碧き舞い花

御島いる

141:酒気帯びし世界

「ペルサ・カルサッサでルピから情報を得たら、そのままエァンダを探せ。何が何でも協力させろ。もし言うことを聞かなかったら無理やりにでもスウィ・フォリクァに、俺の元に連れてこい」
「うん」セラは強く頷く。「そうする」
「じゃ、行くか」
 ズィーが言い、二人はジュコを去ったのだった。


 そこは酒気漂う宴会場。
 酒呑の宴会場――ペルサ・カルサッサ。
 あらゆる世界の酒という酒が集い、交わる酒の聖地であるペルサ・カルサッサの人々は皆赤ら顔で、頭にお面を斜めに被っている。もちろん、子供もだ。
 酔っていないのが異常とみなされるこの世界では、訪れた全ての者にまず酒が振舞われる。それはセラとズィーも例に漏れない。
「あ、わたしたち、お酒を飲みに来たんじゃ……」
「なにいってぇんだぁ~、見たぁところ、渡ぉ界人じゃぁねえか、どうせすぐ戻るでねぇかぁ~」
「そうだぞ、セラ。別に呑んでも構わねえだろ」
「でも、イソラとルピさんを探さないと」ここまで言ってから、セラはズィーの耳元で彼だけに聞こえるように囁く。「それに、調査対象の世界ってことはここにも『夜霧』の奴らが現れたってことでしょ?」
「ん? あ、そうか。そういうことだな」
 と言いつつ、すでにズィーはどこの世界の物とも分からない、青々とした酒を呑んでいた。
「ほら、あんたぁさんもぉ~」
「はぁ……」
 セラは溜め息を吐きながら無理やり手渡されたジョッキを眺める。そこには青い液体がまさに海のように波打っていた。
「もうっ」
 ジョッキを煽ったセラ。彼女がこの時呑んだ酒は『大海酒-凪海-』なる酒でアルコール濃度はさほど高くないが、一口でも口にすれば心地よく体が揺れる。まさに凪いだ海に浮かぶ小舟に乗っているかのような感覚になるのだ。
「おいしぃ……」
「俺は物足りない感じだけど?」
「って、そうじゃないでしょ! 行こう、二人を探さないと」
「セラだけで探せるっしょ? 超感覚。俺、もうちょっと呑みたいからさ、探してきて」
「はぁ?……ちょっ、と」
 彼女の声を聞くこともなく、ズィーは酒飲みたちの群れに消えて行った。
「ズィーのばか」
 聞こえないと分かっていても、彼女は口にしていた。そして、ジョッキに残っていた酒を一気に飲み干した。


 ズィーは超感覚で簡単に探せるだろうと言ったが、実際のところはそうではない。
 魔導・闘技トーナメント中のマグリアに比べれば少ないが、ペルサ・カルサッサには多くの人がいて、所々で酒樽を囲んで群れを成しているのだ。イソラならともかく、セラでは感覚で人探しができる範疇を超えている。
 だから彼女は地道に心地よく酔っている人々の群れを歩いて回る。
 地元民だけの集まりもあれば、異世界人だけの集まりもある。もちろん、そのどちらもが混ざった集団も。
 イソラが自身に気付いて出て来てはくれないものかと考えていたところに、彼女に向けられた声がする。
「オジョサン!」
 イソラのものではなかったが、彼女の知った人物だった。行商人だ。
「ラィラィさん!? どうしてここに?」
「それはこっちの台詞ネ。オジョサンこそ、どうしてカ? あ、ちなみにワタシはオジョサンとオニサンのために酒、仕入れに来たヨ」
「そっか。わたしは人を探しに。わたしよりちょっと小さい、小麦色に焼けた女の子と鍵束を持った女の人、見てないですか? 女の子は前髪をこう、束ねてるんだけど」
 セラは言いながら自身の前髪を手で掴み上げて見せた。
「知らないネ。それより、オニサンもいるカ? さっそく仕入れたお酒、売るヨ!」
「あはは……ズィーなら、向こうの方にいる、と思うよ。わたしはこのまま二人を探すから、またあとで」
「分かったネ、それじゃ、またネ、オジョサン」
 ラィラィはセラの示した方へと小走りに去って行った。マグリアで会った時とは違い、リュックを背負っているが、どうにもたくさんの商品が入りそうにない小ささだった。行商人には行商人の道具があるのだろう。セラはそんなことを考えながらもイソラとルピの捜索を再開させたのだった。

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