碧き舞い花Ⅱ
367:姉妹の絆
「チャチ!」
アレスは目の前の包帯兵たちを蹴散らし、チャチの乗るオルガストルノーン・Ωのもとに辿り着いた。
「アレスさん! 怪我は!?」
問われて、アレスはそうだったと思う。チャチにとってはセラに治される前の、瀕死そのものアレスの姿が最後の記憶だろう。戦いに参加していることなど露ほども思わないだろう。
「セラ様に治してもらったんだ。それより、ΑΩは? ちゃんと完成したか? ムェイが大丈夫か知りたいんだ。あいつなら繋がれるだろ?」
「それはそうですけど」
チャチはオルガの手の平から高エネルギーの塊を発射して敵を撃ちながらアレスに応える。
「ΑΩは今も遠隔で調整中で」
「マジかよ、くそ」
「でも、ムェイさんは大丈夫です! 今はトラセークァスにいて、わたしがこちらも遠隔で機脳の修復をしています。それに現場ではそろそろネルさんたちの機巧の修復が終わります。安心してください、アレスさん。もうすぐ来ますよ、ムェイさん!」
「ほ、ほんとか!」
アレスは戦いの中、目頭が熱くなる。綻ぶ表情を止めることができなかった。
ムェイの機巧の身体の修復はもうすぐ終わる。一安心といきたいところだが、ネルの心は落ち着かない。エァンダが心配でいられない。気配は感じられないが、ずっとなにか騒めいていた。
「やっぱり遠隔だから時間がかかるんですかね」
ペレカの声に、ネルはムェイから顔を上げる。助手は機脳の修復具合を映し出す影光盤を見ていた。倣って見ると、確かに身体の修復具合と差があるようだ。ようやく半分を超えたところだった。
「そうね。それに機脳が複雑なものっていうのもありますわね。機脳に関してはわたしたちよりチャチの方が専門ですわ、任せて待ちましょう」
ネルは今一度、ムェイを見つめた。今は動かなくとも、回復すればトラセークァスから跳び出していくだろう、ムェイ。ネルは、世界に愛されし者である自分が恨めしくて仕方なかった。
意識が、薄い。
身体が、重い。
記憶を辿る。
ヴェィルの子。セラの弟を名乗る男。
戯言ではない、本物の強さだった。
ノアを殺そうとした彼を止めようと戦った。歯が立たなかった。ΑΩとの戦いで疲弊していたと言い訳すらもできないほどの力の差があった。
エァンダの分化体が来たところまで、覚えている。
今はどこにいるのだろう。あのあと、どうなったのだろう。
目を開けたい。しかしそれすらもだるく、身体は言うことを聞かない。
ひらり。
閉じられた視界の中、光の糸が一本垂れてきた。
現実の身体はまだ動かなかったが、ムェイは闇の中、想いの手を伸ばし、その糸を掴んだ。
眩い光に視界が白んだ。その中で、イソラはハツカの存在が消えていくのを感じ取った。
水鹿によって作られた身体だけではない。本当に、イソラの中からも消えていく。
「ハツカ……?」
呼びかけるイソラの声が消え入るのと同時に、視界が戻ってきた。感じ取っていた通り、ハツカの姿はなかった。コゥメルだけが、彼女の視線の先にいた。
「ハツカをどこにやったの!」
イソラは無暗に跳びかかった。冷静な判断などできる状況ではない。鍔のない刀を抜き、空中からコゥメルに向かって振り下ろす。しかし直情的な攻撃は簡単に躱され、刀は地面に突き刺さる。
「お前の想いすら届かない場所だ」
コゥメルがその手の宝珠をイソラに目の前に差し出した。
「それ、フュレイを閉じ込めてたやつっ!」
コゥメルの手からそれを奪おうと手を伸ばしたイソラ。しかし、宝珠は彼女の前から緑色の光と共に消え失せる。
「あっ! 返して! ハツカを返して!」
伸び上がり、コゥメルに殴りかかるが、軽くいなされ彼女は突っ伏す。そしてその背をズシリと踏みつけられる。
「無駄だ。果実を奪ったところで、玉の緒の力を持っていたのはお前じゃなく片割れの方。フュレイの時のようにはいかない。あいつが戻ってくる術はない」
「っく!」
イソラは掌を上に向け、闘気を球体として放った。それはコゥメルに向けられたものであったが、目に見えた攻撃ゆえに、軽く顔を反らされて当たることはなかった。だが、それでいいとイソラは表情を締めた。
次の瞬間、彼女は自身の闘気へと跳鹿で跳んで、コゥメルの上空に出た。
「そんなことない! あたしとハツカならできる!」
天馬で空を蹴り、急降下とともにコゥメルの頬を拳で打った。闘気が迸り、コゥメルは大地をヒビ割りながら沈んだ。
イソラは着地すると、倒れる敵に宣言する。
「必ずハツカは戻ってくるんだから!」
アレスは目の前の包帯兵たちを蹴散らし、チャチの乗るオルガストルノーン・Ωのもとに辿り着いた。
「アレスさん! 怪我は!?」
問われて、アレスはそうだったと思う。チャチにとってはセラに治される前の、瀕死そのものアレスの姿が最後の記憶だろう。戦いに参加していることなど露ほども思わないだろう。
「セラ様に治してもらったんだ。それより、ΑΩは? ちゃんと完成したか? ムェイが大丈夫か知りたいんだ。あいつなら繋がれるだろ?」
「それはそうですけど」
チャチはオルガの手の平から高エネルギーの塊を発射して敵を撃ちながらアレスに応える。
「ΑΩは今も遠隔で調整中で」
「マジかよ、くそ」
「でも、ムェイさんは大丈夫です! 今はトラセークァスにいて、わたしがこちらも遠隔で機脳の修復をしています。それに現場ではそろそろネルさんたちの機巧の修復が終わります。安心してください、アレスさん。もうすぐ来ますよ、ムェイさん!」
「ほ、ほんとか!」
アレスは戦いの中、目頭が熱くなる。綻ぶ表情を止めることができなかった。
ムェイの機巧の身体の修復はもうすぐ終わる。一安心といきたいところだが、ネルの心は落ち着かない。エァンダが心配でいられない。気配は感じられないが、ずっとなにか騒めいていた。
「やっぱり遠隔だから時間がかかるんですかね」
ペレカの声に、ネルはムェイから顔を上げる。助手は機脳の修復具合を映し出す影光盤を見ていた。倣って見ると、確かに身体の修復具合と差があるようだ。ようやく半分を超えたところだった。
「そうね。それに機脳が複雑なものっていうのもありますわね。機脳に関してはわたしたちよりチャチの方が専門ですわ、任せて待ちましょう」
ネルは今一度、ムェイを見つめた。今は動かなくとも、回復すればトラセークァスから跳び出していくだろう、ムェイ。ネルは、世界に愛されし者である自分が恨めしくて仕方なかった。
意識が、薄い。
身体が、重い。
記憶を辿る。
ヴェィルの子。セラの弟を名乗る男。
戯言ではない、本物の強さだった。
ノアを殺そうとした彼を止めようと戦った。歯が立たなかった。ΑΩとの戦いで疲弊していたと言い訳すらもできないほどの力の差があった。
エァンダの分化体が来たところまで、覚えている。
今はどこにいるのだろう。あのあと、どうなったのだろう。
目を開けたい。しかしそれすらもだるく、身体は言うことを聞かない。
ひらり。
閉じられた視界の中、光の糸が一本垂れてきた。
現実の身体はまだ動かなかったが、ムェイは闇の中、想いの手を伸ばし、その糸を掴んだ。
眩い光に視界が白んだ。その中で、イソラはハツカの存在が消えていくのを感じ取った。
水鹿によって作られた身体だけではない。本当に、イソラの中からも消えていく。
「ハツカ……?」
呼びかけるイソラの声が消え入るのと同時に、視界が戻ってきた。感じ取っていた通り、ハツカの姿はなかった。コゥメルだけが、彼女の視線の先にいた。
「ハツカをどこにやったの!」
イソラは無暗に跳びかかった。冷静な判断などできる状況ではない。鍔のない刀を抜き、空中からコゥメルに向かって振り下ろす。しかし直情的な攻撃は簡単に躱され、刀は地面に突き刺さる。
「お前の想いすら届かない場所だ」
コゥメルがその手の宝珠をイソラに目の前に差し出した。
「それ、フュレイを閉じ込めてたやつっ!」
コゥメルの手からそれを奪おうと手を伸ばしたイソラ。しかし、宝珠は彼女の前から緑色の光と共に消え失せる。
「あっ! 返して! ハツカを返して!」
伸び上がり、コゥメルに殴りかかるが、軽くいなされ彼女は突っ伏す。そしてその背をズシリと踏みつけられる。
「無駄だ。果実を奪ったところで、玉の緒の力を持っていたのはお前じゃなく片割れの方。フュレイの時のようにはいかない。あいつが戻ってくる術はない」
「っく!」
イソラは掌を上に向け、闘気を球体として放った。それはコゥメルに向けられたものであったが、目に見えた攻撃ゆえに、軽く顔を反らされて当たることはなかった。だが、それでいいとイソラは表情を締めた。
次の瞬間、彼女は自身の闘気へと跳鹿で跳んで、コゥメルの上空に出た。
「そんなことない! あたしとハツカならできる!」
天馬で空を蹴り、急降下とともにコゥメルの頬を拳で打った。闘気が迸り、コゥメルは大地をヒビ割りながら沈んだ。
イソラは着地すると、倒れる敵に宣言する。
「必ずハツカは戻ってくるんだから!」
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