碧き舞い花Ⅱ
299:飽食の権化
蹴り上げられて吹き飛ぶかと思った瞬間、ズーデルは足首を掴まれた。そのまま引っ張られ、壁に叩きつけられた。休むことなく振られ、今度は床に落とされた。
「……っくぁ、くっ!」
陽炎を放つ。
バーゼィは陽炎を手で掴み、握って小さくすると大きく開けた口に頬り込んだ。そうして飲み込むと、ズーデルを見下ろして、舌なめずりをして見せた。
「なっ!?」
「驚くことねえ。だって俺は、飽食の権化だからな」
脚を大きく振り上げるバーゼィ。次の瞬間には彼の靴底が、ズーデルの腹に食い込んだ。
ただの踏みつけとはわけが違った。当然のように足からも衝撃が放出され、ズーデルの身体を突き抜ける。
「ぁがっ……」
内臓が損傷しただろう。だがそれもすぐに治る。痛みに少し耐えればいい。
そう簡単に死ぬことはないだろうが、劣勢を覆せなければ負けしかない。もっと、力が。
三権のすべてをこの身に戻さなければ。
ズーデルはバーゼィに踏みつけられたまま、迷宮の中央に伸びる光の柱を見やる。三権を感じる。自分だけがそのすべてを手に入れた。
「『それら』は『俺』になったんだ」
ズーデルは呟き、遠く光の柱に手を伸ばす。途端、腹が軽くなったかと思うと、伸ばした腕を踏み潰された。
「ぐあっ……! やってくれるねっ!」
反対の手でバーゼィの足首を掴んで、そこから終の権の陽炎を発生させる。透過されないよう、床でも足を拘束しながら。
「これなら食べられないでしょ! それとも自分の脚ごと食べるとか?」
「そうだな」
身体を大きく曲げて、バーゼィの顔が床すれすれまで降りてきた。
「っていうのは嘘だ。だってそうだろ、そんなことしなくても抜けられる」
その言葉のすぐあと、バーゼィが顔を上げると、足首を掴んでいたズーデルの手が蹴り離された。
「三本っ!?」
軸足と腕を踏みつけていた足。それ以外にもう一つ、足が視界に入った。ズーデルは反対側に曲がった腕が治っていく中、今一度バーゼィの身体を見た。
二本だった。
軸足と、ズーデルの腕を蹴った足。
ズーデルか床、どちらかしか透過しないのだから、すり抜けてから蹴ったわけではない。見間違いでもない。確実に、脚が三本になった瞬間があった。そして二本に戻った。
「また変な能力だね」
「お前らの世界の神の力だ。案外役に立つものだぞ」
「あっそ。でも生憎だね。俺は神なんて存在は信じてないんだよ。神よりも格上の力を持ってるからねっ!」
迷宮が鳴動した。
訝るバーゼィ。「なんだ?」
だがもう遅い。
光の柱が近づいてくる。いいや、ズーデルたちが中央に向かって動いているのだ。しばらく経つと、色が失われた。だが力はなくならない。光の柱に近付き続ける。
そして、ついに光の柱に、回復した腕が触れた。
「俺の勝ちだよ、露出狂っ!」
白と黒の波が拡散する。
「笑わせる! だってそうだろ、そんなことさせるわけないんだからな!」
バーゼィも光の柱に腕を突っ込んだ。白と黒がより強く、爆発的に迷宮に広がっていく。
「俺の力だ、勝手に触るなぁーっ!」
ズーデルの叫びと共に、黒と白が収束していく。
想造の力が戻った。
セラはすぐにヴェールを纏い、意を決する。
戦いたくない。だからこそ、すぐに終わらせたい。それが兄への救いになる。想造の戻りを待つ中、考え方をそう改めた。
ウェィラを納め、フォルセスを振るいながらも片手を空けられるようにしておく。手で、兄の頭に触れることが目的だった。記憶や意識を奪われているのなら、狙うのは頭だとセラは決めたのだ。
セラはフォルセスでオーウィンを受け、それからビズラスの頭に手を伸ばす。
「ビズ兄様っ!」
「……っくぁ、くっ!」
陽炎を放つ。
バーゼィは陽炎を手で掴み、握って小さくすると大きく開けた口に頬り込んだ。そうして飲み込むと、ズーデルを見下ろして、舌なめずりをして見せた。
「なっ!?」
「驚くことねえ。だって俺は、飽食の権化だからな」
脚を大きく振り上げるバーゼィ。次の瞬間には彼の靴底が、ズーデルの腹に食い込んだ。
ただの踏みつけとはわけが違った。当然のように足からも衝撃が放出され、ズーデルの身体を突き抜ける。
「ぁがっ……」
内臓が損傷しただろう。だがそれもすぐに治る。痛みに少し耐えればいい。
そう簡単に死ぬことはないだろうが、劣勢を覆せなければ負けしかない。もっと、力が。
三権のすべてをこの身に戻さなければ。
ズーデルはバーゼィに踏みつけられたまま、迷宮の中央に伸びる光の柱を見やる。三権を感じる。自分だけがそのすべてを手に入れた。
「『それら』は『俺』になったんだ」
ズーデルは呟き、遠く光の柱に手を伸ばす。途端、腹が軽くなったかと思うと、伸ばした腕を踏み潰された。
「ぐあっ……! やってくれるねっ!」
反対の手でバーゼィの足首を掴んで、そこから終の権の陽炎を発生させる。透過されないよう、床でも足を拘束しながら。
「これなら食べられないでしょ! それとも自分の脚ごと食べるとか?」
「そうだな」
身体を大きく曲げて、バーゼィの顔が床すれすれまで降りてきた。
「っていうのは嘘だ。だってそうだろ、そんなことしなくても抜けられる」
その言葉のすぐあと、バーゼィが顔を上げると、足首を掴んでいたズーデルの手が蹴り離された。
「三本っ!?」
軸足と腕を踏みつけていた足。それ以外にもう一つ、足が視界に入った。ズーデルは反対側に曲がった腕が治っていく中、今一度バーゼィの身体を見た。
二本だった。
軸足と、ズーデルの腕を蹴った足。
ズーデルか床、どちらかしか透過しないのだから、すり抜けてから蹴ったわけではない。見間違いでもない。確実に、脚が三本になった瞬間があった。そして二本に戻った。
「また変な能力だね」
「お前らの世界の神の力だ。案外役に立つものだぞ」
「あっそ。でも生憎だね。俺は神なんて存在は信じてないんだよ。神よりも格上の力を持ってるからねっ!」
迷宮が鳴動した。
訝るバーゼィ。「なんだ?」
だがもう遅い。
光の柱が近づいてくる。いいや、ズーデルたちが中央に向かって動いているのだ。しばらく経つと、色が失われた。だが力はなくならない。光の柱に近付き続ける。
そして、ついに光の柱に、回復した腕が触れた。
「俺の勝ちだよ、露出狂っ!」
白と黒の波が拡散する。
「笑わせる! だってそうだろ、そんなことさせるわけないんだからな!」
バーゼィも光の柱に腕を突っ込んだ。白と黒がより強く、爆発的に迷宮に広がっていく。
「俺の力だ、勝手に触るなぁーっ!」
ズーデルの叫びと共に、黒と白が収束していく。
想造の力が戻った。
セラはすぐにヴェールを纏い、意を決する。
戦いたくない。だからこそ、すぐに終わらせたい。それが兄への救いになる。想造の戻りを待つ中、考え方をそう改めた。
ウェィラを納め、フォルセスを振るいながらも片手を空けられるようにしておく。手で、兄の頭に触れることが目的だった。記憶や意識を奪われているのなら、狙うのは頭だとセラは決めたのだ。
セラはフォルセスでオーウィンを受け、それからビズラスの頭に手を伸ばす。
「ビズ兄様っ!」
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