碧き舞い花Ⅱ
245:拒絶した者、受け入れた者
フェースが苦しむ姿にエァンダはエメラルドを細める。
「その苦しみを知ってる身としては、見てられないな、やっぱ」
フェースは今、悪魔と身体の所有権を巡って争っている。そう仕向けたのは、エァンダなのだが、幼き日を共に過ごしたフェースへの想いはナパスの敵として刃を交えてなお捨てきれない。
「どう、して……反始点がふたつ、あるっ……!」
「自分の状況より、俺のことを聞くのか? ま、いいや、聞けるなら話してやるけど」
エァンダはフェースの隣に座り込む。
「いろいろ試したんだ。記録術、あまりにも底が見えない技術だったから。もちろん技術そのものの効果の向上が一番の目的だったけど、応用を考えてみた。そのひとつとして、まず前提を疑ったんだ。反始点は本当に一つしか作れないのかって。そこにやつらの思考の箍があるんじゃないかって。で、体験してもらった通りだ」
「思考の箍……うぅ……はぁぐあ……はぁ、はぁ…………」
「知ってるだろ。俺たちナパスで言うところの触れないナパードだ。お前やセラがやってる」
「はっ……お前も、できるだろ?」
「わざわざ嫌味な言い方だな。そんなに俺に勝ちたいのかよ」
「ふざけ、んな……あのとき、俺を…………跳ばしただろうがっ……」
「?」エァンダはどこか楽しくなりながら苦笑した。「苦痛でおかしくなったのか?」
「苦痛?……はははっ、やっぱり無意識だったのか……どおりで、ここまで使ってないわけだ……つくづく苛立たたしい! 無意識だと! 無意識だが、あんなガキの頃からお前は、あれを使えてた! ふざけるな! お前はいつだって、そうやって、なんでもかんでも手にしやがる! むかつくんだよっ!」
もうそこには苦痛は感じられない。フェースの怒りが勝っていた。
「急になんだよ」
「ふっ、ふはは……だが、もういい。俺はお前が手にできなかったものを手に入れたんだ。マスターの寵愛も、この……悪魔の力も!」
暗い藍色がフェースを中心に吹き荒れた。エァンダは立ち上がりざまにフェースから距離を取る。
「閉じ込めるでもなく、打ち消すでもなく、従えたのか……確かに、それは俺にはできなかったな」
黒い眼球に赤紫の光彩が怪しく輝く。見える変化はそれだけだが、その内側の気配はエァンダのよく知る二つの気配が混然としていて、計り知れない大きさだった。あまりにも大きいその気配に、フェースが作り出した黒い空間は弾けて消え去った。
フェースと悪魔。
エァンダはタェシェに残った悪魔をフェースに流し込んだ。というより、悪魔ならフェースの力を欲しがり、その身体を奪おうとするだろうと考えて、フェースの身体を貫いた。すると考え通り、そうなった。
フェースの虚を突いた悪魔がその身体を乗っ取るか、タェシェに宿るので精一杯の悪魔がフェースの力に負けて消え去るか。そのどちらかになるだろうと予想していたエァンダだったが、そうはならなかった。
バーゼィとの戦いでエァンダに協力しなかった悪魔だが、フェースには協力するらしい。フェースが悪魔の力を引き出しつつ、それを自分へと付加していた。
「エァンダ」フェースが静かに言う。「お前が拒絶したものを、俺は受け入れた。それがお前と俺の差だ。俺がお前を超える差だ!」
ゴォル・デュオンの火山が暴れた。溶岩がフェースに向かって降る。それを彼は左手を挙げて迎い入れた。彼の手から黒い液体が滲み出し、溶岩を丸のみにしたのだ。
そして黒かった液体は溶岩そのものとなってフェースの左腕となった。
「ふっ、懐かしい熱さだ」
言うと、フェースは花を散らすことなく消えた。
エァンダはすぐに横にタェシェを振るった。溶岩の腕を受け止める。そして自身の背後に群青の花で壁を作った。
ぱさっと軽い音がして花が弾け散る。フェースがエァンダの前に重さと気配のある残像を残しながら、背後から攻撃してきたのだ。
分化ではない。フェースは確実に瞬間移動でエァンダの背後を取ったのだ。そしてまた背後に残像を置いて、エァンダの側面に現れた。半透明の剣を差し向けて。
エァンダは瞳だけそちらに向けて、自分とフェースとの間の空間をフェース側に引き延ばした。時が一瞬止まったのを感じたのち、敵は遥か後方に退けられて、空を突いていた。
最初の残像が消えた。今残るのはエァンダの背後と、距離を取ったところの残像だ。そして新たな攻撃がエァンダの懐に現れたフェースによって繰り出される。
溶岩の拳が、まさに噴火のようにせり上がってくる。
エァンダは掌でフェースの腕を押しやり、自身の重心を後ろに下げることで拳から逃れる。だがそのフェースが残像となり、次の瞬間には背後の残像が消えるのと交代で移動してきたフェースの足払いを受けることとなった。
徐々に天を仰いでいくエァンダ。そんな彼目掛けて、フェースが溶岩の拳を突き出して急降下してきていた。
エァンダはナパードした。落ちてくるフェースの背後に、倒れていく体勢のままだが、天ではなく地を見る形で。タェシェでフェースを貫く。
感触はあったが、それも残像に変わっていた。そして突き刺された残像が、変貌していく。腕だけだった溶岩を身体全体に回し、それから膨れ上がる。
エァンダはタェシェを抜こうとするがびくともせず、膨れ上がった身体がエァンダの手に迫る寸前に、愛剣を手放して残像から離れた。間もなく残像は木っ端微塵に爆ぜ、その爆風に乗ってタェシェが吹き飛ぶ。
タェシェが落ちるより早く、エァンダはナパードで迎えに行く。だが彼がタェシェをその手に掴もうとするのをフェースが邪魔した。タェシェはフェースによって触れずに跳ばされた。次いでエァンダも跳ばされる。
跳ばされた先にはフェースが待ち構えていて、その拳がエァンダの頬を打った。
「その苦しみを知ってる身としては、見てられないな、やっぱ」
フェースは今、悪魔と身体の所有権を巡って争っている。そう仕向けたのは、エァンダなのだが、幼き日を共に過ごしたフェースへの想いはナパスの敵として刃を交えてなお捨てきれない。
「どう、して……反始点がふたつ、あるっ……!」
「自分の状況より、俺のことを聞くのか? ま、いいや、聞けるなら話してやるけど」
エァンダはフェースの隣に座り込む。
「いろいろ試したんだ。記録術、あまりにも底が見えない技術だったから。もちろん技術そのものの効果の向上が一番の目的だったけど、応用を考えてみた。そのひとつとして、まず前提を疑ったんだ。反始点は本当に一つしか作れないのかって。そこにやつらの思考の箍があるんじゃないかって。で、体験してもらった通りだ」
「思考の箍……うぅ……はぁぐあ……はぁ、はぁ…………」
「知ってるだろ。俺たちナパスで言うところの触れないナパードだ。お前やセラがやってる」
「はっ……お前も、できるだろ?」
「わざわざ嫌味な言い方だな。そんなに俺に勝ちたいのかよ」
「ふざけ、んな……あのとき、俺を…………跳ばしただろうがっ……」
「?」エァンダはどこか楽しくなりながら苦笑した。「苦痛でおかしくなったのか?」
「苦痛?……はははっ、やっぱり無意識だったのか……どおりで、ここまで使ってないわけだ……つくづく苛立たたしい! 無意識だと! 無意識だが、あんなガキの頃からお前は、あれを使えてた! ふざけるな! お前はいつだって、そうやって、なんでもかんでも手にしやがる! むかつくんだよっ!」
もうそこには苦痛は感じられない。フェースの怒りが勝っていた。
「急になんだよ」
「ふっ、ふはは……だが、もういい。俺はお前が手にできなかったものを手に入れたんだ。マスターの寵愛も、この……悪魔の力も!」
暗い藍色がフェースを中心に吹き荒れた。エァンダは立ち上がりざまにフェースから距離を取る。
「閉じ込めるでもなく、打ち消すでもなく、従えたのか……確かに、それは俺にはできなかったな」
黒い眼球に赤紫の光彩が怪しく輝く。見える変化はそれだけだが、その内側の気配はエァンダのよく知る二つの気配が混然としていて、計り知れない大きさだった。あまりにも大きいその気配に、フェースが作り出した黒い空間は弾けて消え去った。
フェースと悪魔。
エァンダはタェシェに残った悪魔をフェースに流し込んだ。というより、悪魔ならフェースの力を欲しがり、その身体を奪おうとするだろうと考えて、フェースの身体を貫いた。すると考え通り、そうなった。
フェースの虚を突いた悪魔がその身体を乗っ取るか、タェシェに宿るので精一杯の悪魔がフェースの力に負けて消え去るか。そのどちらかになるだろうと予想していたエァンダだったが、そうはならなかった。
バーゼィとの戦いでエァンダに協力しなかった悪魔だが、フェースには協力するらしい。フェースが悪魔の力を引き出しつつ、それを自分へと付加していた。
「エァンダ」フェースが静かに言う。「お前が拒絶したものを、俺は受け入れた。それがお前と俺の差だ。俺がお前を超える差だ!」
ゴォル・デュオンの火山が暴れた。溶岩がフェースに向かって降る。それを彼は左手を挙げて迎い入れた。彼の手から黒い液体が滲み出し、溶岩を丸のみにしたのだ。
そして黒かった液体は溶岩そのものとなってフェースの左腕となった。
「ふっ、懐かしい熱さだ」
言うと、フェースは花を散らすことなく消えた。
エァンダはすぐに横にタェシェを振るった。溶岩の腕を受け止める。そして自身の背後に群青の花で壁を作った。
ぱさっと軽い音がして花が弾け散る。フェースがエァンダの前に重さと気配のある残像を残しながら、背後から攻撃してきたのだ。
分化ではない。フェースは確実に瞬間移動でエァンダの背後を取ったのだ。そしてまた背後に残像を置いて、エァンダの側面に現れた。半透明の剣を差し向けて。
エァンダは瞳だけそちらに向けて、自分とフェースとの間の空間をフェース側に引き延ばした。時が一瞬止まったのを感じたのち、敵は遥か後方に退けられて、空を突いていた。
最初の残像が消えた。今残るのはエァンダの背後と、距離を取ったところの残像だ。そして新たな攻撃がエァンダの懐に現れたフェースによって繰り出される。
溶岩の拳が、まさに噴火のようにせり上がってくる。
エァンダは掌でフェースの腕を押しやり、自身の重心を後ろに下げることで拳から逃れる。だがそのフェースが残像となり、次の瞬間には背後の残像が消えるのと交代で移動してきたフェースの足払いを受けることとなった。
徐々に天を仰いでいくエァンダ。そんな彼目掛けて、フェースが溶岩の拳を突き出して急降下してきていた。
エァンダはナパードした。落ちてくるフェースの背後に、倒れていく体勢のままだが、天ではなく地を見る形で。タェシェでフェースを貫く。
感触はあったが、それも残像に変わっていた。そして突き刺された残像が、変貌していく。腕だけだった溶岩を身体全体に回し、それから膨れ上がる。
エァンダはタェシェを抜こうとするがびくともせず、膨れ上がった身体がエァンダの手に迫る寸前に、愛剣を手放して残像から離れた。間もなく残像は木っ端微塵に爆ぜ、その爆風に乗ってタェシェが吹き飛ぶ。
タェシェが落ちるより早く、エァンダはナパードで迎えに行く。だが彼がタェシェをその手に掴もうとするのをフェースが邪魔した。タェシェはフェースによって触れずに跳ばされた。次いでエァンダも跳ばされる。
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