碧き舞い花
89:開会式選手入場・上位五名
『第八位! ファントム討伐数、三百六十九体! ナギュラ・ク・スラー!!』
今まで微動だにせずに壁に寄りかかていた女が腰を浮かす。
『その素早い身のこなしで討伐数を稼いだナギュラ選手! 映像ではブレてしまっていたその動き、会場の全員が注目してるぞぉ!!』
ナギュラはそっけなくィルの隣に辿り着く。
『そして! ここで初戦の組み合わせ一組が決定だぁ! 会場の皆さまは貴賓席反対の白壁を、屋外観戦場の皆さまはスクリーン左上をご覧ください!』
ニオザの言葉に合わせて部屋の壁面に映し出される映像は、コロシアムの貴賓席の向かいにある唯一白い壁を映す。そこにはトーナメント表が映し出されている。左右に八つの指を伸ばした表だ。
『八位のナギュラ選手と対戦すのは九位のチャチ選手! トーナメント表、左側三段目に二人の名前が入ります』
説明通り、トーナメント表に二人の名前が表示される。
『日程は後程説明することにして、続いて――』
『第七位! ファントム討伐数、三百九十五体! セラフィ・ヴィザ・ジルェアス!!』
呼ばれたのはセラの名前だった。
「わたしだ」
「俺の勝ちだな」とズィーがしたり顔になる。
「本戦はこれからでしょ」セラは少々ムキになって言い返す。
「セラちゃん、さあ」とヒュエリが渦巻く扉を促す。
「はい」セラは応えてからヒュエリをはじめに、ジュメニ、ブレグ、そしてズィーとそれぞれにサファイアを向けてから扉を潜った。
ナパードとは違った瞬間移動は一瞬の眩み。
次にセラが目を開けたとき。
目にしたのは全方位を大勢の人々に囲まれる光景。耳にしたのは怒号と間違えんばかりの歓声。
一世界の姫であった彼女でも、戦場に立ったことがある彼女でも、ここまでの人に囲まれたことは初めてのこと。客席は盛り上がる観客たちで波打ち、歓声に空気が震えている。コロシアム全体の鼓動が彼女の体を打ち、少しばかり脇の下の痣に響く。
『なんと彼女はナパスの民!』
ニオザがセラの紹介が始まると、コロシアムの関係者がセラを台まで案内を始める。彼女は案内に従って台に向かってく。
『これを機に『碧き舞い花』の名は世界へ轟くことになることだろおぅ! 魔導書館司書、マグリア警邏隊長に認められその実力! 世界を巡り手にしたその力! 存分に発揮してくれぇっ!! 個人的にも応援してるぞ! セラちゃん!!』
チャチの乗るオルガストルノーン・Ωの隣。台座に上がるセラの顔は苦笑に満ちていた。そして、その視線は貴賓席の次に高い高台で実況するニオザ・フェルーシナを刺す。水晶の付いた拡声器を持ったニオザは首と手を否定を表すように振って、それから斜め下を視線で示した。
実況者の視線の先には筆師がいた。上層客席。他の客席とは違い、広めな一つの部屋となった場所に、独り、ユフォン・ホイコントロはいた。
ニオザから視線を誘導された彼女と視線が合った彼は手のひらを向けて手を振ってくる。
セラはその姿に独り小さくため息を吐いた。
まさか、自分がこんな紹介をされるとは思っていなかった。その情報源は間違いなくユフォンなのだ。『碧き舞い花』というセラに付いた二つ名を知っているのは『夜霧』の者、ビュソノータス回帰軍の長と副官、ヒィズルのケン・セイ一派、ホワッグマーラの筆師くらいなもの。ヒュエリやブレグに認められているというのはマグリアの大会故に仕方ないとして、二つ名まで紹介されてしまうとは。
こんなことになるならホワッグマーラに戻って来たとき、軽くでも話すんじゃなかったかなと心の中で呟くセラだった。
『七位のセラフィ選手が戦うのは十位のィル選手! トーナメント表、右側三段目に二人の名前が入ります』
進行に戻ったニオザが言うと、トーナメント表にセラとィルの名前が表示される。
『第六位! ファントム討伐数、四百五体! ジュメニ・マ・ダレ!!』
ニオザの呼び込みの後、すぐにジュメニが闘技場の中央に現れた。
すると、客席が開会式の開始に次ぐ盛り上がりを見せる。選手紹介では今までで一番の盛り上がりだ。
ジュメニがその大歓声に応えるように、現れた場所で立ち止まったまま腕を掲げて見せると、さらに会場は盛り上がる。これがマグリアで名のある魔闘士に送られる歓声だった。
セラの後方にある壁がビリビリと震えているのが分かる。そんな中でもニオザの拡声された言葉はしっかりと耳に届く。水晶が付いていたことを考えるとこれもマカの一種なのだろう。
『皆さんご存知! ジュメニ選手の登場だぁ!! 若くしてマグリア開拓士団の護衛を率いるその遺伝子はまさに父親譲り! 今回は父、ブレグ隊長を押しのけて優勝することができるのかぁっ!!』
大歓声の鳴り止まぬままに、ジュメニはナギュラの隣に堂々と立つ。
『六位のジュメニ選手と戦うのは十一位のシューロ選手! 両者の名前が右側二段目に刻まれます』
『第五位! ファントム討伐数、四百十三体! ズィプガル・ピャストロン!!』
呼ばれて出てきたズィーへの歓声はやはりジュメニより対してのものより小さかった。
『最近噂の男が参戦だぁ! 『紅蓮騎士』とは彼のこと! そして予選で見せた渡界術!! 彼もまた、セラフィ選手と同じ渡界人!! 渡界人が二人も参戦した今大会! 何かが起こるに違いないっ!!』
ニオザの物言いがどうにも気になったセラだったが、隣に来たズィーを小声で迎える。
「五位ってすごいじゃん!」真っ直ぐな称賛の言葉。
ズィーは少し胸を張って笑って見せた。「まあな」
その顔はセラにとってとても頼りになる、安心できるものだった。
『五位のズィプガル選手の対戦相手は十二位のポルトー選手だ!』
二人の名前が表に示される。向かい端の方からはポルトーがズィプに向かって手を上げていた。
「さっきの人か」とズィプも軽く手を上げて返した。
トーナメント表左側二段目に二人の名前が表示される。
『第四位! ファントム討伐数、五百五十九! ヤーデン・ガ・ドゥワ!!』
呼ばれて出てきたのは精神統一をしていた、他都市の開拓士団のマントを羽織った男だった。
彼にもまた、ジュメニと同じく大きな歓声が沸き上がる。それはこの世界で名の知れたものの証。
それにしても、別の都市の人間であろう彼への歓声がマグリアの魔闘士であるジュメニに匹敵するとはどういうことだろうかと、セラがふと疑問に思ったところで、すぐに答えは出た。
『開拓士であり、その護衛、一人なのに開拓士団!! ホーンノーレンの生きる伝説が満を持してマグリアの魔導・闘技トーナメントに登場だぁ!! 括目せよぉ! こんなことは滅多にないぞぉ!!!』
さすがにマグリアの開拓士団の帰還で盛り上がった男が司会だけのことはある。彼自身の盛り上がりがとてつもない。
「すっげぇな、一人で開拓士団だってよ」
セラの隣でズィーが感嘆の声を上げる。その様子を見るだけで、一人の開拓士団というものがどれほどのものかが窺える。彼がかつてビズラスに向けていた憧れに揺れるルビー、それに似た目で、ジュメニの隣に向かうヤーデンを見ていたのだから。
『ヤーデン選手は四位、ということで対戦するのは十三位のロマーニ選手だ!』
二人の魔闘士の名が左側一番下の段に現れた。
『さて! ここからはトップスリーの紹介だぁ! 皆さん、心してください! 上位三人は桁が違う!!』
ニオザの興奮した言葉が会場中に届いた。
今まで微動だにせずに壁に寄りかかていた女が腰を浮かす。
『その素早い身のこなしで討伐数を稼いだナギュラ選手! 映像ではブレてしまっていたその動き、会場の全員が注目してるぞぉ!!』
ナギュラはそっけなくィルの隣に辿り着く。
『そして! ここで初戦の組み合わせ一組が決定だぁ! 会場の皆さまは貴賓席反対の白壁を、屋外観戦場の皆さまはスクリーン左上をご覧ください!』
ニオザの言葉に合わせて部屋の壁面に映し出される映像は、コロシアムの貴賓席の向かいにある唯一白い壁を映す。そこにはトーナメント表が映し出されている。左右に八つの指を伸ばした表だ。
『八位のナギュラ選手と対戦すのは九位のチャチ選手! トーナメント表、左側三段目に二人の名前が入ります』
説明通り、トーナメント表に二人の名前が表示される。
『日程は後程説明することにして、続いて――』
『第七位! ファントム討伐数、三百九十五体! セラフィ・ヴィザ・ジルェアス!!』
呼ばれたのはセラの名前だった。
「わたしだ」
「俺の勝ちだな」とズィーがしたり顔になる。
「本戦はこれからでしょ」セラは少々ムキになって言い返す。
「セラちゃん、さあ」とヒュエリが渦巻く扉を促す。
「はい」セラは応えてからヒュエリをはじめに、ジュメニ、ブレグ、そしてズィーとそれぞれにサファイアを向けてから扉を潜った。
ナパードとは違った瞬間移動は一瞬の眩み。
次にセラが目を開けたとき。
目にしたのは全方位を大勢の人々に囲まれる光景。耳にしたのは怒号と間違えんばかりの歓声。
一世界の姫であった彼女でも、戦場に立ったことがある彼女でも、ここまでの人に囲まれたことは初めてのこと。客席は盛り上がる観客たちで波打ち、歓声に空気が震えている。コロシアム全体の鼓動が彼女の体を打ち、少しばかり脇の下の痣に響く。
『なんと彼女はナパスの民!』
ニオザがセラの紹介が始まると、コロシアムの関係者がセラを台まで案内を始める。彼女は案内に従って台に向かってく。
『これを機に『碧き舞い花』の名は世界へ轟くことになることだろおぅ! 魔導書館司書、マグリア警邏隊長に認められその実力! 世界を巡り手にしたその力! 存分に発揮してくれぇっ!! 個人的にも応援してるぞ! セラちゃん!!』
チャチの乗るオルガストルノーン・Ωの隣。台座に上がるセラの顔は苦笑に満ちていた。そして、その視線は貴賓席の次に高い高台で実況するニオザ・フェルーシナを刺す。水晶の付いた拡声器を持ったニオザは首と手を否定を表すように振って、それから斜め下を視線で示した。
実況者の視線の先には筆師がいた。上層客席。他の客席とは違い、広めな一つの部屋となった場所に、独り、ユフォン・ホイコントロはいた。
ニオザから視線を誘導された彼女と視線が合った彼は手のひらを向けて手を振ってくる。
セラはその姿に独り小さくため息を吐いた。
まさか、自分がこんな紹介をされるとは思っていなかった。その情報源は間違いなくユフォンなのだ。『碧き舞い花』というセラに付いた二つ名を知っているのは『夜霧』の者、ビュソノータス回帰軍の長と副官、ヒィズルのケン・セイ一派、ホワッグマーラの筆師くらいなもの。ヒュエリやブレグに認められているというのはマグリアの大会故に仕方ないとして、二つ名まで紹介されてしまうとは。
こんなことになるならホワッグマーラに戻って来たとき、軽くでも話すんじゃなかったかなと心の中で呟くセラだった。
『七位のセラフィ選手が戦うのは十位のィル選手! トーナメント表、右側三段目に二人の名前が入ります』
進行に戻ったニオザが言うと、トーナメント表にセラとィルの名前が表示される。
『第六位! ファントム討伐数、四百五体! ジュメニ・マ・ダレ!!』
ニオザの呼び込みの後、すぐにジュメニが闘技場の中央に現れた。
すると、客席が開会式の開始に次ぐ盛り上がりを見せる。選手紹介では今までで一番の盛り上がりだ。
ジュメニがその大歓声に応えるように、現れた場所で立ち止まったまま腕を掲げて見せると、さらに会場は盛り上がる。これがマグリアで名のある魔闘士に送られる歓声だった。
セラの後方にある壁がビリビリと震えているのが分かる。そんな中でもニオザの拡声された言葉はしっかりと耳に届く。水晶が付いていたことを考えるとこれもマカの一種なのだろう。
『皆さんご存知! ジュメニ選手の登場だぁ!! 若くしてマグリア開拓士団の護衛を率いるその遺伝子はまさに父親譲り! 今回は父、ブレグ隊長を押しのけて優勝することができるのかぁっ!!』
大歓声の鳴り止まぬままに、ジュメニはナギュラの隣に堂々と立つ。
『六位のジュメニ選手と戦うのは十一位のシューロ選手! 両者の名前が右側二段目に刻まれます』
『第五位! ファントム討伐数、四百十三体! ズィプガル・ピャストロン!!』
呼ばれて出てきたズィーへの歓声はやはりジュメニより対してのものより小さかった。
『最近噂の男が参戦だぁ! 『紅蓮騎士』とは彼のこと! そして予選で見せた渡界術!! 彼もまた、セラフィ選手と同じ渡界人!! 渡界人が二人も参戦した今大会! 何かが起こるに違いないっ!!』
ニオザの物言いがどうにも気になったセラだったが、隣に来たズィーを小声で迎える。
「五位ってすごいじゃん!」真っ直ぐな称賛の言葉。
ズィーは少し胸を張って笑って見せた。「まあな」
その顔はセラにとってとても頼りになる、安心できるものだった。
『五位のズィプガル選手の対戦相手は十二位のポルトー選手だ!』
二人の名前が表に示される。向かい端の方からはポルトーがズィプに向かって手を上げていた。
「さっきの人か」とズィプも軽く手を上げて返した。
トーナメント表左側二段目に二人の名前が表示される。
『第四位! ファントム討伐数、五百五十九! ヤーデン・ガ・ドゥワ!!』
呼ばれて出てきたのは精神統一をしていた、他都市の開拓士団のマントを羽織った男だった。
彼にもまた、ジュメニと同じく大きな歓声が沸き上がる。それはこの世界で名の知れたものの証。
それにしても、別の都市の人間であろう彼への歓声がマグリアの魔闘士であるジュメニに匹敵するとはどういうことだろうかと、セラがふと疑問に思ったところで、すぐに答えは出た。
『開拓士であり、その護衛、一人なのに開拓士団!! ホーンノーレンの生きる伝説が満を持してマグリアの魔導・闘技トーナメントに登場だぁ!! 括目せよぉ! こんなことは滅多にないぞぉ!!!』
さすがにマグリアの開拓士団の帰還で盛り上がった男が司会だけのことはある。彼自身の盛り上がりがとてつもない。
「すっげぇな、一人で開拓士団だってよ」
セラの隣でズィーが感嘆の声を上げる。その様子を見るだけで、一人の開拓士団というものがどれほどのものかが窺える。彼がかつてビズラスに向けていた憧れに揺れるルビー、それに似た目で、ジュメニの隣に向かうヤーデンを見ていたのだから。
『ヤーデン選手は四位、ということで対戦するのは十三位のロマーニ選手だ!』
二人の魔闘士の名が左側一番下の段に現れた。
『さて! ここからはトップスリーの紹介だぁ! 皆さん、心してください! 上位三人は桁が違う!!』
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