碧き舞い花Ⅱ
322:目覚めの使者
翌朝、セラは与えられた部屋のベッドの上で影光盤と対面していた。
影光盤には美しい顔の老人が映る。自分も歳を重ねたらこうなるだろうかと、思いを馳せながらセラは影光盤に手を重ねる。
「ただいま、ノア」
「おかえり、セラ」
ノアもセラの手に自身の手を重ねた。すると温もりが伝わってきた気がした。
帰ったことの報告。イソラたちと同じで、長く話すことはできない。それでもこの一時が必要なものだと感じる。
「全部終わったら、ゆっくり話そうね」
「うん。待ってるよ。気長にね」
「ナパードくらい一瞬だよ、今回は」
冗談を言い合い、互いに微笑みを零す。
「じゃあ、また」
「うん、またね」
影光盤が消え、セラの手は空を押す。僅かに風がそよぎ、温もりを奪ったような気がした。
コンッ、コンッ――。
扉を叩く音がして、それからユフォンが顔を覗かせた。
「ノアは元気だったかい?」
「うん。未来の自分を見てるみたいだった」セラはベッドから立ち上がり、ユフォンの元へ向かう。「それで、わたしたちはどこへ向かうの?」
彼はネルとエァンダに、自分たちが仲間を起こすために向かうべき場所を聞きに行っていた。
「実は、別々なんだ」ユフォンは少しがっかりした様子で言った。「僕がホワッグマーラで、セラがビュソノータス」
「ジュランたちか……」
セラは思い出と共に気配を探ろうとして気付く。ネルの超隠密装置によって世界ごと隠れている現状では誰の気配も探れないのだ。
いや。
「そういえば、どうしてエァンダとフェズさんの気配は感じ取れたんだろう」
「ああ、二人はわざと気配を漏らしてるんだって。抑止力になるから。だからエァンダは誰のことも起こしに行けないらしんだけど」
「そっか」
エァンダの気配により場所の割れているトラセークァス。そこから彼が離れればネルたちに危険が及ぶことになる。
ヴェィルたちに対しての抑止力になる。それがいったいどれほど大変なことか。ただ気配を漏らして存在を示すだけでは的になるだけだ。そうならないのはエァンダとフェズが、漏らしている気配以上の力を秘めているということだ。想絶を持つヴェィルにすら手出しをさせないほどの力が。
あるいは。
ネルが言ったように、ヴェィルたちにとってはそもそも眼中になにかも知れない。
セラがそんなことを考えていると、ユフォンが一枚の厚手の紙をセラに差し出した。
「で、異空図も役に立たない現状で、仲間たちを起こしに行くにはこれを使う。もちろん、フェズがいるホワッグマーラの僕は関係ないけど」
苦笑するユフォンから、神を受けるとセラ。一目では異空図に見えるが、その紙には黒い線で各世界が描かれているわけではなく、桃紫の粉の集まりが蠢いていた。
「『夢見儀』だって、ここに捜したい人の血を垂らすと、その人がどこで夢を見てるか示してくれるって。各地の代表から血をもらってて、これがプライさんの血だって」
今度は赤い液体の入った指先ほどの小瓶をユフォンから受け取るセラ。
「ジュランじゃないんだね」
笑いながら、セラはさっそく小瓶の血を『夢見儀』に垂らした。すると粉が一斉に動き出し、血を吸うと、意思を持つように地図を描いて、目的地と思われる場所に小さな丸を作った。
「そこがビュソノータスだね」
「うん、じゃあ行ってくる。気を付けてね、ユフォン」
「ははっ、僕の方は大丈夫だよ。フェズもいるし。まあセラも大丈夫だと思うけど、お互いに無事に集合地で」
セラは頷きを返して、『夢見儀』の示すビュソノータスへと跳んだ。
ビュソノータスに来たとわかる、寒さと蒼白い大地。そして白波の海。
各地で眠る戦士たちは、ヴェィルたちに簡単に見つかり、攻撃を受けないように、超隠密装置のほかに、様々な工夫を凝らして世界の中でも隠れている。ビュソノータスの戦士たちは今セラが目の前にしている海の中だ。
海底に眠る要塞。回帰軍が三部族をまとめ上げる前、海原族が遺跡を改造して使っていた要塞だ。海原族は三部族の中でも技術力が高く、エラによる呼吸が必要な海底という他部族が攻めづらい場所を選べたため、そのまま三部族間での戦争が続いていれば、勝利を納めていた可能性が一番高かっただろう。
セラは外在力で空気を纏った。ビュソノータスで外在力とはと思いながら。
空気を操り、自身を囲う球体に仕上げる。これで呼吸に問題はない。あとはどう探すかだった。ノアの揺籃によって気配を感じられない。敵にバレないよう、目印もない。フィアルムの探偵七つ道具『残り香追いし蛍』があればプライの血で彼を追えるのだろうが、渡しそびれたということもないだろうし、ネルたちもそこまでは用意していないらしい。
「それともわたしだから、とか……?」
独り言ち、肩を竦めるとセラは一度目を閉じた。どうせなら粒子を感じ取ってみようと思った。波とは違うのなら、もしかしたら隠せていないかもしれないと考えた。
目を開け、そして案の定。
「バーゼィかィエドゥがいたら、危なかったかも……」
戦士が集団で眠っているだけあって、海底にまとまった粒子を見たセラだった。
影光盤には美しい顔の老人が映る。自分も歳を重ねたらこうなるだろうかと、思いを馳せながらセラは影光盤に手を重ねる。
「ただいま、ノア」
「おかえり、セラ」
ノアもセラの手に自身の手を重ねた。すると温もりが伝わってきた気がした。
帰ったことの報告。イソラたちと同じで、長く話すことはできない。それでもこの一時が必要なものだと感じる。
「全部終わったら、ゆっくり話そうね」
「うん。待ってるよ。気長にね」
「ナパードくらい一瞬だよ、今回は」
冗談を言い合い、互いに微笑みを零す。
「じゃあ、また」
「うん、またね」
影光盤が消え、セラの手は空を押す。僅かに風がそよぎ、温もりを奪ったような気がした。
コンッ、コンッ――。
扉を叩く音がして、それからユフォンが顔を覗かせた。
「ノアは元気だったかい?」
「うん。未来の自分を見てるみたいだった」セラはベッドから立ち上がり、ユフォンの元へ向かう。「それで、わたしたちはどこへ向かうの?」
彼はネルとエァンダに、自分たちが仲間を起こすために向かうべき場所を聞きに行っていた。
「実は、別々なんだ」ユフォンは少しがっかりした様子で言った。「僕がホワッグマーラで、セラがビュソノータス」
「ジュランたちか……」
セラは思い出と共に気配を探ろうとして気付く。ネルの超隠密装置によって世界ごと隠れている現状では誰の気配も探れないのだ。
いや。
「そういえば、どうしてエァンダとフェズさんの気配は感じ取れたんだろう」
「ああ、二人はわざと気配を漏らしてるんだって。抑止力になるから。だからエァンダは誰のことも起こしに行けないらしんだけど」
「そっか」
エァンダの気配により場所の割れているトラセークァス。そこから彼が離れればネルたちに危険が及ぶことになる。
ヴェィルたちに対しての抑止力になる。それがいったいどれほど大変なことか。ただ気配を漏らして存在を示すだけでは的になるだけだ。そうならないのはエァンダとフェズが、漏らしている気配以上の力を秘めているということだ。想絶を持つヴェィルにすら手出しをさせないほどの力が。
あるいは。
ネルが言ったように、ヴェィルたちにとってはそもそも眼中になにかも知れない。
セラがそんなことを考えていると、ユフォンが一枚の厚手の紙をセラに差し出した。
「で、異空図も役に立たない現状で、仲間たちを起こしに行くにはこれを使う。もちろん、フェズがいるホワッグマーラの僕は関係ないけど」
苦笑するユフォンから、神を受けるとセラ。一目では異空図に見えるが、その紙には黒い線で各世界が描かれているわけではなく、桃紫の粉の集まりが蠢いていた。
「『夢見儀』だって、ここに捜したい人の血を垂らすと、その人がどこで夢を見てるか示してくれるって。各地の代表から血をもらってて、これがプライさんの血だって」
今度は赤い液体の入った指先ほどの小瓶をユフォンから受け取るセラ。
「ジュランじゃないんだね」
笑いながら、セラはさっそく小瓶の血を『夢見儀』に垂らした。すると粉が一斉に動き出し、血を吸うと、意思を持つように地図を描いて、目的地と思われる場所に小さな丸を作った。
「そこがビュソノータスだね」
「うん、じゃあ行ってくる。気を付けてね、ユフォン」
「ははっ、僕の方は大丈夫だよ。フェズもいるし。まあセラも大丈夫だと思うけど、お互いに無事に集合地で」
セラは頷きを返して、『夢見儀』の示すビュソノータスへと跳んだ。
ビュソノータスに来たとわかる、寒さと蒼白い大地。そして白波の海。
各地で眠る戦士たちは、ヴェィルたちに簡単に見つかり、攻撃を受けないように、超隠密装置のほかに、様々な工夫を凝らして世界の中でも隠れている。ビュソノータスの戦士たちは今セラが目の前にしている海の中だ。
海底に眠る要塞。回帰軍が三部族をまとめ上げる前、海原族が遺跡を改造して使っていた要塞だ。海原族は三部族の中でも技術力が高く、エラによる呼吸が必要な海底という他部族が攻めづらい場所を選べたため、そのまま三部族間での戦争が続いていれば、勝利を納めていた可能性が一番高かっただろう。
セラは外在力で空気を纏った。ビュソノータスで外在力とはと思いながら。
空気を操り、自身を囲う球体に仕上げる。これで呼吸に問題はない。あとはどう探すかだった。ノアの揺籃によって気配を感じられない。敵にバレないよう、目印もない。フィアルムの探偵七つ道具『残り香追いし蛍』があればプライの血で彼を追えるのだろうが、渡しそびれたということもないだろうし、ネルたちもそこまでは用意していないらしい。
「それともわたしだから、とか……?」
独り言ち、肩を竦めるとセラは一度目を閉じた。どうせなら粒子を感じ取ってみようと思った。波とは違うのなら、もしかしたら隠せていないかもしれないと考えた。
目を開け、そして案の定。
「バーゼィかィエドゥがいたら、危なかったかも……」
戦士が集団で眠っているだけあって、海底にまとまった粒子を見たセラだった。
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