碧き舞い花

御島いる

148:女

「ちょっと前から知った気配を感じてたもんだから。来た」
 たんと言ってのけた、セラたちの尋ね人。
「お前ら、破界者知ってんの? 『夜霧』追ってんじゃなかったか」
 エァンダは再度、セラを見つめる。
「うん。そうだけど、その一環であなたを探してここまで。わたしたちに力を貸してくれない? エァンダ」
「無――」
「ゼィロス伯父さん」
 彼の言葉を遮ってセラが言うと、その表情は歪む。
「言うことを聞かなかったら、無理やり連れて来いって言われてんだ。俺たち」
「ゼィロスかぁ……」諦めるように呟いたエァンダ。しかし、首を横に振る。「でも駄目だ。俺にとって破界者が何よりも最優先。その後なら別に構わないけど、いつになるかな」
「じゃ、じゃあ。せめて、お兄様に教えたっていう感知術。それを教えて」
 彼にその術を教えてもらえばセラたちの目的は果たせないことはなかった。ドクター・クュンゼの怪物を追える術が欲しいのだ。
「教えてやるって言っても、時間がないだろ。お互い」
「そうだぞセラ。一番早いのはエァンダが破界者倒すの手伝ってさ、そのあと怪物探してもらって、これまた倒して、そんでもって小さいじいさんからフェースって奴の情報を手に入れる。だろ?」
 ズィーの言ったことにビュソノータスのことは入っていなかった。
「簡単に言うけど、破界者はそう簡単に倒せないから。特に最近は異常なまでに強くなってる。なんか混じったみたいでな。気配消す方法まで――」
「!」
 言葉をエァンダが止めたその時、セラは建物の周りに大勢の人の気配を感じた。囲まれている。それぞれが腕の立つ者の気配だ。
「話はあとだ。悪いけど、あんたらのことを探ってる奴がいるって、彼女のこと『白旗』話したんだ。協力してもらうために仕方なくだけど、見ず知らずの人間を売るようなことはさすがに寝覚めが悪い。さ、遠くに逃げよう」
「? 彼女って?」ズィーが首を傾げる。
「彼女さ」と言ってエァンダが掴んだのはエスレの腕だった。
「え? えぇえっ!」
「じゃ、お前」驚愕するズィーを余所にエァンダはセラに言う。「俺のこと追えるよな? 向こうの部屋で泣いてる子とそこの同胞くん、連れて来て」
 言うだけ言って、群青と共にエァンダとエスレの姿は消えた。
「ど、どう、どうゆうことっ!?」
 状況が飲み込めていないズィーの手を取り、セラはエリンのもとを経由してからエァンダへと向けた感覚を頼りに跳んだのだった。


「じゃ、俺は憲兵たちに説明してくるから」
 大きな岩が一つだけという無人の浮島から、エァンダはもといた場所に向けて跳んでいった。
「……うぅ」
 エリンは涙も忘れて気持ち悪そうにしている。ナパード酔いだ。
「ごめんね、エリン。説明もなしに」
「そうだぞ、セラ。どういうことだ。それにエスレ、お前、女だったのか」
「おれは女なんて捨てた。……なんでバレたんだ」エスレは悔しげに言う。
 そしてそれに応えるように、セラもズィーも知らない声。
「それは、君から女の気配がするからじゃないかな」
 突如、空間に扉が現れ、そこからジャラジャラと鍵束を鳴らす、ボタンが多く付いた服の男が出てきた。いくつかある鍵束はそのボタンに掛かっている。
 彼こそがサパル。エァンダと行動を共にする鍵束の民、サパル・メリグスだ。
「僕はサパル・メリグス。エァンダの友人だ。安心して」
「知ってます。エァンダを探すために、ルピさんからあなたの居場所を訊いたので」
「もしかして、賢者評議会の人かな?」
「知ってるの?」とズィー。
「評議会についてはルピからね。でも、協力はまだできないと言ったはずだが……」
「詳しく話します」
 セラはエァンダの帰りを待ってからここに至るまでの顛末を事細かに話すことにしたのだった。

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