碧き舞い花

御島いる

筆師の前書き

 それは夢だった。 


 砕け散った水晶のように逃げ惑う人々。
 昼間の太陽より明るく、暑く燃える夜の町。
 戦士たちの怒号は大地を怯えさせ、幼子の悲鳴は炎を喜ばせる。
 それらを覆うのは黒い霧。
 少女はその端正な顔の全てをもってして、泣き叫び、それを見ていた。


 そう、これは夢ではない。
 後に『碧き舞い花』と呼ばれる少女の始まり。
 始まりの悪夢だ。
 少女が実際に体験し、ことあるごとに眠りを邪魔され、うなされるはめになった出来事。


 彼女はよく「あれ以来、熟睡を知らない」と言っていたが、この出来事が無ければ、この『碧き舞い花』という異空の勇者の物語が書けなかったことを思うと、彼女を含め生存している数少ないナパスの民には不謹慎だが、筆師の僕としてはありがたいことだ。
 それに、彼女は今、僕のベッドでようやく熟睡を思い出しているところだろうからよしとしよう。
 僕も早いとこ彼女の横に並びたいけど、今さっき彼女から聞いた物語を新鮮なうちに、スパイスを加えながら書き上げなければならない。なるべく、客観的に語っていくつもりだけど、僕の主観が入ってしまっても許して欲しい。それほど刺激的な物語だということだ。
 早速、彼女、セラことセラフィ・ヴィザ・ジルェアスの出生から語っていくことにしよう。


               『舞い花に誘われし筆師 ユフォン・ホイコントロ』



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