碧き舞い花Ⅱ
243:エァンダ対フェース
ゼィロスは故郷エレ・ナパスにいた。
移動してきてなお、ブァルシュとは未だに剣を交えていない。思い出話と銘打って、話を聞かされた。冥途の土産にと。
重大な事実。
叔父師匠の言葉に従う気はない。
ただ土産にはする。セラたちに伝えるのだ。
「さて、そろそろ身体を動かすとしようか、ゼィロス」
ミャクナス湖を見つめていた黄金色ゴールドの瞳を、ゼィロスに向けてくるブァルシュ。ゼィロスは話を聞く間ずっと降ろしていたヴェファーを構えた。
「メィズァ先生の仇、討たせてもらう」
「待つのは師と同じ運命だ、メィズァの弟子よ」
ミャクナス湖がさざめき立つ。
山が火を噴く、ゴォル・デュオン。
二人の剣がぶつかり合うごとに。
エァンダとフェースだ。
探り合いの攻防は互角。
ルファの弟子たちは、師の元を離れてからの互いの成長を確かめ合うかのように、徐々に実力を示していく。
それはナパス同士の戦いの最高峰ともいえる戦い。
群青と藍が散りばめられ、数多くの世界の技術を彩る。
そしてその流れは突然に止まる。
二人の中に共通の思考が巡る。
ここからが本番。殺し合いだ。
先に動いたのフェースだ。
黒い空間が彼の背後から広がり、自身とエァンダを包み込んだ。そして広がった空間には本人と同じ半透明の剣を持った藍色の人型が複数出現し、エァンダを囲んだ。
「セラにやったやつだろ? 知ってる。『空間の支配者』だろ? せっかく思い出の場所に移動したってのに、味気ないな。真っ黒だ」
「ふんっ。いつまで飄々としていられるかな」
その言葉にエァンダが小さく笑んで返すと、大勢のフェースが一斉に攻勢に出た。
「増えたって、全部同じ人間だし、対処はそんなに難しくないけど?」
言葉を口にできるほどの余裕を持って、エァンダはフェースたちを捌いていく。
「本当にそうか?」
フェースたちが声を重ねて言うと、エァンダの足を地面から生えた藍色の綱が絡めとった。動きを止められた。
「それで止めたつもりなのか?」
捕まったエァンダを囲むように三人のエァンダが現れた。分化だ。分化体たちがフェースの攻撃をそれぞれ受け止めると、彼らの中心でエァンダは群青を閃かせた。上方へ姿を現すと、そこにはフェースの本体も現れて、二人はそれぞれ剣を振る。
「っ!」
後ろに引いたタェシェがなにかに掴まれたように動きを止め、エァンダは大きな隙を作った。
「ここは俺の支配空間だ!」
振り下ろされるフェースの剣。エァンダは直ちに空間を引き延ばしはじめた。
だが。
「それは知ってる」
エァンダの視界が青白く眩んだ。
視界がはっきりすると、エァンダは全方位を無数の切っ先に囲まれていた。
「お前の負けだ! エァンダ!」
上空からのフェースの声と共に、刃がエァンダに迫った。
「じゃあこれは――」
エァンダはその場で群青の花を逆巻かせた。
「跳ばせるわけないだろ!」
「――そっか、やっぱり知らないのか」
「なにっ!」
刃は止まった。
群青の花びらたちによって受け止められて。
「実体……!?」
「そうだ。ナパードの光に実体を持たせる技術。『ナパスの影』に伝わる秘技だ」
言い終わると、エァンダはフェースに向けて手を差し向けた。すると花びらたちは刃を蹴散らし、フェースを襲いにかかる。
「花弁は無数の刃になって、裏切り者の命を狩る」
フェースは剣を多数身体の前に出現させ円形に並べ、回転させて壁を作り花びらを受け止める。わきに散らばっていく群青。だが広がったのちに回転する剣たちを避けて、フェースを狙いにいく。
「俺の支配する空間で勝手は許さない」
フェースは迫る群青を前に、伸ばした拳を握った。直後、黒い空間にある群青が一緒くたに集められ、藍色の球体の中に閉じ込められる。それを見て口角を上げるフェースだが、すぐに訝しんだ顔を見せる。
藍色の球が中から群青に押され、刺々しく暴れ出したのだ。
そして、ついに爆発し、群青が溢れ出す。だがその花びらたちは力なく散るだけで、フェースに襲い掛かろうとはしなかった。
エァンダは膝をついて、群青が降る光景を見上げていた。
フェースが彼を見下ろす。優越感に浸った顔だ。
「相当な負担がかかるようだな。自滅はよしてくれよ、エァンダ」
「っは……その余裕が足を掬うぞ」
移動してきてなお、ブァルシュとは未だに剣を交えていない。思い出話と銘打って、話を聞かされた。冥途の土産にと。
重大な事実。
叔父師匠の言葉に従う気はない。
ただ土産にはする。セラたちに伝えるのだ。
「さて、そろそろ身体を動かすとしようか、ゼィロス」
ミャクナス湖を見つめていた黄金色ゴールドの瞳を、ゼィロスに向けてくるブァルシュ。ゼィロスは話を聞く間ずっと降ろしていたヴェファーを構えた。
「メィズァ先生の仇、討たせてもらう」
「待つのは師と同じ運命だ、メィズァの弟子よ」
ミャクナス湖がさざめき立つ。
山が火を噴く、ゴォル・デュオン。
二人の剣がぶつかり合うごとに。
エァンダとフェースだ。
探り合いの攻防は互角。
ルファの弟子たちは、師の元を離れてからの互いの成長を確かめ合うかのように、徐々に実力を示していく。
それはナパス同士の戦いの最高峰ともいえる戦い。
群青と藍が散りばめられ、数多くの世界の技術を彩る。
そしてその流れは突然に止まる。
二人の中に共通の思考が巡る。
ここからが本番。殺し合いだ。
先に動いたのフェースだ。
黒い空間が彼の背後から広がり、自身とエァンダを包み込んだ。そして広がった空間には本人と同じ半透明の剣を持った藍色の人型が複数出現し、エァンダを囲んだ。
「セラにやったやつだろ? 知ってる。『空間の支配者』だろ? せっかく思い出の場所に移動したってのに、味気ないな。真っ黒だ」
「ふんっ。いつまで飄々としていられるかな」
その言葉にエァンダが小さく笑んで返すと、大勢のフェースが一斉に攻勢に出た。
「増えたって、全部同じ人間だし、対処はそんなに難しくないけど?」
言葉を口にできるほどの余裕を持って、エァンダはフェースたちを捌いていく。
「本当にそうか?」
フェースたちが声を重ねて言うと、エァンダの足を地面から生えた藍色の綱が絡めとった。動きを止められた。
「それで止めたつもりなのか?」
捕まったエァンダを囲むように三人のエァンダが現れた。分化だ。分化体たちがフェースの攻撃をそれぞれ受け止めると、彼らの中心でエァンダは群青を閃かせた。上方へ姿を現すと、そこにはフェースの本体も現れて、二人はそれぞれ剣を振る。
「っ!」
後ろに引いたタェシェがなにかに掴まれたように動きを止め、エァンダは大きな隙を作った。
「ここは俺の支配空間だ!」
振り下ろされるフェースの剣。エァンダは直ちに空間を引き延ばしはじめた。
だが。
「それは知ってる」
エァンダの視界が青白く眩んだ。
視界がはっきりすると、エァンダは全方位を無数の切っ先に囲まれていた。
「お前の負けだ! エァンダ!」
上空からのフェースの声と共に、刃がエァンダに迫った。
「じゃあこれは――」
エァンダはその場で群青の花を逆巻かせた。
「跳ばせるわけないだろ!」
「――そっか、やっぱり知らないのか」
「なにっ!」
刃は止まった。
群青の花びらたちによって受け止められて。
「実体……!?」
「そうだ。ナパードの光に実体を持たせる技術。『ナパスの影』に伝わる秘技だ」
言い終わると、エァンダはフェースに向けて手を差し向けた。すると花びらたちは刃を蹴散らし、フェースを襲いにかかる。
「花弁は無数の刃になって、裏切り者の命を狩る」
フェースは剣を多数身体の前に出現させ円形に並べ、回転させて壁を作り花びらを受け止める。わきに散らばっていく群青。だが広がったのちに回転する剣たちを避けて、フェースを狙いにいく。
「俺の支配する空間で勝手は許さない」
フェースは迫る群青を前に、伸ばした拳を握った。直後、黒い空間にある群青が一緒くたに集められ、藍色の球体の中に閉じ込められる。それを見て口角を上げるフェースだが、すぐに訝しんだ顔を見せる。
藍色の球が中から群青に押され、刺々しく暴れ出したのだ。
そして、ついに爆発し、群青が溢れ出す。だがその花びらたちは力なく散るだけで、フェースに襲い掛かろうとはしなかった。
エァンダは膝をついて、群青が降る光景を見上げていた。
フェースが彼を見下ろす。優越感に浸った顔だ。
「相当な負担がかかるようだな。自滅はよしてくれよ、エァンダ」
「っは……その余裕が足を掬うぞ」
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