碧き舞い花Ⅱ
244:赤紫の殺意
肩に積もった群青を払うフェース。花びらは払ったそばから光の粒となって消える。
ゆっくりと降りてくるフェース。「さあ、次の手はなんだ? 見せてみろよ」
「さて、じゃあどうするかな」と言いながらエァンダは髪を掻き上げ、流水色についた花びらを落とす。
「お前こそ、余裕じゃないか。つくづく癪に障る」
「気にしすぎじゃないか?」
「ふんっ、その減らず口も聞き飽きたな」フェースは肩を竦める。「いいだろう、終わりにしよう。お前のすべてを上回ってみせることで、俺が上だと証明する気でいたが、趣向を変えよう」
フェースの暗緑色の瞳に、赤紫が宿った。
「圧倒的な力をもって、お前を殺す。安易だがそれを、俺がお前より上だという証明にしよう」
「ほんと、そこ、こだわるなぁ……」
「案外感謝しているんだぞ、エァンダ。このこだわりが、マスターとの繋がりを強くしたんだからな」
宿った赤紫は完全に瞳孔を染め上げ、フェースは殺気の塊のようだった。
「極集中……昔のセラみたいに別のものも引き出してるな……」
「姫君と同じだよ。これは想造の一端さ。マスターと身体を共有したことで得た『空間の支配者』の真骨頂だ!」
フェースが勢いよくエァンダに向けて腕を突き出して、握った。
「ぐっ!」
エァンダは空間に身体を掴まれた。フェースが腕を振ると、それに合わせてエァンダの身体も動く。大きく振り上がり、地面に叩きつけられる寸前、エァンダは地面に群青の花畑を作り出した。それを緩衝材に衝撃を和らげる。舞い上がる花たち。
「そんな使い方もできるのか。だが次は――」
フェースを群青の花の波が襲った。地面に敷き詰めた花をそのまま攻撃に転用したのだ。だがエァンダには手応えが伝わってこなかった。花たちはただ流れていくばかりだ。
空間からの拘束をナパードで脱し、辺りを警戒する。あれほどに殺気に満ちていたフェースの気配を微塵も感じない。群青の群れに飲まれたときに完全に空間から存在を隠したようだ。衣擦れも足音も、匂いもない。
「どうした」
不意にフェースの声が空間に響いた。それでも場所は判然としない。
「あの時みたいにすぐに見つけてみろよ」
エァンダは挑発に乗ることなく、目だけで辺りを窺う。フェースから出てくる気配はない。ならばと彼は髪を掻き上げた。そしてすぐに駆け出し、タェシェを突き出す。正面に現れたフェースの胸を目掛けて。
「っ!」
タェシェの刀身が黒い空間に掴まれて、フェースにすんでのところで切っ先が止まる。
「バーゼィからお前が時を戻すような技を使うと聞いている。今はそれが『 』と呼ばれることも知ってる!」
力を込めるエァンダ。だがタェシェは動きそうになかった。
フェースが鼻で笑う。「残念だったな」
「どうかな?」
エァンダは悪戯に笑んだ。そして黒き刃を伸ばし、そのままずぶりとフェースの胸を貫いた。
「ぐふっ……影鋼か…………だが」フェースが赤紫を細めて、わざとらし笑みを返した。「残念。それも知ってる」
「じゃあなんで刺さってんだ?」
「こんなもの傷のうちに入らない」
当人が言うように、傷口から血が出ている様子はなかった。剣を抜けば穴は完全に塞がるのだろう。想造の一端と言っていたが、本当にそのようだ。
「なるほど」
軽く首を傾げ、今度はタェシェを短くし、抜きにかかるエァンダ。だがその最中、彼の背中から複数の半透明の刃が身体を貫いた。
「……ぁっ!」
エァンダは力が抜けていく中、髪を掻き上げようと手を持ち上げる。
だが。
手が、落ちていく。
エメラルドは、前腕が見事に斬り落とされたのを見た。それからようやく痛みを知覚する。
「ぐぁあっ……」
「どうだ、エァンダ。ルファさんの背中が見えて来たか?」
「っふ……はぁ、っは……どう、かな?」
エァンダは軽く首を傾げた。
そしてタェシェを離すと、フェースから群青を散らして逃れた。
フェースが空間を動かし、タェシェを抜く。「反始点を変えてたか……」
エァンダは腕が繋がっていることを確認する。
記録術にも限界がある。ムェイに修行をつけながらも、エァンダ自身、ヴィクードの可能性を色々と試していた。再現の及ぶ範囲の制御、反始点の持続時間など簡単に思いつくところから、応用へと版図を広げて。だがさすがに自身の身体の欠損からの再現は試していなかったため少し不安だったのだ。
小さく笑む。
「なにを笑って……なぜ、回復してる――がっ!?」
エァンダを見て訝しんだと思ったら、突然、フェースが苦痛の表情で膝を着いた。
それを今までの疲労がまったく見えない真剣な表情で確認するエァンダ。もがきながら彼のことを睨むフェースにゆっくりと近付いていき、タェシェを拾い上げる。心なしか軽く感じる。
そして告げる。
「残った方と決着つけてやるよ」
ゆっくりと降りてくるフェース。「さあ、次の手はなんだ? 見せてみろよ」
「さて、じゃあどうするかな」と言いながらエァンダは髪を掻き上げ、流水色についた花びらを落とす。
「お前こそ、余裕じゃないか。つくづく癪に障る」
「気にしすぎじゃないか?」
「ふんっ、その減らず口も聞き飽きたな」フェースは肩を竦める。「いいだろう、終わりにしよう。お前のすべてを上回ってみせることで、俺が上だと証明する気でいたが、趣向を変えよう」
フェースの暗緑色の瞳に、赤紫が宿った。
「圧倒的な力をもって、お前を殺す。安易だがそれを、俺がお前より上だという証明にしよう」
「ほんと、そこ、こだわるなぁ……」
「案外感謝しているんだぞ、エァンダ。このこだわりが、マスターとの繋がりを強くしたんだからな」
宿った赤紫は完全に瞳孔を染め上げ、フェースは殺気の塊のようだった。
「極集中……昔のセラみたいに別のものも引き出してるな……」
「姫君と同じだよ。これは想造の一端さ。マスターと身体を共有したことで得た『空間の支配者』の真骨頂だ!」
フェースが勢いよくエァンダに向けて腕を突き出して、握った。
「ぐっ!」
エァンダは空間に身体を掴まれた。フェースが腕を振ると、それに合わせてエァンダの身体も動く。大きく振り上がり、地面に叩きつけられる寸前、エァンダは地面に群青の花畑を作り出した。それを緩衝材に衝撃を和らげる。舞い上がる花たち。
「そんな使い方もできるのか。だが次は――」
フェースを群青の花の波が襲った。地面に敷き詰めた花をそのまま攻撃に転用したのだ。だがエァンダには手応えが伝わってこなかった。花たちはただ流れていくばかりだ。
空間からの拘束をナパードで脱し、辺りを警戒する。あれほどに殺気に満ちていたフェースの気配を微塵も感じない。群青の群れに飲まれたときに完全に空間から存在を隠したようだ。衣擦れも足音も、匂いもない。
「どうした」
不意にフェースの声が空間に響いた。それでも場所は判然としない。
「あの時みたいにすぐに見つけてみろよ」
エァンダは挑発に乗ることなく、目だけで辺りを窺う。フェースから出てくる気配はない。ならばと彼は髪を掻き上げた。そしてすぐに駆け出し、タェシェを突き出す。正面に現れたフェースの胸を目掛けて。
「っ!」
タェシェの刀身が黒い空間に掴まれて、フェースにすんでのところで切っ先が止まる。
「バーゼィからお前が時を戻すような技を使うと聞いている。今はそれが『 』と呼ばれることも知ってる!」
力を込めるエァンダ。だがタェシェは動きそうになかった。
フェースが鼻で笑う。「残念だったな」
「どうかな?」
エァンダは悪戯に笑んだ。そして黒き刃を伸ばし、そのままずぶりとフェースの胸を貫いた。
「ぐふっ……影鋼か…………だが」フェースが赤紫を細めて、わざとらし笑みを返した。「残念。それも知ってる」
「じゃあなんで刺さってんだ?」
「こんなもの傷のうちに入らない」
当人が言うように、傷口から血が出ている様子はなかった。剣を抜けば穴は完全に塞がるのだろう。想造の一端と言っていたが、本当にそのようだ。
「なるほど」
軽く首を傾げ、今度はタェシェを短くし、抜きにかかるエァンダ。だがその最中、彼の背中から複数の半透明の刃が身体を貫いた。
「……ぁっ!」
エァンダは力が抜けていく中、髪を掻き上げようと手を持ち上げる。
だが。
手が、落ちていく。
エメラルドは、前腕が見事に斬り落とされたのを見た。それからようやく痛みを知覚する。
「ぐぁあっ……」
「どうだ、エァンダ。ルファさんの背中が見えて来たか?」
「っふ……はぁ、っは……どう、かな?」
エァンダは軽く首を傾げた。
そしてタェシェを離すと、フェースから群青を散らして逃れた。
フェースが空間を動かし、タェシェを抜く。「反始点を変えてたか……」
エァンダは腕が繋がっていることを確認する。
記録術にも限界がある。ムェイに修行をつけながらも、エァンダ自身、ヴィクードの可能性を色々と試していた。再現の及ぶ範囲の制御、反始点の持続時間など簡単に思いつくところから、応用へと版図を広げて。だがさすがに自身の身体の欠損からの再現は試していなかったため少し不安だったのだ。
小さく笑む。
「なにを笑って……なぜ、回復してる――がっ!?」
エァンダを見て訝しんだと思ったら、突然、フェースが苦痛の表情で膝を着いた。
それを今までの疲労がまったく見えない真剣な表情で確認するエァンダ。もがきながら彼のことを睨むフェースにゆっくりと近付いていき、タェシェを拾い上げる。心なしか軽く感じる。
そして告げる。
「残った方と決着つけてやるよ」
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