碧き舞い花

御島いる

198:巨人の生業

 巨人たちはその大きさを生かし、財を得ている。
 彼らにとっては普通の大きさであっても、小さな異界人にとっては何もかも大きいとなると、それだけで魅力になるのだ。
 例えばセラとイソラが通された旅館の部屋。
 どうにも二人だけで使うには広すぎると言わざるを得ない大きな部屋だった。天井も高い。その上、通常の人間でさえ細かくて苦労するであろう意匠が所々に施されている。巨人というのはその大きさからは想像できないが細かい作業を得意とする人種なのだ。そこも魅力と言えた。
 そして、倉庫だ。広大な蔵の貸し出しはこの世界で一番稼げる。
 旅人がちょっとした荷物を預けるために使用することもあるが、なんといってもどこかの世界の王族や貴族が莫大な量の物品を預けるのに使うのだから稼げないわけがないのだ。そしてさらに言うと……。
「……実を言うとね、最近は野蛮な世界の人達が危ないもの預けてる、なんて噂もあるのよ~。駄目なのにねぇ、そいうの。あ~怖いわぁ。蔵回りするなら、気を付けなさいね。女の子二人なんだから」
 そうセラとイソラに声を潜めて言うのは旅館を管理する女性の巨人、モロモだ。広葉樹のような髪がフサフサと揺れる、柔和な女性だ。
「わかりました、気を付けます」
 セラはにこやかに建物の内側を向いた窓のに笑顔を向けた。というのも、この巨人旅館『大樹林』は中央ががらんどうとなっていて、そこでモロモが接客をするという形をとっているのだ。だから、部屋には外と内、それぞれを向いた窓があるのだ。
「それじゃ、何かあったらこの窓の横にある紐を引っ張って呼んでね」
 モロモは最後にそう言って、窓の外から垂れ幕を降ろした。これで部屋は完全にセラとイソラだけのものになった。
 セラは反対、建物の外を向いている窓から異世界人のために張り巡らされた橋が縦横無尽に交差し合う巨人の世界を眺める。望むアルポス・ノノンジュには橋の他に多種多様な模様が描かれた蔵がひしめき合っているのが特徴だ。
 蔵はある程度一つの模様ごとに群れている。モロモが言うには模様によって事業主が分かれていて、大事業主は唐草模様を用いているデデボロという巨人と格子模様を用いているロンドスという巨人だそうだ。その二人が二大蔵貸しらしく、競い合うように新しい蔵を造っているという。
 たしかに唐草模様と格子模様は他のものに比べて多くのところで一群を成している。そして、格子模様のまとまりの一つに『夜霧』が使う蔵がある。
「さっきの『夜霧』のことだね」
 イソラが言う。さっきのというのはモロモが話した噂のことだ。
 二人が蔵観光に来たと話したらモロモは蔵について、この世界について説明してくれた。惜しげもなく、訊いてもいないことまでも楽しそうに。そんな彼女は多くの情報をもたらしてくれた。
「うん。モロモさんの話しぶりだと、武器とかを預けるのは禁止されてるみたいだけど……。とにかくまずは蔵の持ち主のロンドスって人を調べないとだね」
「協力してるのか、脅されてるか調べるんだね」
 セラは頷く。彼女たちはアルポスに来る前にゼィロスに忠告されたのだ。仮にこの世界の人間が協力者だった場合、話を訊いた時点で探っているとばれてしまう。慎重に、まずは関係者をしっかりと調べるのだと。
「あ、でも倉庫の方も調べるんだ」イソラが思い出したように口にする。「別行動?」
 セラは少しばかり考えて答えを出す。「そうだね。二人より一人で動いた方が目立たないし……。イソラは倉庫の方お願い。イソラの方が広い範囲を正確に感じ取れるから探れると思うんだ」
「うん! 任せて!」拳を胸の前で握る小麦色の少女。ソファに寝かせていた刀を手に取り、腰に差す。「それじゃあ、さっそく。……あれ、セラお姉ちゃん剣、置いてくの?」
「うん。わたしの場合、ローブ着ても目立っちゃうから」
 セラは後頭部辺りを手で示した。オーウィンの場合、ローブを羽織り、フードを被ったとしても変に膨らんでしまうのだ。その点、腰に差しているイソラはあまり目立たない。
「協力者かどうかに関わらず、話さなきゃいけない時が来たら警戒されちゃうかもしれないし」
 モロモの話から分かるように、アルポス・ノノンジュもとい巨人たちは争い好まないのだと分かる。異世界人の中には武器を携行していた者も見て取れたが、あまり悪目立ちしたくもなかった。
「あ、そっか。ま、セラお姉ちゃんなら剣なしでも戦えるし大丈夫だね! ニシシシッ!」
 イソラの笑顔を見てセラも微笑む。そして、二人共々ローブを纏う。
「じゃ、行こうか」
「うん」

「碧き舞い花」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く