碧き舞い花Ⅱ
329:最強の兵器
「団長くん」
モェラが静かに言う。
「あなたは最初、ノージェの仇を討てることを喜んでいた。その気持ちは消えていないんでしょう?」
「ああ、消えてない」
「わけがわからないわ……仲間に誘っておきながら、わたしを殺したい? いつか殺されるとわかっていながら、仲間になれっていうの?」
苦笑気味に言うのモェラに、ズィードはあっけらかんと言う。
「仲間は殺さないだろ」
「……どういう」
「いいんだよ、そんな細かいことは! とにかく、ケルバにも頼まれたし、お前はもうさすらい義団の一員。俺の仲間だ。てか俺が決めたんだから、俺の仲間だ! なにかあれば団長の俺がどうにかするから、安心しろっ」
「……わからない」
「そうだな、こいつは時々わからない。理屈じゃないんだ」
ソクァムがズィードの横に来て、肩を小突いた。
「けど、それがズィードだ。そのうちわかるようになる」
「とにかくだ」
ダジャールがモェラに歩み寄り、それから強引に彼女を立たせた。
「団長が決めことだ。文句は言わねえし、言わせねえ」
モェラの背中を叩いてズィードの方へ歩かせると、自分はズィードの横に並ぶダジャール。ズィードの周りには、既にほかのメンバーも集まっていた。みんなの顔に複雑なものはない。誰もが笑顔でモェラを見てた。
「お前ももうさすらい義団の一員になったんだからな」
ダジャールが言って鼻を鳴らした。
「……」
さすらい義団の面々を順に見つめていくモェラ。最後に中心のズィードにまた戻ってくる。その時だった、目が合うか合わないかというその時、ズィードは急に意識が遠のいてふらついた。
仲間たちが慌てて支えてくれる。
「はははっ、悪い……死にそう……」
強がって笑ってみるが、腹が痛むだけだった。
「イテテっ……」
「痛ぇ……」アレスは肩に乗った粉塵を払いながら、瓦礫の中から立ち上がる。「セラ! 大丈夫か!」
すぐそばで瓦礫を押し退け、中からムェイが出てきた。「大丈夫」
見回すと、『動く要塞』は壊滅状態だった。至る所から黒煙が上り、一面瓦礫の山だった。アレスはムェイの元へ瓦礫の上を歩いていく。
チャチの新兵器開発を待ってムェイのアップグレードをすることになり、二人はジュコの中でも比較的静かな居住区の公園で時間を潰していた。その最中、要塞が大きく揺れ、二人は周囲の建造物共々大きく吹き飛ばされたのだった。
「なにが起きたんだ。なんの爆発? それとも攻撃か?」
「わからない」ムェイは辺りを見回す。「敵意のある気配はないし……工場の方に行ってみよう。チャチたちの気配が小さくなってる。瓦礫に埋まってるのかも」
「ああ、もしかしたら、兵器作るの失敗したのかもしれないしな」
「成功だよ。アレス・アージェント、ムェイ」
「!?」
「誰だ!」
男の声に二人が振り返ると、機械人間が立っていた。その形状はチャチの乗る戦闘用の人型機械オルガストルノーンと同系統と見て取れた。
機械人間自体に気配がないのは当然。しかし、機脳を搭載した機巧であるムェイと違い、操縦者が必要なのが機械人間だ。操縦者の気配は小さくとも感じ取れるのが常。まったく感じ取れずにアレスとムェイが背後を取られるなどあり得なかった。小人は自身での戦闘をしない。気配を隠せるほどの実力を持つ者などいるはずがなかった。
それに目の前の機械人間からははっきりと男の声が発せられていた。中に小人が乗っている証拠だろう。
ムェイが思案顔で呟いた。「超隠密装置……」
「ネルのやつか」アレスはムェイに確認するように言う。「あいつ、成功って言ったな。最強の兵器のことだとしたら、確かに、気配を頼りに戦う相手には大きく有利に立てる」
「うん、でも」
ムェイは頷いたが、顰めた顔で機械人間を見つめる。
「チャチがここにいないなら、あなたは誰なの? チャチならまず自分で乗るはず。それにこの状況はやっぱり、手放しに成功だって喜べる状況じゃない」
「機脳生命体ムェイ……」機械人間から発せられる声は無機質に落ち着いている。「同じ機脳を積んでいるというのに、どうしてそんなに残念なんだ。いいやそれも当然か。機脳を積んだ機巧はあまりにも生命に近づきすぎた。それ故に、不合理が生まれたのだ。感情という不合理が」
アレスは訝しむ。「なに言ってんだこいつ?」
「だが『夜霧』にはそれでよかった。ヴェィルの器という目的だったからだ。だが、真に最強の兵器となれば別だ。感情など必要ない。正確な判断を下す脳と、それを実行できる身体があればいい」
「おい、演説するなら姿見せたらどうだ? 頭開けて姿見せろよ」
「その必要はないのだ、アレス・アージェント。俺はすでに姿を見せている」
アレスはムェイと互いに顔を見合わせて、眉を顰めた。そして二人でまた機械人間を見やる。すると彼は頭を開いて見せた。そしてそこには誰も乗っていなかった。空っぽだ。
「!?」
「操縦者など必要ないのだ」開口部を閉めると瞬きのない目がアレスとムェイを見た。「俺こそが、最強の兵器。機種オルガストルノーン。型番ΑΩ。これより最高の頭脳が導いた結論を実行する」
オルガは金属の腕を流動させると、両腕をくっつけた。一本となった前腕は砲口となり、莫大な力がそこに集まって光る。
「解放だ」
モェラが静かに言う。
「あなたは最初、ノージェの仇を討てることを喜んでいた。その気持ちは消えていないんでしょう?」
「ああ、消えてない」
「わけがわからないわ……仲間に誘っておきながら、わたしを殺したい? いつか殺されるとわかっていながら、仲間になれっていうの?」
苦笑気味に言うのモェラに、ズィードはあっけらかんと言う。
「仲間は殺さないだろ」
「……どういう」
「いいんだよ、そんな細かいことは! とにかく、ケルバにも頼まれたし、お前はもうさすらい義団の一員。俺の仲間だ。てか俺が決めたんだから、俺の仲間だ! なにかあれば団長の俺がどうにかするから、安心しろっ」
「……わからない」
「そうだな、こいつは時々わからない。理屈じゃないんだ」
ソクァムがズィードの横に来て、肩を小突いた。
「けど、それがズィードだ。そのうちわかるようになる」
「とにかくだ」
ダジャールがモェラに歩み寄り、それから強引に彼女を立たせた。
「団長が決めことだ。文句は言わねえし、言わせねえ」
モェラの背中を叩いてズィードの方へ歩かせると、自分はズィードの横に並ぶダジャール。ズィードの周りには、既にほかのメンバーも集まっていた。みんなの顔に複雑なものはない。誰もが笑顔でモェラを見てた。
「お前ももうさすらい義団の一員になったんだからな」
ダジャールが言って鼻を鳴らした。
「……」
さすらい義団の面々を順に見つめていくモェラ。最後に中心のズィードにまた戻ってくる。その時だった、目が合うか合わないかというその時、ズィードは急に意識が遠のいてふらついた。
仲間たちが慌てて支えてくれる。
「はははっ、悪い……死にそう……」
強がって笑ってみるが、腹が痛むだけだった。
「イテテっ……」
「痛ぇ……」アレスは肩に乗った粉塵を払いながら、瓦礫の中から立ち上がる。「セラ! 大丈夫か!」
すぐそばで瓦礫を押し退け、中からムェイが出てきた。「大丈夫」
見回すと、『動く要塞』は壊滅状態だった。至る所から黒煙が上り、一面瓦礫の山だった。アレスはムェイの元へ瓦礫の上を歩いていく。
チャチの新兵器開発を待ってムェイのアップグレードをすることになり、二人はジュコの中でも比較的静かな居住区の公園で時間を潰していた。その最中、要塞が大きく揺れ、二人は周囲の建造物共々大きく吹き飛ばされたのだった。
「なにが起きたんだ。なんの爆発? それとも攻撃か?」
「わからない」ムェイは辺りを見回す。「敵意のある気配はないし……工場の方に行ってみよう。チャチたちの気配が小さくなってる。瓦礫に埋まってるのかも」
「ああ、もしかしたら、兵器作るの失敗したのかもしれないしな」
「成功だよ。アレス・アージェント、ムェイ」
「!?」
「誰だ!」
男の声に二人が振り返ると、機械人間が立っていた。その形状はチャチの乗る戦闘用の人型機械オルガストルノーンと同系統と見て取れた。
機械人間自体に気配がないのは当然。しかし、機脳を搭載した機巧であるムェイと違い、操縦者が必要なのが機械人間だ。操縦者の気配は小さくとも感じ取れるのが常。まったく感じ取れずにアレスとムェイが背後を取られるなどあり得なかった。小人は自身での戦闘をしない。気配を隠せるほどの実力を持つ者などいるはずがなかった。
それに目の前の機械人間からははっきりと男の声が発せられていた。中に小人が乗っている証拠だろう。
ムェイが思案顔で呟いた。「超隠密装置……」
「ネルのやつか」アレスはムェイに確認するように言う。「あいつ、成功って言ったな。最強の兵器のことだとしたら、確かに、気配を頼りに戦う相手には大きく有利に立てる」
「うん、でも」
ムェイは頷いたが、顰めた顔で機械人間を見つめる。
「チャチがここにいないなら、あなたは誰なの? チャチならまず自分で乗るはず。それにこの状況はやっぱり、手放しに成功だって喜べる状況じゃない」
「機脳生命体ムェイ……」機械人間から発せられる声は無機質に落ち着いている。「同じ機脳を積んでいるというのに、どうしてそんなに残念なんだ。いいやそれも当然か。機脳を積んだ機巧はあまりにも生命に近づきすぎた。それ故に、不合理が生まれたのだ。感情という不合理が」
アレスは訝しむ。「なに言ってんだこいつ?」
「だが『夜霧』にはそれでよかった。ヴェィルの器という目的だったからだ。だが、真に最強の兵器となれば別だ。感情など必要ない。正確な判断を下す脳と、それを実行できる身体があればいい」
「おい、演説するなら姿見せたらどうだ? 頭開けて姿見せろよ」
「その必要はないのだ、アレス・アージェント。俺はすでに姿を見せている」
アレスはムェイと互いに顔を見合わせて、眉を顰めた。そして二人でまた機械人間を見やる。すると彼は頭を開いて見せた。そしてそこには誰も乗っていなかった。空っぽだ。
「!?」
「操縦者など必要ないのだ」開口部を閉めると瞬きのない目がアレスとムェイを見た。「俺こそが、最強の兵器。機種オルガストルノーン。型番ΑΩ。これより最高の頭脳が導いた結論を実行する」
オルガは金属の腕を流動させると、両腕をくっつけた。一本となった前腕は砲口となり、莫大な力がそこに集まって光る。
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