碧き舞い花
241:竜人の特徴
「あいつ、ワィバー・ノ・グラドの娘だ」
ごくわずか残った竜人たちがジュサに場を譲るように退いていく中、ズィーがセラのもとへ来て言った。
「ジュサ・ノ・グラド。グラド一家の幹部の一人だ」
「さすが。そちらはよく勉強してるようだ。デラバンの入れ知恵か?」
ジュサが二人と同じ高さまで下降する。
「デラバンの名前出せば、竜毒分けてくれると思ったんだけど?」
「ふんっ、面白いことを言う男だ。アタイらがあの男を恐れているとでも?」
「言うこと聞くと思ったんだけどなぁ~」
「ッチ、能天気な奴め」
「……よく分かんないけど、最初から穏便に行くようなことじゃなかったんだね」
セラは呆れながらズィーに確認する。ズィーはそれに対して、惚けた顔で口の端を上げた。
小さく息を吐き、目の前の敵に集中するセラ。先程の雑魚たちとは違い、簡単にはいかない敵だろう。二対一になるであろう戦いの前だというのに、笑みを湛えている。腰に手を当てる佇まいは自らが上なのだと誇示するかのようだ。尻尾がリズムなくうねり動く。
ふと、セラは彼女から感じたことのあるような気配を感じ取った。だが、それが何か分かるほど彼女の気読術は熟練していなかった。竜人特有なもか、はたまた別のなにかか。
「んじゃ、グラド一家に歯向かったモンへの処罰を開始するか」
言ったジュサはその手に全身が白い、尻尾までを含めた身の丈ほどの大剣を現した。何もない空間から武器を取り出した彼女の指には、黒光りする指輪がはめられていた。
片手で軽々と大剣を振り上げると、肩に乗せる。竜人の膂力の賜物だろう。
「あの指輪、やっぱり『夜霧』と繋がりが」
セラが呟く。
黒光りする指輪は求血姫ルルフォーラが使っていたものと同じものだからだ。
「指輪だけで判断しちゃうのは、どうなんだい?」
「それが答えじゃない」
「まあ、そうだな。アタイらは『夜霧』と繋がってるよ。認めてやる」
「さっき部下にあんなこと言った割に、あっさり認めんのかよ?」
「アタイとあいつじゃ、やり取りの意味が違うんだよ、分かるか?」
フッと息を漏らすジュサ。
「言葉こそ同じでも、口にする人間が違えば価値も変わる」
「じゃあ、あなたからは奴らのこと、聴けるってことでいいのね」
「できるものならなっ!」
羽ばたきにより、大きく空気が騒いだ。セラが空気の動きを感じたその時には、ジュサは彼女の目の前だった。
そして、ズィーも彼女の目の前だった。
セラとジュサの間に半身だけ入り込み、片手で持ったスヴァニで白き大剣を受け止めていた。外在力まで纏っていた。
近くでよくよく見ると、大剣は骨で出来ていた。
「アタイの竜骨刀を片手で止めるか。紛い物でも竜だけのことはあるな、『紅蓮騎士』」
「竜人の力だけじゃねえんだけどなっ!」
片腕の力だけでジュサの身体を押し飛ばすズィー。それを黙って見ているセラではない。体勢を立て直した竜人娘の背後をすでに、静かに取っている。
静かなる刃が振り下ろされる。
セラが視界にいないことで気付いたか、ジュサが振り返る。見開かれる竜眼。
遅かった。
あとわずかに早ければ、勝負は決していた。
竜の尾をフクロウが掴んでいた。
尻尾というものはことのほか厄介なのだ。どれほど戦いに染まろうとも、自身にない身体的特徴というものは突発的には思考から外れてしまう。
「惜しかったねぇ」
尾でオーウィンを押し返しながら振り返るジュサ。セラも負けずと押し返す。
「だけど、どっちにしろ、その非力さじゃ竜人を斬ることは出来そうにないな」
竜骨刀がセラに迫る。
「確かに、あのときのままならそうかも」
セラは破界者への初撃を思い返して呟く。怪物の寄生により変異してしまった身体とはいえ、竜人だった頃の特性が首に現れていたのだ。刃を通さないほど硬質な肌もとい鱗。
竜人の鱗や骨は岩肌族の肌に引けを取らない。異空を旅して得た知識の一つだ。
そしてその特性はジュサが使う竜骨刀にも現れている。あれは死んだ竜人の骨を砕きに砕き、また一つの形へと形成したもの。安物の鉄製の剣など到底及ばない切れ味と強度を持つことで、刀剣を知る者たちの間では知られている。
だが、オーウィンは安物の剣ではないし、セラには金剛をも斬ることのできる技術があった。
セラは一歩、後退した。竜の尾との押し合いを終えたオーウィンは自由だ。
竜骨刀に向かい打つ。
ゴギュッ。
荒々しい音共に、オーウィンが竜骨刀の三分の一ほどに食い込んだ。
「何っ!?」
驚くジュサを余所に、セラはやはり自分ではこの程度かと冷静に判断するのだった。
ごくわずか残った竜人たちがジュサに場を譲るように退いていく中、ズィーがセラのもとへ来て言った。
「ジュサ・ノ・グラド。グラド一家の幹部の一人だ」
「さすが。そちらはよく勉強してるようだ。デラバンの入れ知恵か?」
ジュサが二人と同じ高さまで下降する。
「デラバンの名前出せば、竜毒分けてくれると思ったんだけど?」
「ふんっ、面白いことを言う男だ。アタイらがあの男を恐れているとでも?」
「言うこと聞くと思ったんだけどなぁ~」
「ッチ、能天気な奴め」
「……よく分かんないけど、最初から穏便に行くようなことじゃなかったんだね」
セラは呆れながらズィーに確認する。ズィーはそれに対して、惚けた顔で口の端を上げた。
小さく息を吐き、目の前の敵に集中するセラ。先程の雑魚たちとは違い、簡単にはいかない敵だろう。二対一になるであろう戦いの前だというのに、笑みを湛えている。腰に手を当てる佇まいは自らが上なのだと誇示するかのようだ。尻尾がリズムなくうねり動く。
ふと、セラは彼女から感じたことのあるような気配を感じ取った。だが、それが何か分かるほど彼女の気読術は熟練していなかった。竜人特有なもか、はたまた別のなにかか。
「んじゃ、グラド一家に歯向かったモンへの処罰を開始するか」
言ったジュサはその手に全身が白い、尻尾までを含めた身の丈ほどの大剣を現した。何もない空間から武器を取り出した彼女の指には、黒光りする指輪がはめられていた。
片手で軽々と大剣を振り上げると、肩に乗せる。竜人の膂力の賜物だろう。
「あの指輪、やっぱり『夜霧』と繋がりが」
セラが呟く。
黒光りする指輪は求血姫ルルフォーラが使っていたものと同じものだからだ。
「指輪だけで判断しちゃうのは、どうなんだい?」
「それが答えじゃない」
「まあ、そうだな。アタイらは『夜霧』と繋がってるよ。認めてやる」
「さっき部下にあんなこと言った割に、あっさり認めんのかよ?」
「アタイとあいつじゃ、やり取りの意味が違うんだよ、分かるか?」
フッと息を漏らすジュサ。
「言葉こそ同じでも、口にする人間が違えば価値も変わる」
「じゃあ、あなたからは奴らのこと、聴けるってことでいいのね」
「できるものならなっ!」
羽ばたきにより、大きく空気が騒いだ。セラが空気の動きを感じたその時には、ジュサは彼女の目の前だった。
そして、ズィーも彼女の目の前だった。
セラとジュサの間に半身だけ入り込み、片手で持ったスヴァニで白き大剣を受け止めていた。外在力まで纏っていた。
近くでよくよく見ると、大剣は骨で出来ていた。
「アタイの竜骨刀を片手で止めるか。紛い物でも竜だけのことはあるな、『紅蓮騎士』」
「竜人の力だけじゃねえんだけどなっ!」
片腕の力だけでジュサの身体を押し飛ばすズィー。それを黙って見ているセラではない。体勢を立て直した竜人娘の背後をすでに、静かに取っている。
静かなる刃が振り下ろされる。
セラが視界にいないことで気付いたか、ジュサが振り返る。見開かれる竜眼。
遅かった。
あとわずかに早ければ、勝負は決していた。
竜の尾をフクロウが掴んでいた。
尻尾というものはことのほか厄介なのだ。どれほど戦いに染まろうとも、自身にない身体的特徴というものは突発的には思考から外れてしまう。
「惜しかったねぇ」
尾でオーウィンを押し返しながら振り返るジュサ。セラも負けずと押し返す。
「だけど、どっちにしろ、その非力さじゃ竜人を斬ることは出来そうにないな」
竜骨刀がセラに迫る。
「確かに、あのときのままならそうかも」
セラは破界者への初撃を思い返して呟く。怪物の寄生により変異してしまった身体とはいえ、竜人だった頃の特性が首に現れていたのだ。刃を通さないほど硬質な肌もとい鱗。
竜人の鱗や骨は岩肌族の肌に引けを取らない。異空を旅して得た知識の一つだ。
そしてその特性はジュサが使う竜骨刀にも現れている。あれは死んだ竜人の骨を砕きに砕き、また一つの形へと形成したもの。安物の鉄製の剣など到底及ばない切れ味と強度を持つことで、刀剣を知る者たちの間では知られている。
だが、オーウィンは安物の剣ではないし、セラには金剛をも斬ることのできる技術があった。
セラは一歩、後退した。竜の尾との押し合いを終えたオーウィンは自由だ。
竜骨刀に向かい打つ。
ゴギュッ。
荒々しい音共に、オーウィンが竜骨刀の三分の一ほどに食い込んだ。
「何っ!?」
驚くジュサを余所に、セラはやはり自分ではこの程度かと冷静に判断するのだった。
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