碧き舞い花

御島いる

262:帝、天才、英雄。

 復帰直後のセラはトゥウィントで『竜宿し』の解毒剤を調達した。そして作戦会議だ。
 会議は広場の隅でヒュエリとクラスタスを筆頭に少人数で行われた。そこにはヨルペン帝は含まれていない。わたしはセラフィさんを信じます、とだけ言って、わずかに晴れやかになったように見える笑顔で今も人々に励ましの言葉を投げかけている。
「まずセラちゃんに報告です」ヒュエリが開口一番。「ドルンシャ帝……液状人間の本体の居場所が分かりました」
「天下取って余裕こいたんだろ。マグリアの帝居で普通に暮らし始めたんだよ、あいつ」
 ズィーが言うとクラスタスが少々怒気を込めて短く言う。「天下は取らせてないぞ、ズィプくん」
「ぁ……」
「ぷっ、怒られてんの、ズィプ。ははははは」
 こうして場違いに笑うのは天才、フェズルシィ・クロガテラーだ。別段触れてこなかったが、彼は液状人間に浸透されていなかったのだ。それではなぜ今まで姿を見せなかったのか。一応書いておくと、今現在セラたちのいる安全地帯は、元々未開の地だった場所にフェズが結界を張ったことで作られた場所なのだ。そしてここが、以前ヒュエリ司書が説明した異世界との行き来を限定した場所。それもこれもフェズルシィの莫大な魔素とヒュエリのマカ技術を吸収する早さがあったからこそ。やっぱ書くんじゃなかった、天才め……。失礼、ははっ!
「んん゛、余裕ぶっているかは分かりませんが、ホワッグマーラを完全に乗っ取るということは、違和感なく以前のホワッグマーラを再現するということなんでしょう。だから、彼本体ではない操られた人々もホーンノーレン襲撃後から普段通りの生活をしています」
「なあ、司書様」ズィーを笑うのに飽きたのか、すっと真顔でヒュエリに訊くフェズ。「次は俺も出ていいよな? こんなに人いたんじゃ練習できないし」
「えっと、練習云々ではなく、フェズくんがいなくなったら皆さんが獣に襲われてしまうじゃないですか。ダメですよ」
 司書の言う獣とはホワッグマーラの未開の地に生息する魔素に当てられた生物のことだ。決して野犬や熊などのかわいいものではない。
「大丈夫だろ、魔闘士いっぱいいるし。俺一人の壁も破れない獣だぞ?」
「君の結界だから破れないんだろ、まったく」とユフォン。「フェズはまた留守番だよ」
「やだ」
「やだって……もう。作戦の話ができないじゃないか、大人しくしていておくれよ」
「やだ」透き通った蒼い瞳が青く縁取られた瞳を見る。「なぁ、大丈夫だろ、クラスタス。あんたもいるし、あそこで寝てるのノルウェインだし」
 言って彼が指をさすのは多くも魔闘士たちが休息している一帯。魔闘士たちは交代で一般市民の様子を見て回っている。その様子はただただ単純作業を繰り返す機械のようで、ホーンノーレンを守れなかったことを引きずっている者が多いようだった。ただ、ノルウェインの場合はそういった理由で寝込んでいるわけではない。彼は浸透操作から解放されたのち、未だに目覚めていないのだ。
 ユフォンはフェズの腕を引きながら言う。「クラスタスさん、相手にしなくていいですから」
「……」さすがの英雄も呆然か、そう思われたが放たれた言葉は皆の予想外のものだった。「いいだろう。この地は俺を含め、多くの魔闘士が守ろう。Mr.クロガテラー」
 フェズは「やった」と小さく拳を握る。英雄と天才を除いた会議参加者は唖然だ。
「クラスタスさん!?」と頓狂に驚くのはユフォンとヒュエリの師弟だ。
「ただし」芯ある声に皆が注目する。「障壁のスペシャリストであるノルウェインが目覚めたらだ。約束できるか?」
「ん~ん、しょうがないな。出られないよりいい」
「よし。では会議をはじめよう」
 納得したフェズルシィは以降口を挟むことなく、会議は順調に進んでいった。
 実際にフェズが戦いの場に出れば多いな戦力となる。それで困ることはない。だが会議が行えないとなるとそれはそれで困る。
 クラスタスの約束は会議をはじめるための嘘だったのではと、あまりにも快調な会議の進行に、心の中で苦笑したセラだった。

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