碧き舞い花Ⅱ
287:舞い花と青雲、再び
ユフォンを引く手が重くなってきた。
ちらりと見やると、ユフォンの足取りがまばらで、時々もつれ、セラが引っ張るだけの瞬間があった。
そんなユフォンと目が合った。
申し訳なさそうに眉を顰める彼。「セラ、離して……!」
「駄目!」
セラはそう言ってユフォンを思いっきり引っ張り上げた。
「うわぁ!」
驚く彼を背負い、セラは変わらぬ速さで走り続ける。
「あぁ、ははっ、なんというか、ははっ……うん、この方が手っ取り早いね」
気恥ずかしそうにしながらも、ユフォンは身体が安定するようにしっかりと抱きついてきた。それもセラの左肩を気遣い、触れないように。
その優しさに、状況には似合わず、セラは少し頬を綻ばせてしまった。
彼だけではない。絶対に護りたい、大切なものはたくさんある。
それを、もうこれ以上失わないためにも、二人で帰るのだ。三権を手にして。
そのためにも、今はその三権の力に対処しなければならない。
想造の力があれば。
想いの力は幾度も彼女自身の窮地を救ってきた。
その想いすら、今は力にできない。
ただひたすらに走って、その先にいったいなにが待つ。
迫る陽炎。
ユフォンを背負って護っている気でいても、結局はセラの体力が尽きてしまえば、終わりだ。走っているだけでは、ただ終わりを引き延ばしているに過ぎない。
ユフォンが後ろから声をかけてきた。「セラ、上は?」
「上?」
走りながらセラは上を見上げる。
空が見える。
「そっか」
この迷宮には天井がない。
「じゃあ、遠くなっちゃうけどっ」
セラはユフォンを背負ったまま、まず中央の光の柱が覗いている壁に向けって跳び上がり、それからその壁を蹴って反対側の壁の向こうへと飛び込んだ。
「あっ」
視界に入る足先から色が戻っていくのをセラは見た。
戻っていく色に合わせて、セラはヴェールを纏いはじめた。足元から華やかに碧が咲く。彼女が床に着地したときには、鮮やかに力が舞い戻っていた。
「これでズーデルとも戦えるね」
セラの背中から降りるユフォンにも色が戻っていた。彼女は彼の言葉に頷きながら、自身の左肩に手を這わせた。痛みが一瞬で引いて、傷がなくなったことがわかる。
「でも、追ってくるかどうか」
セラは壁に、その向こうを見るように目を向ける。気配が感じ取れないことが不気味で、予測不能だ。
じっと見つめていると、壁が急に遠のいた。伸びていく道の脇から、青雲のマントが現れた。
「上手く逃げたね、舞い花ちゃん」
ゆっくりと歩いてくるズーデル。セラはその場でフォルセスを抜いて、待った。あまり近づいて色を失っては、戦いにならない。
碧を宿す瞳でじっと見つめる。
「いやだな。そんなに見つめられたら困るだろ」
その声はすぐ後ろから聞こえた。即座にセラがフォルセスで護った背中側から。
「今度は、ちゃんと追えたんだね」
「あの時とは違う」
音もなく姿を消したかと思うと、突然背後に現れたズーデル。セラは振り向いて、彼の青と睨み合う。対して彼は、嬉々とした表情だ。
「ほらやっぱり、夢じゃなかった」
舞い花と青雲が再び、対峙する。
ちらりと見やると、ユフォンの足取りがまばらで、時々もつれ、セラが引っ張るだけの瞬間があった。
そんなユフォンと目が合った。
申し訳なさそうに眉を顰める彼。「セラ、離して……!」
「駄目!」
セラはそう言ってユフォンを思いっきり引っ張り上げた。
「うわぁ!」
驚く彼を背負い、セラは変わらぬ速さで走り続ける。
「あぁ、ははっ、なんというか、ははっ……うん、この方が手っ取り早いね」
気恥ずかしそうにしながらも、ユフォンは身体が安定するようにしっかりと抱きついてきた。それもセラの左肩を気遣い、触れないように。
その優しさに、状況には似合わず、セラは少し頬を綻ばせてしまった。
彼だけではない。絶対に護りたい、大切なものはたくさんある。
それを、もうこれ以上失わないためにも、二人で帰るのだ。三権を手にして。
そのためにも、今はその三権の力に対処しなければならない。
想造の力があれば。
想いの力は幾度も彼女自身の窮地を救ってきた。
その想いすら、今は力にできない。
ただひたすらに走って、その先にいったいなにが待つ。
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ユフォンを背負って護っている気でいても、結局はセラの体力が尽きてしまえば、終わりだ。走っているだけでは、ただ終わりを引き延ばしているに過ぎない。
ユフォンが後ろから声をかけてきた。「セラ、上は?」
「上?」
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「じゃあ、遠くなっちゃうけどっ」
セラはユフォンを背負ったまま、まず中央の光の柱が覗いている壁に向けって跳び上がり、それからその壁を蹴って反対側の壁の向こうへと飛び込んだ。
「あっ」
視界に入る足先から色が戻っていくのをセラは見た。
戻っていく色に合わせて、セラはヴェールを纏いはじめた。足元から華やかに碧が咲く。彼女が床に着地したときには、鮮やかに力が舞い戻っていた。
「これでズーデルとも戦えるね」
セラの背中から降りるユフォンにも色が戻っていた。彼女は彼の言葉に頷きながら、自身の左肩に手を這わせた。痛みが一瞬で引いて、傷がなくなったことがわかる。
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ゆっくりと歩いてくるズーデル。セラはその場でフォルセスを抜いて、待った。あまり近づいて色を失っては、戦いにならない。
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