碧き舞い花

御島いる

136:動き出す

「情報は以上だ。これらの情報をもとに奴らを追う」
「よかぁ!」テングが声を上げた。「だが、わしらは偉大なる者であろうが、戦となれば頼りになる者は少ないぞ? 渡りの民の賢者よ、どう考えおる?」
「数では劣る。それは間違いない。そして、数を合わせようとするならばこれからでは遅いだろう。だが、戦士は募る。皆の世界に限らず、皆が知っている推せる戦士がいたらこの地へ連れてきてほしい。もちろん、『夜霧』に繋がっていないことを十分に精査したうえで。そうして、少数精鋭で『夜霧』と戦う」
「つまり、わしらの知る強者つわものを集めると。よかぁよかぁ!」
「しかし、戦力がばらつく」ケン・セイが静かに言った。「皆が強いとは限らん」
「分かっている。だから、ケン・セイ。お前をはじめとした戦闘技術に長けた賢者の役目だ。この地で集中的に戦士の底上げをする」
「おいおい待ってくれ」声を上げたのはンベリカだ。「俺の纏いの技術は門外不出だ。他世界の者に教えることなど出来ない。例え異空間の危機だとしてもだ」
 彼の物言いに数人の賢者たちが頷く。
 セラはそんな彼らを見てもやもやとした。協力し合うために集まったんじゃないのか。
「技術の伝承が不可能なのは仕方がない。強要はしない。だが、この地に来たのだから協力はしてくれるのだろう? 自身を含め、推薦でき得る戦士という戦力提供」
「そうだ。そこは理解してもらえていたのだな。なら、俺は異議は唱えない。俺の世界の強き者たちも連れてこよう」
「他の者は?」
 ゼィロスが先ほど頷いていた賢者たちに目を向ける。彼らも問題なさそうに頷いた。
「ひとまずは集まった戦士を訓練をするグループとこの地で評議会を運営するグループ、それから異空を渡り『夜霧』を探り、場合によっては剣を交えるグループに分かれて活動することとなる。各々が自身の能力を鑑みて、訓練グループは『闘技の師範』ケン・セイ。運営グループは『変態仙人』テング。捜索グループは俺、ゼィロスのもとに集まってくれ。十分後だ」
 評議に一区切りがつき、それぞれが動き出す。
 セラは立ち上がると小さな衝撃に備えた。
「セラお姉ちゃん!」
「イソラ!」
 小麦色の少女、イソラがセラに抱き付いてきた。
「ヒィズルは大丈夫なの?」
 セラとしては意外な早さで訪れた再会より気になることだ。
「まだまだ復興中だけど、あたしはお師匠様と一緒にね。ヒィズルはテムと他の道場の師範たちに任せてきたの」
「そっか。イソラはケン・セイと訓練のグループ?」
「ううん、あたしは捜索のグループだよ! セラお姉ちゃんもそうでしょ?」
「そうだけど。ケン・セイと一緒に訓練グループだと思った、イソラは」
「あたしもそうしようと思ったんだけど、お師匠様がね、捜索に加われって。初めての独り立ちだよぉ」
 イソラは眉根を下げて不安気な顔をする。
 セラはそんな彼女の頭を撫でる。「イソラなら大丈夫だよ。それに他の人もいるもの」
「セラお姉ちゃんと一緒に行動できればいいんだけど。あ! そういえば、あの人!」
 彼女は未だンベリカと話すズィーを指さす。
「セラお姉ちゃんと一緒に来た人。お姉ちゃんの大事な人でしょ?」
「えっ!?」
「だって、お互いに信じ合ってるっていうのかな、感じるよ」
「まあ、大事な人、だね」
「あ、こっち来るよ」
 二人の視線に気付いたのか、ズィーが軽く駆け寄ってきた。
「俺の話? あ、俺ズィプガル。ズィプでいいよ……ぁ、目が見えないの?」
「見えないけど、大丈夫だよあたし。イソラ・イチ。セラお姉ちゃんの姉弟子です!」
 イソラが胸を張る。それを見てズィーが笑う。「じゃあ俺は、セラの幼馴染です!」
「二人とも……」
 呆れと可笑しさが押し寄せてきて、セラは苦笑した。

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