碧き舞い花
284:訊きたいこと
「さっき話してた、古くから存在する一族のこと。訊きたい」
セラはホワッグマーラで初めて耳にした話が気になっていた。エレ・ナパスにいたときも、伯父本人からも、四年の旅の中でもそういった一族がいるということを訊いたことがなかったからだ。
「それとも、秘密にするべきこと?」
「それなら、あの場で話したりしないさ」
「やった」セラは前傾する。
「あの場で話したことはいいとして、そうだな、まずは何から話そうか……」
「名前。なんて一族なの?」
「名前か……ナパスの民のように言えば、トラセスの民だが、彼らはあまりに秘密主義の一族でな、実際は彼らの呼称はないというべきだろう。古い文献にすら名前は残っていない」
「トラセスの民……トラセードをする者、ってこと? トラセードって? 造語だよね。トラセタからきてるの? それで、異空を渡る・渡界術をもじって……意味は、空間を渡る? それって一つの世界でのナパードと一緒?」
セラは一人でそこまで考えると、姪のそんな姿を優しく見守っていた伯父に答えを求めるようにサファイアを向けた。
「まあ、認識を統一するための造語だ、深い意味はない。そして単一世界でのナパードと一緒というのはいい目の付け所だ。彼らが用いる技術、お前が言った通りトラセードと呼ぶものは、一種の瞬間移動術。悪く言えばナパードの劣化版とも取れるものなんだ。ホワッグマーラで言ったろ、並び準ずると。同等と捉えてもいいが、この場合は次位と捉えるべきだな。古くを辿ればナパスの分家ということも分かっている」
「分家……」
「その証拠に、ナパスの民はトラセードを学び習得することが出来るが、トラセスの民にナパードを習得することは出来ない。トラセードはナパードの子どものようなものと考えるといい」
「伯父さんも使えるの?」
ここまで話すのだから伯父も使えて、あわよくば自分も学ぼうとセラは考えた。また一つ自分を高めようと。
しかし伯父は首を横に振った。
「いいや、俺は出来ない。今、彼らを探し出し、評議会への参加要請と、トラセードの教えを受けようと考えてるくらいだ」
「でもナパスの民は使えるって、今。子どものころナパード以外の瞬間移動なんて見たことないし、どうしてナパスの民が使えるって知ってるの? それも古い文献?」
「違う。エァンダが彼らと繋がっているんだ。昔、俺は彼らの存在を調べて知っていたが、すでにナパスとの交流はなく、滅んだのではとも考えていた。ビズがエァンダからトラセードを教わったことで、姿を現さないだけで、今も存在しているのだと知ったんだ」
「エァンダとビズ兄様が使えた技……一種の瞬間移動……」
セラの中には思い当たるものがあった。エレ・ナパスで目撃し、ビュソノータスで体験した出来事。時が止まったかのように感じ、理解できぬ間に敵との距離を取ったあの技術。
「あれかな……」
「ん? 心当たりがあるのか?」
「うーん、どうだろう」
「彼らか、エァンダに確かめる必要があるようだな」
「さっき探してるって言ったけど、すぐ見つかる?」
「それならすでに彼らが仲間になっているか、俺がトラセードを使えているだろう。難航だ。俺が彼らが見つけるのが先か、サパルがエァンダを見つけるのが先かだな」
「そっか、じゃあ、お預けか」
セラは身を退き、背もたれにだらりと寄りかかった。
「そうだな。……もっと詳しく知りたければ、俺が持っている彼らに関する文献を読むといい。彼らの行なった実験なんかも知れる」
「うん、後で見てみる」
「もういいか? 大丈夫なら評議の招集をかけるが」
言いながら椅子から立ち上がろうとするゼィロス。だが、セラはそれを止めた。「待って。もう一個」
セラはホワッグマーラで初めて耳にした話が気になっていた。エレ・ナパスにいたときも、伯父本人からも、四年の旅の中でもそういった一族がいるということを訊いたことがなかったからだ。
「それとも、秘密にするべきこと?」
「それなら、あの場で話したりしないさ」
「やった」セラは前傾する。
「あの場で話したことはいいとして、そうだな、まずは何から話そうか……」
「名前。なんて一族なの?」
「名前か……ナパスの民のように言えば、トラセスの民だが、彼らはあまりに秘密主義の一族でな、実際は彼らの呼称はないというべきだろう。古い文献にすら名前は残っていない」
「トラセスの民……トラセードをする者、ってこと? トラセードって? 造語だよね。トラセタからきてるの? それで、異空を渡る・渡界術をもじって……意味は、空間を渡る? それって一つの世界でのナパードと一緒?」
セラは一人でそこまで考えると、姪のそんな姿を優しく見守っていた伯父に答えを求めるようにサファイアを向けた。
「まあ、認識を統一するための造語だ、深い意味はない。そして単一世界でのナパードと一緒というのはいい目の付け所だ。彼らが用いる技術、お前が言った通りトラセードと呼ぶものは、一種の瞬間移動術。悪く言えばナパードの劣化版とも取れるものなんだ。ホワッグマーラで言ったろ、並び準ずると。同等と捉えてもいいが、この場合は次位と捉えるべきだな。古くを辿ればナパスの分家ということも分かっている」
「分家……」
「その証拠に、ナパスの民はトラセードを学び習得することが出来るが、トラセスの民にナパードを習得することは出来ない。トラセードはナパードの子どものようなものと考えるといい」
「伯父さんも使えるの?」
ここまで話すのだから伯父も使えて、あわよくば自分も学ぼうとセラは考えた。また一つ自分を高めようと。
しかし伯父は首を横に振った。
「いいや、俺は出来ない。今、彼らを探し出し、評議会への参加要請と、トラセードの教えを受けようと考えてるくらいだ」
「でもナパスの民は使えるって、今。子どものころナパード以外の瞬間移動なんて見たことないし、どうしてナパスの民が使えるって知ってるの? それも古い文献?」
「違う。エァンダが彼らと繋がっているんだ。昔、俺は彼らの存在を調べて知っていたが、すでにナパスとの交流はなく、滅んだのではとも考えていた。ビズがエァンダからトラセードを教わったことで、姿を現さないだけで、今も存在しているのだと知ったんだ」
「エァンダとビズ兄様が使えた技……一種の瞬間移動……」
セラの中には思い当たるものがあった。エレ・ナパスで目撃し、ビュソノータスで体験した出来事。時が止まったかのように感じ、理解できぬ間に敵との距離を取ったあの技術。
「あれかな……」
「ん? 心当たりがあるのか?」
「うーん、どうだろう」
「彼らか、エァンダに確かめる必要があるようだな」
「さっき探してるって言ったけど、すぐ見つかる?」
「それならすでに彼らが仲間になっているか、俺がトラセードを使えているだろう。難航だ。俺が彼らが見つけるのが先か、サパルがエァンダを見つけるのが先かだな」
「そっか、じゃあ、お預けか」
セラは身を退き、背もたれにだらりと寄りかかった。
「そうだな。……もっと詳しく知りたければ、俺が持っている彼らに関する文献を読むといい。彼らの行なった実験なんかも知れる」
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