碧き舞い花
266:みんなで取り戻す
浸透はされていない。
剣の精であるドードはもとより浸透されないが、この状況で自分が平気ならズィーも大丈夫だろうと激流の中で考えるセラ。
上下左右が認識できないほど高速で変わっていく。そんな中でも遊歩の教えやこれまでの経験がある彼女は冷静だった。
三人がバラバラになれば浸透こそされずとも、圧倒的な数の差に太刀打ちできなくなる。どうにか集合しなければならない。回転する世界で超感覚と気読術を総動員させる。
――見つけたっ!
身体が触れればいい。それだけを考えて、見つけた仲間の気配へと跳ぶ。
まずはドードだ。流される勢いを残したままぶつかる。衝撃は強く、ぶつかった瞬間に身体が離れてしまった。近場だが、再度彼へと跳んだ。
繰り返すこと二回。三度目の正直だった。彼に触れた瞬間、安全地帯へと戻った。マグリアの中ではズィーを回収する前に一人残ったドードが狙われる可能性があるからだ。
長閑な森にびっしょりの二人が倒れ込む。ドードを見やると意識がなかった。
突然のことに、ユフォンをはじめとした周りの人々がぎょっとしたが、セラはすかさずユフォンに言う。
「ユフォン、お願い」
そして答えを聞くことなく、独り跳び戻った。
ドードはすでに多く水を呑み込み、気を失っていた。大きな状況の変化に対する適応が三人の中で一番疎いと考え、ズィーよりも先に助けに向かったがそれでも遅かったらしい。
――ズィーは……。
二人目となればセラも慣れたもの。すぐに彼に触れ、再び森の中へ。
「ズィーっ!」
「うぅ……」
彼は気絶していなかった。だが、激しく水に揉まれるなかで家具か柱か、何かしらの鋭い木片が腹部に刺さっていた。運悪く、ちょうど雲海織りの衣服が捲り上がったところに直撃したらしい。
「うわ、これは酷い。セラ、一体何が……」
ユフォンがドードのもとから離れ、二人のもとへ来た。
「わたしが抜くから、治癒のマカをっ」
「もちろん」
セラはズィーの木片を抜きにかかる。
「我慢してね、ズィー」
「がぁああっ……」ゆっくりと赤々とした体液を纏った木片が抜かれる。「ああっ!」
全て抜き終えると、荒い鼻息で呼吸で痛みに耐える『紅蓮騎士』。治癒をはじめた筆師の腕をがしっと掴む。
「すぐ、塞いでくれ、ユフォン! すぐ、戻るぞ……!」
「今やってるよ。落ち着いて!」
「お願いね、ユフォン。わたしは戻る」
「セラ!」その場を離れようとしたセラをズィーが呼び止める。「戻るってもよ、どうすんだ。あの雨ん中じゃあいつが有利だろ」
「分かってるよ。でも、行かないと」
「……」
すぐに動けない自分を悔やんでいるのか、苦い顔で押し黙るズィー。
そこへ司書の声。「セラちゃん」
小さなヒェエリが駆け寄って来た。
「今、連絡をしようと思っていたところです。ごめんなさい、もっと早く終われば……」
涙寸前の目でズィーとドードを見やるヒュエリ。そんな彼女に、セラ視線を合わせるように脚を折り、首を横に振った。
「ヒュエリさんだから一気にできたんです。遅いだなんて言わないでください。ここからはわたしに任せてください」
「セラちゃん……」
「俺たちだけどな。俺もすぐ行く」
「そうだよ。みんなも準備万端だしね」
ズィプに治癒を施しながらユフォンが言って視線を向けたのは、魔闘士たちの集団だった。ヒュエリが遂行した作戦が実れば、彼らにも出番がやってくる。
一つの目的に向かって心を燃やす彼らの想いも忘れてはいけない。みんなホワッグマーラを取り戻したいのだ。
「うん」
セラはズィー、ユフォン、ヒュエリの三人に強く頷いてから碧き花を散らした。
乾き始めていた雲海織りが、またずぶ濡れになる。水分を含んだ白銀の髪は顔に張り付く。
セラは魔導書館の屋上に立ち、街を見下ろす。
彼女たちがいなくなったことでわずかだが弱まった雨。噴水広場の辺りに人だかりはない。だが敵も戦いが終わったとは思っていないのだろう。
尖塔を有する屋根を囲う細い通路。彼女から少しばかり離れたところで、いくつかの雨粒が一つにまとまり始めていた。
ただの水の塊。
そこから一人の人物が出てきた。
「どうしてドルンシャ帝じゃないの? もしかしてドルンシャ帝に抵抗されてうまく操れてないとか。ううん、本体でやっと抑え込めるってことだったりして」セラはその人物の方を向く。「あの人も天才だし。……だからってブレグさんが弱いってことでもないけど」
水塊より姿を現した屈強な肉体の魔闘士の目を、その奥に液状人間を思い描きながら睨むセラ。
「やはり、すでに俺の能力もばれているようだな」ブレグ隊長の口を使い、液状人間が言う。「が、だ。俺が出ていくまでもない、そう言ったはずだぞ?」
「さっきから俺、俺言ってるけど、ドルンシャ帝はお前じゃない」
オーウィンを抜くセラ。
「何度も言わせるな。この世界が俺だ」
「今に終わるわ、お前の支配も」
セラがオーウィンを構えると、ブレグも腰の剣を抜いた。
「無理だな」
剣の精であるドードはもとより浸透されないが、この状況で自分が平気ならズィーも大丈夫だろうと激流の中で考えるセラ。
上下左右が認識できないほど高速で変わっていく。そんな中でも遊歩の教えやこれまでの経験がある彼女は冷静だった。
三人がバラバラになれば浸透こそされずとも、圧倒的な数の差に太刀打ちできなくなる。どうにか集合しなければならない。回転する世界で超感覚と気読術を総動員させる。
――見つけたっ!
身体が触れればいい。それだけを考えて、見つけた仲間の気配へと跳ぶ。
まずはドードだ。流される勢いを残したままぶつかる。衝撃は強く、ぶつかった瞬間に身体が離れてしまった。近場だが、再度彼へと跳んだ。
繰り返すこと二回。三度目の正直だった。彼に触れた瞬間、安全地帯へと戻った。マグリアの中ではズィーを回収する前に一人残ったドードが狙われる可能性があるからだ。
長閑な森にびっしょりの二人が倒れ込む。ドードを見やると意識がなかった。
突然のことに、ユフォンをはじめとした周りの人々がぎょっとしたが、セラはすかさずユフォンに言う。
「ユフォン、お願い」
そして答えを聞くことなく、独り跳び戻った。
ドードはすでに多く水を呑み込み、気を失っていた。大きな状況の変化に対する適応が三人の中で一番疎いと考え、ズィーよりも先に助けに向かったがそれでも遅かったらしい。
――ズィーは……。
二人目となればセラも慣れたもの。すぐに彼に触れ、再び森の中へ。
「ズィーっ!」
「うぅ……」
彼は気絶していなかった。だが、激しく水に揉まれるなかで家具か柱か、何かしらの鋭い木片が腹部に刺さっていた。運悪く、ちょうど雲海織りの衣服が捲り上がったところに直撃したらしい。
「うわ、これは酷い。セラ、一体何が……」
ユフォンがドードのもとから離れ、二人のもとへ来た。
「わたしが抜くから、治癒のマカをっ」
「もちろん」
セラはズィーの木片を抜きにかかる。
「我慢してね、ズィー」
「がぁああっ……」ゆっくりと赤々とした体液を纏った木片が抜かれる。「ああっ!」
全て抜き終えると、荒い鼻息で呼吸で痛みに耐える『紅蓮騎士』。治癒をはじめた筆師の腕をがしっと掴む。
「すぐ、塞いでくれ、ユフォン! すぐ、戻るぞ……!」
「今やってるよ。落ち着いて!」
「お願いね、ユフォン。わたしは戻る」
「セラ!」その場を離れようとしたセラをズィーが呼び止める。「戻るってもよ、どうすんだ。あの雨ん中じゃあいつが有利だろ」
「分かってるよ。でも、行かないと」
「……」
すぐに動けない自分を悔やんでいるのか、苦い顔で押し黙るズィー。
そこへ司書の声。「セラちゃん」
小さなヒェエリが駆け寄って来た。
「今、連絡をしようと思っていたところです。ごめんなさい、もっと早く終われば……」
涙寸前の目でズィーとドードを見やるヒュエリ。そんな彼女に、セラ視線を合わせるように脚を折り、首を横に振った。
「ヒュエリさんだから一気にできたんです。遅いだなんて言わないでください。ここからはわたしに任せてください」
「セラちゃん……」
「俺たちだけどな。俺もすぐ行く」
「そうだよ。みんなも準備万端だしね」
ズィプに治癒を施しながらユフォンが言って視線を向けたのは、魔闘士たちの集団だった。ヒュエリが遂行した作戦が実れば、彼らにも出番がやってくる。
一つの目的に向かって心を燃やす彼らの想いも忘れてはいけない。みんなホワッグマーラを取り戻したいのだ。
「うん」
セラはズィー、ユフォン、ヒュエリの三人に強く頷いてから碧き花を散らした。
乾き始めていた雲海織りが、またずぶ濡れになる。水分を含んだ白銀の髪は顔に張り付く。
セラは魔導書館の屋上に立ち、街を見下ろす。
彼女たちがいなくなったことでわずかだが弱まった雨。噴水広場の辺りに人だかりはない。だが敵も戦いが終わったとは思っていないのだろう。
尖塔を有する屋根を囲う細い通路。彼女から少しばかり離れたところで、いくつかの雨粒が一つにまとまり始めていた。
ただの水の塊。
そこから一人の人物が出てきた。
「どうしてドルンシャ帝じゃないの? もしかしてドルンシャ帝に抵抗されてうまく操れてないとか。ううん、本体でやっと抑え込めるってことだったりして」セラはその人物の方を向く。「あの人も天才だし。……だからってブレグさんが弱いってことでもないけど」
水塊より姿を現した屈強な肉体の魔闘士の目を、その奥に液状人間を思い描きながら睨むセラ。
「やはり、すでに俺の能力もばれているようだな」ブレグ隊長の口を使い、液状人間が言う。「が、だ。俺が出ていくまでもない、そう言ったはずだぞ?」
「さっきから俺、俺言ってるけど、ドルンシャ帝はお前じゃない」
オーウィンを抜くセラ。
「何度も言わせるな。この世界が俺だ」
「今に終わるわ、お前の支配も」
セラがオーウィンを構えると、ブレグも腰の剣を抜いた。
「無理だな」
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