碧き舞い花Ⅱ
354:想造の先の衝突
荒涼とした風が吹いた。
どこかで、瓦礫が崩れ、水に落ちた音がした。
それを合図に、姉弟は駆け出した。あまりにも速く、一筋の碧と黒となってぶつかった。人の形を取り戻した時、染み出した色は二人の間でぴたりと境を作り出す。
上へ下へ、ビルの壁を縦横へ動き回りながら、二人は目にも止まらぬ速さで剣を打ち合う。火花の代わりに碧き花と黒き靄が散る。
そのうち二人はビルを突き破る巨大な樹の枝へと戦いの場を移していく。
躱された斬撃はビルや大樹を巻き込み、切断する。二人が生み出す衝撃が、ヲーンをより荒廃させていく。
それをヲーンが怒ったのか、悲しんだのか、特有の大雨を二人にめがけて降らせた。
滝のような雨により、二人は互いに退き、分断される。雨は大樹はおろか、水面までもを穿つ。だがセラはそれに気を取られることはない。ビルの屋上に降りたセラのすぐ横に、ディンが現れた。
その手には剣はなく、セラの首を掴んできた。
「っぐ……うぅ」
ただ首を絞めたわけではなさそうだ。意味があった。
セラを取り巻く碧が、徐々に縮みだした。反対に黒が拡がり、セラを碧もろとも包み込んだ。
想いの力が奪われている。
「父上のように絶することはできないが、俺は想造を抑え込む。まさか奪えるとは、俺自身も思わなかったけどな」
想造の民の半血が互いに想造の先にある力同士をぶつけ合うのは、きっと異空史上この戦いが初めてだろう。だからこそ今まで知りえなかったことが浮かび上がってくる。
ディンがそうならば、セラだってそうだろう。
「わたしの想いは絶えない」
セラはウェィラを腰に納めると、空いた手でディンの手首を握った。
「絶えない? それは無理だ、姉さん。想造を絶する力は絶対だ。父上の前ではなにもかもが無力。それは知ってるだろ?」
「どうかな? 想いは咲き続ける」
セラは弟ににっと笑って見せた。その瞬間、碧が膨れ上がる。包み込んでいた黒を、反対に包み込む。
目を瞠ったディンはセラを離して飛び退く。セラが振ったフォルセスが空を斬る。彼女から離れたディンの黒は、元の大きさに戻っていく。
「長引きそうだな、この戦い」
「そう? 案外早く終わるかもよ」
セラは左手を伸ばし、なにかを掴むようにしながら引いた。すると、ビルの屋上がディンを巻き込みながらセラの方へ大きく湾曲しはじめた。これは場の権の力だ。
床を滑りセラの方へ近づいてくるディンに向かって大きく跳躍するセラ。フォルセスを陽炎に揺らめかせ、ディンを一閃する。
斬り抜け、ディンを一瞥しながらセラは言う。「わたしには三権の力もある」
ディンの傷は浅く、見た目には致命傷ではなかった。それでも彼は苦痛に顔を歪めて、力なく屋上から落ちていった。終の権の力は絶大だった。
「なめるなっ!」
一時は収縮を見せた黒だったが、体勢を整え、傷を癒したディンに合わせて再び膨れ上がった。
「俺には憎しみがある! それこそ生まれた時から絶えたことのない、あなたへの憎しみが!」
セラの想いの力を奪った時のように、黒と靄は広がり続ける。そうして、ディンが水に浸かった瓦礫の上に降り立った時には、屋上にいるセラをも包んでいた。
セラの碧は消えていない。彼女がそれを確かめるように視線を動かすと、その先にいつの間にかディンがいた。粒子の剣の切っ先がセラを狙う。
「!?」
間一髪で身を退き、鼻の先で剣を見送るセラ。視界にディンの腕が入った瞬間に、それを左手で掴んで、攻撃の進行方向に引っ張る。前のめったディンの顔を右の肘で迎える。
左手を離し、仰け反ったディンの顔に追い打ちをかけようと、拳を握る。
しかし彼女は左肩を強く後ろに引かれた。さっきもいつの間にかだったが、またしても彼女の感知の外でディンが動いた。
身体を無理矢理反転させられたセラは、その頬にディンの拳を受け入れた。よろめいた彼女は、追撃を許さぬように衝撃波をディンのいた方へと放った。そこにディンがいるのか不安に思いながら。
というのも、やはりセラにはディンの気配が感じ取れなくなっていた。考えられるのは膨れ上がった想いの力だろう。
「あっ……!?」
立て直したセラはすぐに羽交い絞めにされた。彼女の放った衝撃は、虚しくヲーンの空を揺らしただけだった。
「ほらね、姉さん」
ディンが耳元で囁く。
「俺の憎しみの方が強い。三権を使ったて無駄だ。三権を制御できるのは父上だけだ」
「ヴェィルは三権を宿せないでしょ」
「どうかな、娘よ」
黒き閃光を伴い、二人の前に父親が現れた。
「ヴェィルっ!」
どこかで、瓦礫が崩れ、水に落ちた音がした。
それを合図に、姉弟は駆け出した。あまりにも速く、一筋の碧と黒となってぶつかった。人の形を取り戻した時、染み出した色は二人の間でぴたりと境を作り出す。
上へ下へ、ビルの壁を縦横へ動き回りながら、二人は目にも止まらぬ速さで剣を打ち合う。火花の代わりに碧き花と黒き靄が散る。
そのうち二人はビルを突き破る巨大な樹の枝へと戦いの場を移していく。
躱された斬撃はビルや大樹を巻き込み、切断する。二人が生み出す衝撃が、ヲーンをより荒廃させていく。
それをヲーンが怒ったのか、悲しんだのか、特有の大雨を二人にめがけて降らせた。
滝のような雨により、二人は互いに退き、分断される。雨は大樹はおろか、水面までもを穿つ。だがセラはそれに気を取られることはない。ビルの屋上に降りたセラのすぐ横に、ディンが現れた。
その手には剣はなく、セラの首を掴んできた。
「っぐ……うぅ」
ただ首を絞めたわけではなさそうだ。意味があった。
セラを取り巻く碧が、徐々に縮みだした。反対に黒が拡がり、セラを碧もろとも包み込んだ。
想いの力が奪われている。
「父上のように絶することはできないが、俺は想造を抑え込む。まさか奪えるとは、俺自身も思わなかったけどな」
想造の民の半血が互いに想造の先にある力同士をぶつけ合うのは、きっと異空史上この戦いが初めてだろう。だからこそ今まで知りえなかったことが浮かび上がってくる。
ディンがそうならば、セラだってそうだろう。
「わたしの想いは絶えない」
セラはウェィラを腰に納めると、空いた手でディンの手首を握った。
「絶えない? それは無理だ、姉さん。想造を絶する力は絶対だ。父上の前ではなにもかもが無力。それは知ってるだろ?」
「どうかな? 想いは咲き続ける」
セラは弟ににっと笑って見せた。その瞬間、碧が膨れ上がる。包み込んでいた黒を、反対に包み込む。
目を瞠ったディンはセラを離して飛び退く。セラが振ったフォルセスが空を斬る。彼女から離れたディンの黒は、元の大きさに戻っていく。
「長引きそうだな、この戦い」
「そう? 案外早く終わるかもよ」
セラは左手を伸ばし、なにかを掴むようにしながら引いた。すると、ビルの屋上がディンを巻き込みながらセラの方へ大きく湾曲しはじめた。これは場の権の力だ。
床を滑りセラの方へ近づいてくるディンに向かって大きく跳躍するセラ。フォルセスを陽炎に揺らめかせ、ディンを一閃する。
斬り抜け、ディンを一瞥しながらセラは言う。「わたしには三権の力もある」
ディンの傷は浅く、見た目には致命傷ではなかった。それでも彼は苦痛に顔を歪めて、力なく屋上から落ちていった。終の権の力は絶大だった。
「なめるなっ!」
一時は収縮を見せた黒だったが、体勢を整え、傷を癒したディンに合わせて再び膨れ上がった。
「俺には憎しみがある! それこそ生まれた時から絶えたことのない、あなたへの憎しみが!」
セラの想いの力を奪った時のように、黒と靄は広がり続ける。そうして、ディンが水に浸かった瓦礫の上に降り立った時には、屋上にいるセラをも包んでいた。
セラの碧は消えていない。彼女がそれを確かめるように視線を動かすと、その先にいつの間にかディンがいた。粒子の剣の切っ先がセラを狙う。
「!?」
間一髪で身を退き、鼻の先で剣を見送るセラ。視界にディンの腕が入った瞬間に、それを左手で掴んで、攻撃の進行方向に引っ張る。前のめったディンの顔を右の肘で迎える。
左手を離し、仰け反ったディンの顔に追い打ちをかけようと、拳を握る。
しかし彼女は左肩を強く後ろに引かれた。さっきもいつの間にかだったが、またしても彼女の感知の外でディンが動いた。
身体を無理矢理反転させられたセラは、その頬にディンの拳を受け入れた。よろめいた彼女は、追撃を許さぬように衝撃波をディンのいた方へと放った。そこにディンがいるのか不安に思いながら。
というのも、やはりセラにはディンの気配が感じ取れなくなっていた。考えられるのは膨れ上がった想いの力だろう。
「あっ……!?」
立て直したセラはすぐに羽交い絞めにされた。彼女の放った衝撃は、虚しくヲーンの空を揺らしただけだった。
「ほらね、姉さん」
ディンが耳元で囁く。
「俺の憎しみの方が強い。三権を使ったて無駄だ。三権を制御できるのは父上だけだ」
「ヴェィルは三権を宿せないでしょ」
「どうかな、娘よ」
黒き閃光を伴い、二人の前に父親が現れた。
「ヴェィルっ!」
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