碧き舞い花
243:竜人は何を語る
「勝手は困るぞ、ズィプ」
虹架諸島観察守護団対反社会勢力班班長室。
よく整理されたその部屋でズィーに苦言を呈すのは、竜人の中でも飛び抜けて逞しい体、厳つい顔を持つ男だった。
「だってよ、行く前にここに来たけど、いなかったじゃんデラバン」
ズィーは元に戻った瞳で竜人を見た。
そう、この人物こそデラバン・シュ・ノーリュアだ。この世界でズィーの一番の知人にして、彼に竜化の術を教えた当人だ。
「そこでどうして待つという選択肢を取れない」
「いいじゃん、ジュサ捕まえられたろ?」
「そのことも手放しに感謝できんがな……」
「?」
ズィーは訝し気な表情を見せたが、デラバンは話を先に進める。
「で、どうしてグラド一家に喧嘩を売る必要があったんだ、お前に」
「別に喧嘩売ったわけじゃねえよ。竜毒が必要だった。それも大量に」
「『逆鱗花の葉』と別ものと分かっての言動だろうな?」デラバンが凄む。「場合によってはお前を処罰しないといけなくなる」
「待ってください。そこはわたしが説明します」
セラは半ば慌てて会話に混じる。
「君はセラだったな。分かった、話してくれ」
頷き、セラはホワッグマーラで起きていることを、手短に、かつ竜毒に関する部分をしっかりと説明した。デラバンは口を挟まず聴いていた。
「ホワッグマーラが……。そういうことか。君がいてよかった、セラ。ズィプではここまでの説明ができたかどうか」
「なんだとぉ、デラバン」
吠えるズィーだが、二人は相手にしなかった。
「よし、俺たちが押収し、保管している竜毒を使えるかどうか、団長に掛け合ってみよう」
「本当ですか!」
「ああ。もちろん許可が下りればだが……まあ、団長のことだ、期待していていいぞ。娘さんの知り合いの頼みとなれば、さらにな」
「はい……え?」
娘の知り合いとは誰のことだろうとセラは首を傾げ、尋ねるような視線をズィーに向けるが首を傾げられた。彼のことではないらしい。セラは問うようにデラバンにサファイアを向けた。
「シァンちゃんのことだ。血は繋がってないが、家族という言葉を体現したような親子だ、団長のとこは」
「そっか、だからシァンはここにいたんですね」用があるとどこかへ行ってしまったハーフの竜人娘を思い浮かべてセラは頷く。「お義父さんを訪ねて」
「よく来るぞ、あの子は。じゃあ、俺は団長のとこに。ズィプ、大人しくしてろよ」
「わーってるよ」
部屋を出て行こうとするデラバン。そこで思い出したように声を上げ、二人の渡界人に向き直った。
「そういえば、ジュサ・ノ・グラドに聞きたいことがあるんだったな。俺が団長と話してる間に聞くといい。ついて来い」
こうして二人は別室へと連行されていたジュサと再び相見えるのだった。
頑丈そうな手錠をはめられた赤髪の竜人は、牢の外を舐め回すように見る。そして、視線を二人の渡界人で止める。
「負けたんだ、アタイも情報を渡すことを渋ったりはしねえ。けどな、これはそこの渡界人二人に対してだ。守護団の奴らには出てってもらうよ。そうじゃなければ話さない」
牢屋の前には守護団の制服を着た竜人たちが、過剰なほど待機していた。それほどジュサが重要な人物だということだろう。
「みんな席を外せ」セラとズィーを連れてきたデラバンが言う。「この二人が捕まえてきたんだ。心配はいらない」
「ふん、話が分かるじゃないか、デラバン。そんなことしても、お前らの聴取に従順にはならないよ、アタイは」
「言っとけ。捕えたからには洗いざらい、情報を吐かせる。覚悟しとけ。俺はお前の父親ほど寛大じゃないから」
「はんっ、オヤジの何を知ってるんだかな」
「場合によってはお前以上に知ってるかもな。ほらみんな、出るぞ。セラ、部屋の外に一人待機させておくから、終わったら声をかけてくれ」
「分かりました。色々と、ありがとうございます」
部下を連れ立って、牢のある部屋を出ていくデラハン。それを見届けたジュサが口を開いた。
「さあ、何を聞きたいんだい?」
虹架諸島観察守護団対反社会勢力班班長室。
よく整理されたその部屋でズィーに苦言を呈すのは、竜人の中でも飛び抜けて逞しい体、厳つい顔を持つ男だった。
「だってよ、行く前にここに来たけど、いなかったじゃんデラバン」
ズィーは元に戻った瞳で竜人を見た。
そう、この人物こそデラバン・シュ・ノーリュアだ。この世界でズィーの一番の知人にして、彼に竜化の術を教えた当人だ。
「そこでどうして待つという選択肢を取れない」
「いいじゃん、ジュサ捕まえられたろ?」
「そのことも手放しに感謝できんがな……」
「?」
ズィーは訝し気な表情を見せたが、デラバンは話を先に進める。
「で、どうしてグラド一家に喧嘩を売る必要があったんだ、お前に」
「別に喧嘩売ったわけじゃねえよ。竜毒が必要だった。それも大量に」
「『逆鱗花の葉』と別ものと分かっての言動だろうな?」デラバンが凄む。「場合によってはお前を処罰しないといけなくなる」
「待ってください。そこはわたしが説明します」
セラは半ば慌てて会話に混じる。
「君はセラだったな。分かった、話してくれ」
頷き、セラはホワッグマーラで起きていることを、手短に、かつ竜毒に関する部分をしっかりと説明した。デラバンは口を挟まず聴いていた。
「ホワッグマーラが……。そういうことか。君がいてよかった、セラ。ズィプではここまでの説明ができたかどうか」
「なんだとぉ、デラバン」
吠えるズィーだが、二人は相手にしなかった。
「よし、俺たちが押収し、保管している竜毒を使えるかどうか、団長に掛け合ってみよう」
「本当ですか!」
「ああ。もちろん許可が下りればだが……まあ、団長のことだ、期待していていいぞ。娘さんの知り合いの頼みとなれば、さらにな」
「はい……え?」
娘の知り合いとは誰のことだろうとセラは首を傾げ、尋ねるような視線をズィーに向けるが首を傾げられた。彼のことではないらしい。セラは問うようにデラバンにサファイアを向けた。
「シァンちゃんのことだ。血は繋がってないが、家族という言葉を体現したような親子だ、団長のとこは」
「そっか、だからシァンはここにいたんですね」用があるとどこかへ行ってしまったハーフの竜人娘を思い浮かべてセラは頷く。「お義父さんを訪ねて」
「よく来るぞ、あの子は。じゃあ、俺は団長のとこに。ズィプ、大人しくしてろよ」
「わーってるよ」
部屋を出て行こうとするデラバン。そこで思い出したように声を上げ、二人の渡界人に向き直った。
「そういえば、ジュサ・ノ・グラドに聞きたいことがあるんだったな。俺が団長と話してる間に聞くといい。ついて来い」
こうして二人は別室へと連行されていたジュサと再び相見えるのだった。
頑丈そうな手錠をはめられた赤髪の竜人は、牢の外を舐め回すように見る。そして、視線を二人の渡界人で止める。
「負けたんだ、アタイも情報を渡すことを渋ったりはしねえ。けどな、これはそこの渡界人二人に対してだ。守護団の奴らには出てってもらうよ。そうじゃなければ話さない」
牢屋の前には守護団の制服を着た竜人たちが、過剰なほど待機していた。それほどジュサが重要な人物だということだろう。
「みんな席を外せ」セラとズィーを連れてきたデラバンが言う。「この二人が捕まえてきたんだ。心配はいらない」
「ふん、話が分かるじゃないか、デラバン。そんなことしても、お前らの聴取に従順にはならないよ、アタイは」
「言っとけ。捕えたからには洗いざらい、情報を吐かせる。覚悟しとけ。俺はお前の父親ほど寛大じゃないから」
「はんっ、オヤジの何を知ってるんだかな」
「場合によってはお前以上に知ってるかもな。ほらみんな、出るぞ。セラ、部屋の外に一人待機させておくから、終わったら声をかけてくれ」
「分かりました。色々と、ありがとうございます」
部下を連れ立って、牢のある部屋を出ていくデラハン。それを見届けたジュサが口を開いた。
「さあ、何を聞きたいんだい?」
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