碧き舞い花

御島いる

138:黒き要塞船



 ガッコン、ガッコン、ガッコン――――。
 ブーン、ゴン、ガガガガガガガッ――――。
 ウィーゴン、ウィーゴン、ウィーゴン――――。
 ップッシュゥ……コンッ、ップッシュゥ……コンッ――――。


 噴煙が何本も上がっている。
 地面が音に合わせて揺れる。
 耳を塞ぎたくなるような、隣りの者の話し声すらも聞こえないような騒音。
 要塞というよりは工場こうばを思わせる。
 ゼィロスが言うにはジュコという世界は陸地のない世界で、現在三人が立っているところは小人たちの技術によって作られた巨大要塞船なのだという。
 巨大というのは小人から見て、ではなく、他世界の大きさの人間から見てだ。小人たちから見れば超巨大なのだろう。
 故に、船に乗っているという感覚は皆無。
 レンガの乳白色や褐色で彩られたマグリアの街並みと比較するなら、ジュコの世界は金属的黒。見上げる空の青以外すべて黒で、ロープスがこの地で生まれたことが頷ける街並みだった。
 地面は人が歩く部分のみが金属とは違うものでできていたが、それ以外は全て金属。要塞の地肌のままなのだろう。
 そして、その地面を歩いている人なのだが、全てが三人の前を歩いているオルガストルノーン・Ωのような機械人間だった。物珍しそうにセラたちのことを見ている。
『もうすぐドクター・クュンゼの研究室です。建物の中では普通に会話できますよ』
 耳に入れた耳栓からチャチの声がそう語る。小人たちは搭乗する機械人間同士の通信で会話をしているので騒音は気にならないのだそうだ。
 セラたちがジュコに現れると、数分後にはチャチが完全に直ったオルガに乗って走ってきた。セラのエネルギー反応を察知したらしい。そして、セラたちはすぐに特殊な耳栓を渡されて彼女の案内に従ってドクター・クュンゼの研究室に向かっているところだ。
『そういえば、大会は誰が優勝したの? 決勝はブレグさんとどっちの化け物?』
「決勝はブレグさんとフェズさん。勝ったのはブレグさんだよ」
 セラは普通の大きさで声を発した。オルガに乗るチャチにはそれでも聞こえるのだ。隣を歩くゼィロスとズィーには全く聞こえていないのに。


 円筒状の建物に入ると、騒音はピタリと消えた。
 室内は無機質な、温度のない白い光で照らされていて、様々な配線が床を這う。配線も含め、部屋の中にあるすべてのものがきれいに隊列を成すかのように整頓されていた。
「きれい……だね」
「誰の研究室もこんな感じよ。細かいゴミでも機械の誤作動に繋がるからね」
「そっか。片付けられてないものだと思ってた」セラが思い浮かべたのはビュソノータス回帰軍の砦、エリンの部屋だった。「わたしが会ったロープスを調べた子の部屋はぐちゃぐちゃだったから」
「ふんっ、これだから科学・技術を粗末に扱う世界の者は」
 セラの声が聞こえていたのだろう、部屋の奥から機械人間の顔が覗いた。その額は開いていて、短髪白髪の小人が座席に納まっていた。
「お初にお目にかかる。俺はゼィロス・ウル・ファナ・レパクト。彼女がセラで、彼がズィプ。今回の協力には感謝する。ドクター・クュンゼ」
「あ……」何やらチャチが声を上げた。
「協力? なんの話じゃ。チャチ!」
「……はいっ!」
「さてはお前、またコソコソと何やら企んでおるな?」
「えっと……まあ。そのですね、博士」
 話を通しておくと言っていたチャチだったが、実際には一切合切ドクター・クュンゼにセラたちがなぜジュコを訪れてきたのかを話していなかった。ただ、客が来るということしか伝えていなかったという。それもセラたちが来たことを察知してからだという。
 オルガの修理で忙しかったという彼女の言い訳はすぐさまドクターに唾棄され、しゅんとした声色で事の説明をしたチャチだった。


「話は分かった。だがなんだ? 俺にメリットがないではないか。それに今、俺は忙しい。話してる場合じゃないのだ。そうだ! 止まっている場合ではないのだ!」
 思い出したようになにやら部屋中の機械をいじり回るクュンゼの乗った機械人間。
「博士! 博士も単一世界内での瞬間移動について、『異空の賢者』から訊いて貰って構いません。なので、セラたちにフェースというナパスの民の情報をあげてください」
 チャチが部屋の外では出さないほど声を張り上げて動き回るドクターに言うが、彼の動きが止まる気配はない。
「あーうるさい、邪魔だ邪魔だ、出ってくれ」
「無理そうじゃね、話すの」
 ズィーがポロリと零し、四人はドクター・クュンゼの研究室を出た。

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