碧き舞い花Ⅱ
376:想いの指針
「結局剣を抜いたな」
「でも後悔したわけじゃない」
セラはナパードして、キノセに斬りかかった。キノセはそれを軽く身を退いて躱す。二人は空中で見据え合う。
「キノセも折れてくれない?」
「お前こそもう折れろよ。もう誰も救えないんだから」
「今はそうかも」
「は?」
「今は確かに誰も救えない。でも……ここでキノセ、あなたを救えたら、それも変わるとわたしは思ってる」
「なにを言ってる」
「わからない。でもそう思うの」
「なにができるっていうんだ。ヴェィルに三権も取られたお前が」
「わたしの中には『種』がある」
「種?」
「想いのままわたしが突き進んだその先に、花が咲くって、わたしは信じてる」
「俺がお前を殺すことを諦めたら、お前はヴェィルたちを皆殺しにして、それからみんなが元に戻るって言うのか。絵空事だな」
「違うよ、キノセ。わたしはヴェィルたちを殺さない。それがわたしの想い」
「いまさらなにをっ? お前は、お前らは異空のためにヴェィルたちと戦ってたはずだ。お前は、ユフォンたちの想いをなかったことにするのか!」
「わたしの選択なら、みんな納得してくれる」
「調子に乗るなよ! そんなの良くてユフォンくらいだ! 苦しめられた挙句、命を奪われてるんだぞ! 誰がその憎しみの矛を収められるっ!」
「……」
「やっぱ駄目だ……お前は殺さなきゃ。俺の中にいるジルェアスこそ、本物なんだと証明するっ!」
キノセは指揮棒に碧い閃きを纏わせ、それから強く振った。
直後、セラは背後に気配を感じ、振り返り様にフォルセスでその攻撃を受け止めた。
セラだ。同じくヴェールを纏ったセラだ。
貝鸚鵡の真珠で作られたキノセの指揮棒、そこに記録されたセラの音から作り出された幻影のセラだ。キノセが囚われている幻影だ。この幻影に打ち勝つことで、キノセが戻ってくるきっかけを作る。
セラは幻影を弾き飛ばし、体勢を崩したところにフォルセスを突き出す。
花が散り、幻影はセラの背後にナパードした。
背中に刃が迫るのを感じるや否や、セラは空間を拡げた。幻影の刃が届くことはなく、セラは離れたところに移動した。すぐにセラはフォルセスをその場で振り下ろす。花が舞い、正面に幻影のセラの背中を迎える。彼女が触れないナパードで移動させたのだ。
「!」
セラは攻撃の手を止め、空を蹴って幻影のセラを超えるように宙を舞った。キノセが彼女の背中を狙って放った音塊を躱すためだ。その音はそのまま真っすぐ進むかに見えたが、方向を転換し宙を舞ったセラを追ってきた。真下で幻影のセラがフォルセスを振り上げていた。
下からの攻撃を受け止め、音には魔素を放つことで対処した。
キノセに加え、幻影とはいえセラ自身。その二人を相手にするのは簡単なことではないと思うセラ。想造を咲かす力を用いればそれも覆るだろう。ただ彼女はどこか意地を張ってか、それを卑怯と思ってか、咲かす力を使うことなくキノセと想いをぶつけ合おうと考えていた。
それがセラの想いのままだった。
不意に抗えない力に身を引かれた。キノセの音率指揮法ではなかった。幻影セラの多体戦闘術だった。自分であるということをうまく利用している。さすがだとセラは心内で自画自賛しつつ、腰のウェィラを抜いてオーウィンを映し出す。
その長さの変化を利用して切っ先を幻影に差し向けた。これには幻影も身を退かざるをえなくなり、引き寄せをやめてセラから離れた。そして幻影もまたフクロウを現して二刀を構えた。
二人は互いに駆け出し、剣を激しく交える。四つの剣は絶え間なく音を立て、交錯する。そこに機を見てキノセが遠距離から幻影の補助をする。
その手数の多さ複雑さには、やはりセラとてその身体に傷を作っていく。深い傷は想造の力で治すが、そう余裕ぶってもいられない。回復による想造の力の擦り減りは激しい。想造が制限を迎えれば、セラが出せる手は想造を咲かせる力のみ。しかしそれは想いに反することで、その域にいざというときに至れないだろうと彼女は考えている。
そうなると想造の力が尽きた時、キノセの想いが果たされる可能性が格段に上がることになる。
キノセの想いが果たされることだけは、避けなければならない。異空のためにも、キノセのためにも。
だからそうなる前に、自分の想いをキノセに叩き込む。
彼女の想いは今、そこだけに向いている。
「でも後悔したわけじゃない」
セラはナパードして、キノセに斬りかかった。キノセはそれを軽く身を退いて躱す。二人は空中で見据え合う。
「キノセも折れてくれない?」
「お前こそもう折れろよ。もう誰も救えないんだから」
「今はそうかも」
「は?」
「今は確かに誰も救えない。でも……ここでキノセ、あなたを救えたら、それも変わるとわたしは思ってる」
「なにを言ってる」
「わからない。でもそう思うの」
「なにができるっていうんだ。ヴェィルに三権も取られたお前が」
「わたしの中には『種』がある」
「種?」
「想いのままわたしが突き進んだその先に、花が咲くって、わたしは信じてる」
「俺がお前を殺すことを諦めたら、お前はヴェィルたちを皆殺しにして、それからみんなが元に戻るって言うのか。絵空事だな」
「違うよ、キノセ。わたしはヴェィルたちを殺さない。それがわたしの想い」
「いまさらなにをっ? お前は、お前らは異空のためにヴェィルたちと戦ってたはずだ。お前は、ユフォンたちの想いをなかったことにするのか!」
「わたしの選択なら、みんな納得してくれる」
「調子に乗るなよ! そんなの良くてユフォンくらいだ! 苦しめられた挙句、命を奪われてるんだぞ! 誰がその憎しみの矛を収められるっ!」
「……」
「やっぱ駄目だ……お前は殺さなきゃ。俺の中にいるジルェアスこそ、本物なんだと証明するっ!」
キノセは指揮棒に碧い閃きを纏わせ、それから強く振った。
直後、セラは背後に気配を感じ、振り返り様にフォルセスでその攻撃を受け止めた。
セラだ。同じくヴェールを纏ったセラだ。
貝鸚鵡の真珠で作られたキノセの指揮棒、そこに記録されたセラの音から作り出された幻影のセラだ。キノセが囚われている幻影だ。この幻影に打ち勝つことで、キノセが戻ってくるきっかけを作る。
セラは幻影を弾き飛ばし、体勢を崩したところにフォルセスを突き出す。
花が散り、幻影はセラの背後にナパードした。
背中に刃が迫るのを感じるや否や、セラは空間を拡げた。幻影の刃が届くことはなく、セラは離れたところに移動した。すぐにセラはフォルセスをその場で振り下ろす。花が舞い、正面に幻影のセラの背中を迎える。彼女が触れないナパードで移動させたのだ。
「!」
セラは攻撃の手を止め、空を蹴って幻影のセラを超えるように宙を舞った。キノセが彼女の背中を狙って放った音塊を躱すためだ。その音はそのまま真っすぐ進むかに見えたが、方向を転換し宙を舞ったセラを追ってきた。真下で幻影のセラがフォルセスを振り上げていた。
下からの攻撃を受け止め、音には魔素を放つことで対処した。
キノセに加え、幻影とはいえセラ自身。その二人を相手にするのは簡単なことではないと思うセラ。想造を咲かす力を用いればそれも覆るだろう。ただ彼女はどこか意地を張ってか、それを卑怯と思ってか、咲かす力を使うことなくキノセと想いをぶつけ合おうと考えていた。
それがセラの想いのままだった。
不意に抗えない力に身を引かれた。キノセの音率指揮法ではなかった。幻影セラの多体戦闘術だった。自分であるということをうまく利用している。さすがだとセラは心内で自画自賛しつつ、腰のウェィラを抜いてオーウィンを映し出す。
その長さの変化を利用して切っ先を幻影に差し向けた。これには幻影も身を退かざるをえなくなり、引き寄せをやめてセラから離れた。そして幻影もまたフクロウを現して二刀を構えた。
二人は互いに駆け出し、剣を激しく交える。四つの剣は絶え間なく音を立て、交錯する。そこに機を見てキノセが遠距離から幻影の補助をする。
その手数の多さ複雑さには、やはりセラとてその身体に傷を作っていく。深い傷は想造の力で治すが、そう余裕ぶってもいられない。回復による想造の力の擦り減りは激しい。想造が制限を迎えれば、セラが出せる手は想造を咲かせる力のみ。しかしそれは想いに反することで、その域にいざというときに至れないだろうと彼女は考えている。
そうなると想造の力が尽きた時、キノセの想いが果たされる可能性が格段に上がることになる。
キノセの想いが果たされることだけは、避けなければならない。異空のためにも、キノセのためにも。
だからそうなる前に、自分の想いをキノセに叩き込む。
彼女の想いは今、そこだけに向いている。
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