密なんだ?」
「っ、お、伯父さん……やっぱ、聴こえてたんだ」
「向かう先、セラいなくては、手間。確認した」
「ケン・セイまで……」
「ふっ、俺たちはお前の師だが、そういうことまであれこれ言うつもりはない。お前の好きなようにな」
「イソラ、テム、なかなか進まん」と面白くなさそうな声で言うケン・セイ。
「ケン・セイは色々言いそうなんだけど……?」
 セラは小さくため息を吐き、二人の師を椅子に勧めた。自分はオーウィンを傍らに置き、ベッドに座った。
「次の任務の話だよね? フェリ・グラデムの番狂わせがどうやって起こるのかって」
「ああ」
「じゃあなんでケン・セイが? カッパとの任務でしょ?」
「そのことも今回の任務に関わることなんだ。だがまずは番狂わせの話だ」
「うん、わかった」
 頭に疑問符を残しながらも、セラは話を聞く態勢に入るのだった。

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