碧き舞い花
175:悪魔の遊戯
足の裏から衝撃波を放つことに、それを持って空中で機敏に動くことに慣れる。
エァンダが鍵束を手放したからか怪物は落孔蓋を使っていない。背中から翼を生やして宙を舞う怪物は完全に足場というものを無視した戦い方だった。それに対抗するために、彼女の成長は不可欠だった。
ヒィズルでみたイソラの天馬の速さには及ばないものの、彼女の空中戦での機動力は充分に高まった。だが、自在に飛ぶ者が上回るのは自明の理。
地上では打ち合えていたセラと怪物だったが、次第にセラが押され始める。もちろん、彼女は地上に跳び戻ろうと考えたが、怪物がそうはさせない。彼女が地上に降りようとするのを牽制する。
翼だけでなく、エァンダを吸収する前に見せた尻尾まで生やす。エァンダの整った顔も相まって、怪物でも死神でもなく、悪魔と表せる容貌だ。
「微調整はこれくらいでいいだろう。……さあ、頂こうかその体」
悪魔は不敵に笑み、タェシェを尻尾で握り、空いた諸手それぞれに血で刀を作り出した。黒き刀の二刀流。尻尾のタェシェも合わせれば世にも珍しき三刀流だ。
しかし、彼女は三本の刀剣を使うことにはさほど驚かなかった。セラが気を向けたのは悪魔が作り出した二本の刀だ。怪物の本体であった黒き血から作り出されているからなのだろうか、刀そのものから力を感じるのだ。
セラは同じ現象を目にしたことがある。それであるかは定かではないが、警戒するべきだろうと彼女は心に留めた。
「ふっん!」
「……ん、っ!」
上方から斬り掛かってきた悪魔の刀を受け止めるセラ。刹那、警戒していたことが功を奏した。
止めた刀から放たれる、見えない斬撃。
セラは身体を横へ反らす。慣性に従ってその場に残ろうとした銀髪の端がわずかに斬れ散った。まるでブレグ警邏隊隊長をなぞるようなその動き。彼女が思った通り、悪魔が使っているのは魔導・闘技トーナメントでドード少年が見せた特異な剣術そのものだったのだ。
そのうえ、ドードをはるかに上回る威力。
彼女の横を通り過ぎた斬撃は雨となって大地に降り注ぎ、戦いは終わったのではないのかと戸惑いの色を見せる顔でセラと悪魔の戦いを見上げる戦士たちに襲い掛かった。そして、地面に大きく傷をつけた。大地を抉ったという表現が正しいほど、大きく。
「避けるのか。なるほど」
独り言ちる悪魔。だが、セラの意識はすでに次の攻撃への対処に移っていた。
身体を反らした背後から、タェシェが迫っている。
足から衝撃波を放ち、その勢いで背面飛び。すれすれで兄弟子の愛剣を避けながら悪魔の腕を蹴り上げた。
悪魔に隙。
セラはすぐさま落孔蓋に手を着いて、身体を引き寄せて屈んだ状態となると、脚のバネを利用してオーウィンを斬り上げた。
パキューィンッ――。
刀で受け止められた。悪魔の刀からは斬撃とならなかったエネルギーが四散した。
尻尾が戻ってくる。彼女の腹へ。
「ごっはぁっ……」
大きく息が漏れ、白く残ってすぐ消えた。セラの身体は大きく宙を吹き飛ばされる。悪魔との距離が近かったおかげでタェシェに斬られずに済んだのは幸いだった。隙としては大きなものだった。
キュ、キュキュッ、キュッ、キュキューッ。キュィ……。
落孔蓋とブーツで音楽を奏でながら、セラは体勢を整える。
そして、前。
大きな斬撃が飛んでくるのを感じる。
「おいおい、後ろだぞ?」
「っ!?」
突然に耳元でした声にセラは駿馬で振り向きつつ飛び退いた。かつ、向きを変えたことで後方から迫る斬撃の範囲からナパードで脱した。
斬撃は彼女がいた場所に散った碧き花を粉々にし、遠くにあった島の山の木々を軽々と吹き飛ばした。
だがそんなことは彼女にはどうでもよかった。
「だから後ろだ」
背筋に悪寒が走る。それから逃れるようにセラは跳ぶ。
だが。
「後ろ、後ろ」
「クィフォ……」
オーウィンを後ろに向かって振るうセラ。しかし、そこには悪魔の姿はない。さっきまでいたはずなのに。
「後ろって言葉、知らないのか?」
三度、背後に悪魔。
声を聴いて初めて、悪魔が背後に移動したことを知る。
「っく!」
またも剣を振るうが、空振り。
また、後ろか。そう思って彼女は振り返ったが、そこに悪魔の姿はなかった。
「上って言葉は知ってるか?」
声に上を向くセラ。そこにはにたりと口角を上げる悪魔。
悪寒は強くなる。
読めない。
感じない。
気配を消して遠くへ移動した破界者、怪物に対してはエァンダですら気配を感じるのが困難だった。しかし、それでも相対して戦っている最中は充分先読みできた。それはセラも同じだった。
それなのに、今彼女の頭上で笑う悪魔の気配、動きは完全に読めない。
さらに背後を取りながらも、攻撃してこない悪魔。
遊ばれている。
それは力の差を現す行動であり、セラに一層の恐怖を与えるものだった。
エァンダが鍵束を手放したからか怪物は落孔蓋を使っていない。背中から翼を生やして宙を舞う怪物は完全に足場というものを無視した戦い方だった。それに対抗するために、彼女の成長は不可欠だった。
ヒィズルでみたイソラの天馬の速さには及ばないものの、彼女の空中戦での機動力は充分に高まった。だが、自在に飛ぶ者が上回るのは自明の理。
地上では打ち合えていたセラと怪物だったが、次第にセラが押され始める。もちろん、彼女は地上に跳び戻ろうと考えたが、怪物がそうはさせない。彼女が地上に降りようとするのを牽制する。
翼だけでなく、エァンダを吸収する前に見せた尻尾まで生やす。エァンダの整った顔も相まって、怪物でも死神でもなく、悪魔と表せる容貌だ。
「微調整はこれくらいでいいだろう。……さあ、頂こうかその体」
悪魔は不敵に笑み、タェシェを尻尾で握り、空いた諸手それぞれに血で刀を作り出した。黒き刀の二刀流。尻尾のタェシェも合わせれば世にも珍しき三刀流だ。
しかし、彼女は三本の刀剣を使うことにはさほど驚かなかった。セラが気を向けたのは悪魔が作り出した二本の刀だ。怪物の本体であった黒き血から作り出されているからなのだろうか、刀そのものから力を感じるのだ。
セラは同じ現象を目にしたことがある。それであるかは定かではないが、警戒するべきだろうと彼女は心に留めた。
「ふっん!」
「……ん、っ!」
上方から斬り掛かってきた悪魔の刀を受け止めるセラ。刹那、警戒していたことが功を奏した。
止めた刀から放たれる、見えない斬撃。
セラは身体を横へ反らす。慣性に従ってその場に残ろうとした銀髪の端がわずかに斬れ散った。まるでブレグ警邏隊隊長をなぞるようなその動き。彼女が思った通り、悪魔が使っているのは魔導・闘技トーナメントでドード少年が見せた特異な剣術そのものだったのだ。
そのうえ、ドードをはるかに上回る威力。
彼女の横を通り過ぎた斬撃は雨となって大地に降り注ぎ、戦いは終わったのではないのかと戸惑いの色を見せる顔でセラと悪魔の戦いを見上げる戦士たちに襲い掛かった。そして、地面に大きく傷をつけた。大地を抉ったという表現が正しいほど、大きく。
「避けるのか。なるほど」
独り言ちる悪魔。だが、セラの意識はすでに次の攻撃への対処に移っていた。
身体を反らした背後から、タェシェが迫っている。
足から衝撃波を放ち、その勢いで背面飛び。すれすれで兄弟子の愛剣を避けながら悪魔の腕を蹴り上げた。
悪魔に隙。
セラはすぐさま落孔蓋に手を着いて、身体を引き寄せて屈んだ状態となると、脚のバネを利用してオーウィンを斬り上げた。
パキューィンッ――。
刀で受け止められた。悪魔の刀からは斬撃とならなかったエネルギーが四散した。
尻尾が戻ってくる。彼女の腹へ。
「ごっはぁっ……」
大きく息が漏れ、白く残ってすぐ消えた。セラの身体は大きく宙を吹き飛ばされる。悪魔との距離が近かったおかげでタェシェに斬られずに済んだのは幸いだった。隙としては大きなものだった。
キュ、キュキュッ、キュッ、キュキューッ。キュィ……。
落孔蓋とブーツで音楽を奏でながら、セラは体勢を整える。
そして、前。
大きな斬撃が飛んでくるのを感じる。
「おいおい、後ろだぞ?」
「っ!?」
突然に耳元でした声にセラは駿馬で振り向きつつ飛び退いた。かつ、向きを変えたことで後方から迫る斬撃の範囲からナパードで脱した。
斬撃は彼女がいた場所に散った碧き花を粉々にし、遠くにあった島の山の木々を軽々と吹き飛ばした。
だがそんなことは彼女にはどうでもよかった。
「だから後ろだ」
背筋に悪寒が走る。それから逃れるようにセラは跳ぶ。
だが。
「後ろ、後ろ」
「クィフォ……」
オーウィンを後ろに向かって振るうセラ。しかし、そこには悪魔の姿はない。さっきまでいたはずなのに。
「後ろって言葉、知らないのか?」
三度、背後に悪魔。
声を聴いて初めて、悪魔が背後に移動したことを知る。
「っく!」
またも剣を振るうが、空振り。
また、後ろか。そう思って彼女は振り返ったが、そこに悪魔の姿はなかった。
「上って言葉は知ってるか?」
声に上を向くセラ。そこにはにたりと口角を上げる悪魔。
悪寒は強くなる。
読めない。
感じない。
気配を消して遠くへ移動した破界者、怪物に対してはエァンダですら気配を感じるのが困難だった。しかし、それでも相対して戦っている最中は充分先読みできた。それはセラも同じだった。
それなのに、今彼女の頭上で笑う悪魔の気配、動きは完全に読めない。
さらに背後を取りながらも、攻撃してこない悪魔。
遊ばれている。
それは力の差を現す行動であり、セラに一層の恐怖を与えるものだった。
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