碧き舞い花Ⅱ
291:相克的信頼
バーゼィが歩き出し、ィエドゥがセラのもとに移動した。それを見ると、ユフォンはすぐに駆け出した。
向かった先に、彼は倒れたいた。全身傷だらけだ。
「ヌロゥ・ォキャ! 生きてるかい?」
言いながら、すでにユフォンは彼に治癒のマカを施していた。
「……余計なことをするな、筆師っ!」
「そんなはっきり喋れるなら、魔素も残りそうだ。ははっ」
彼の腰にある数本の魔素タンク。すべてがほぼ満杯だったが、今、急激に確実に一本ずつその量を減らしていっている。
「君の力が必要だ。君だって負けたままなんて嫌だろ」
「負けた? ふざけたことを言う。まだ負けてない」
「よかった。闘志も死んでないね」
「舞い花で楽しみ尽くすまで俺は死なない」
「そっか、君を殺すのはセラだもんね」
「くくく、面白い冗談だ。俺が舞い花を殺す」
「無理だね。セラは君より強い。だからこうして君を回復させてるって手段を取れる」
「まずお前を殺す」
「安心するといい。君たちは二人とも俺が殺す」
突然の第三者の声。
「っ!?」
ユフォンは治癒を続けながら、声のした方を振り向いた。そこにはハットの男が立っていた。
「もう来たのか……!」
まさかセラが、とわずかに頭に浮かべたユフォン。その心内を覗き見たようにィエドゥは口角を上げた。
「それも安心していい、ユフォン・ホイコントロ。舞い花は後回しにしただけだ。まだ生きている」
「ははっ……それはどうも」
苦笑するユフォンの手をどけて、ヌロゥが立ち上がった。
「ちょっとまだ終わって――」
「黙れ。死にたいのか」
ヌロゥはユフォンの前に出て、ィエドゥと対峙する。
「お前も、舞い花も、俺が殺す。そう言ったからには、俺が殺す」
「あぁ……ははっ、なんとも頼もしいね」
ヌロゥは指輪から小さな瓶を取り出した。それを見て、ユフォンは後ろで首を傾げる。なにも入っていない瓶だった。
それを彼が握り割った途端、彼の腕に吹雪が纏わる。
「空気! テムが言ってたやつか」
ユフォンには応えず、ヌロゥはもう一方に手に小瓶を取り出した。それも同じように割るのかと思ったが、彼はその瓶をユフォンの足元に向かって投げ捨てた。
「っえ?」
立ち広がってきた空気に、ユフォンは親しんだものを感じた。
「……魔素。これはどういう? まさか僕にも戦えってこと――」
「お前なんて邪魔だ。だが、俺が殺すまで死ぬな」
「つまり自分の身は自分で護れってことだね。回りくどい言い方だね」
ユフォンの身体は淡く輝いていた。これはつまり、ヌロゥがわざわざ空気を操って、魔素が拡散しないようにしてくれているということだ。
ィエドゥがヌロゥを嘲る。「他人のことを慮れる余裕があるとは思えないが?」
確かに彼の言う通りだった。治癒が終わらなかった彼の身体はまだまだ満身創痍と言える状態だ。いくら闘志が失せていないとしても、明らかな武闘派のバーゼィが相手でないとしても、ヌロゥに勝ち目はないようにユフォンには思えた。ユフォンは、万全の状態の彼を一時の味方につけたかった。
「敵の心配をする余裕がお前にはあるのか」ヌロゥは嘲笑を一蹴する歪んだ笑いで、喉をならくくくと鳴らした。「高を括っていろ、それが命取りになるぞ」
その物言いにユフォンは、頼もしさを感じた。勝ち目がないと一瞬でも考えた自分はどこにいったのか。ヌロゥならば快調でなくとも大丈夫なのではと思えた。
それはこれまで幾度とセラを苦しめ、なおかつ彼女に敗北という敗北をしいてない彼への、称賛じみた愛着の一種なのかもしれなかった。セラに寄せる信頼があるからこそ、相克的に生まれた感情だ。
ヌロゥはまた別の瓶をその手にした。
「誰しもが、己を特別だと思うものだ。俺も例に漏れずな」
瓶の中には、真っ黒と真っ白が蠢いていた。
向かった先に、彼は倒れたいた。全身傷だらけだ。
「ヌロゥ・ォキャ! 生きてるかい?」
言いながら、すでにユフォンは彼に治癒のマカを施していた。
「……余計なことをするな、筆師っ!」
「そんなはっきり喋れるなら、魔素も残りそうだ。ははっ」
彼の腰にある数本の魔素タンク。すべてがほぼ満杯だったが、今、急激に確実に一本ずつその量を減らしていっている。
「君の力が必要だ。君だって負けたままなんて嫌だろ」
「負けた? ふざけたことを言う。まだ負けてない」
「よかった。闘志も死んでないね」
「舞い花で楽しみ尽くすまで俺は死なない」
「そっか、君を殺すのはセラだもんね」
「くくく、面白い冗談だ。俺が舞い花を殺す」
「無理だね。セラは君より強い。だからこうして君を回復させてるって手段を取れる」
「まずお前を殺す」
「安心するといい。君たちは二人とも俺が殺す」
突然の第三者の声。
「っ!?」
ユフォンは治癒を続けながら、声のした方を振り向いた。そこにはハットの男が立っていた。
「もう来たのか……!」
まさかセラが、とわずかに頭に浮かべたユフォン。その心内を覗き見たようにィエドゥは口角を上げた。
「それも安心していい、ユフォン・ホイコントロ。舞い花は後回しにしただけだ。まだ生きている」
「ははっ……それはどうも」
苦笑するユフォンの手をどけて、ヌロゥが立ち上がった。
「ちょっとまだ終わって――」
「黙れ。死にたいのか」
ヌロゥはユフォンの前に出て、ィエドゥと対峙する。
「お前も、舞い花も、俺が殺す。そう言ったからには、俺が殺す」
「あぁ……ははっ、なんとも頼もしいね」
ヌロゥは指輪から小さな瓶を取り出した。それを見て、ユフォンは後ろで首を傾げる。なにも入っていない瓶だった。
それを彼が握り割った途端、彼の腕に吹雪が纏わる。
「空気! テムが言ってたやつか」
ユフォンには応えず、ヌロゥはもう一方に手に小瓶を取り出した。それも同じように割るのかと思ったが、彼はその瓶をユフォンの足元に向かって投げ捨てた。
「っえ?」
立ち広がってきた空気に、ユフォンは親しんだものを感じた。
「……魔素。これはどういう? まさか僕にも戦えってこと――」
「お前なんて邪魔だ。だが、俺が殺すまで死ぬな」
「つまり自分の身は自分で護れってことだね。回りくどい言い方だね」
ユフォンの身体は淡く輝いていた。これはつまり、ヌロゥがわざわざ空気を操って、魔素が拡散しないようにしてくれているということだ。
ィエドゥがヌロゥを嘲る。「他人のことを慮れる余裕があるとは思えないが?」
確かに彼の言う通りだった。治癒が終わらなかった彼の身体はまだまだ満身創痍と言える状態だ。いくら闘志が失せていないとしても、明らかな武闘派のバーゼィが相手でないとしても、ヌロゥに勝ち目はないようにユフォンには思えた。ユフォンは、万全の状態の彼を一時の味方につけたかった。
「敵の心配をする余裕がお前にはあるのか」ヌロゥは嘲笑を一蹴する歪んだ笑いで、喉をならくくくと鳴らした。「高を括っていろ、それが命取りになるぞ」
その物言いにユフォンは、頼もしさを感じた。勝ち目がないと一瞬でも考えた自分はどこにいったのか。ヌロゥならば快調でなくとも大丈夫なのではと思えた。
それはこれまで幾度とセラを苦しめ、なおかつ彼女に敗北という敗北をしいてない彼への、称賛じみた愛着の一種なのかもしれなかった。セラに寄せる信頼があるからこそ、相克的に生まれた感情だ。
ヌロゥはまた別の瓶をその手にした。
「誰しもが、己を特別だと思うものだ。俺も例に漏れずな」
瓶の中には、真っ黒と真っ白が蠢いていた。
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