碧き舞い花Ⅱ

御島いる

189:イソラとセラ

 セラがさすらい義団のところを離れ、スウィ・フォリクァに向かうと連盟職員たちは忙しくしていた。ばたばたする本部の建物に入りながら、セラが気配を探るとゼィロスのものを感じた。

「伯父さんがいる」セラは知りえた事実を、隣を歩くユフォンに言った。

「ゼィロスさんがこっちに? 見た目以上に大きなことが起きてるのかも、急ごう」

 職員たちの様子を見ながら言うと、ユフォンは足を早めた。セラも倣う。







 ゼィロスのいる会議室に入ると、真剣な顔のゼィロス、ヌォンテェ、メルディンとキノセ。楽観的な赤ら顔のテング。そしてそわそわするヒュエリと本部長のホルコースが卓を囲んでいた。

 そしてセラとユフォンが入ると、問う前にゼィロスが言った。

「ウェル・ザデレァに動きがあった。ちょうど二人を呼ぼうとしていたところだったが、ヌォンテェが二人を感じ取ってな。来るのを待ってた」

 セラは空いた卵型の椅子に納まることなく単刀直入に聞く。「装置が見つかったの?」

 ウェル・ザデレァが重要視されるのは無窮を生み出す装置があるからだ。動きがあると言えばそのことだと考えるのが妥当だろう。

「落ち着けよ、ジルェアス」キノセが五線の瞳を俯かせたままセラをたしなめる。「とにかく座れ。お前にとって大きな衝撃だ」

 セラはキノセの様子に暗い感情を覚えた。考えたくないことが頭に浮かぶ。温湿漠原おんしつばくげんにはイソラたちヒィズルのケン・セイ一門と小さな科学者チャチが向かっていたはずだ。

「セラ、座ろう」

「うん」

 ユフォンに促され、二人は隣り合った席に座る。

 二人が座るのを待つと、またゼィロスが口を開く。

「装置は見つかっていない。ただ、敵と交戦しているとテムから連絡があった。そしてその連絡の途中で交信が途絶え、その後の通信はない」

「妾が感覚を研ぎ澄ましたさ。だがさ……誰一人としてその生命活動を感じ取れなくなったぞ。今もさ」

 言われたセラだったが、納得がいかないのが当たり前だった。瞳を閉じてイソラたちの気配を探った。ウェル・ザデレァだけでなく、他の世界にも、異空中を探った。その域に達するために、セラは会議室に碧きヴェールを揺らめかせた。

 しばらくして、セラはヴェールを消した。

「気が済んだか、セラ」

 ゼィロスの優しい言葉。思いやるその口調にセラは凛とした視線を返す。

「うん。イソラを見つけた」

「なに?」

「なんと、よかぁ!」

「本当ぞ?」

 驚くゼィロス、テング、ヌォンテェ。声を発してはいないが、みんな目を見開いている。ただ一人、メルディンを除いては。

「他の三名は?」

 冷静に放たれたメルディンの言葉に、僅かに上向きになった流れが一瞬で平坦に戻される。

 セラは首を横に振った。彼女の返答を聞くまでもなく沈んだ空気だったが、セラはしっかりと告げる。

「イソラだけ。それもとても小さい」

「わかった」ゼィロスは頷き、発言する。「セラは今すぐイソラを助けに行ってくれ」

「もちろん!」

 セラは立ち上がり、会議室に花を散らした。







 一瞬の白と黒、黒と白の中セラは思う。見つけた気配が本当にイソラなのかどうかを。

 小さいことに間違いはない。昔から知るイソラの気配に間違いない。ただ、セラはその中に自分を感じたのだ。

 動揺があったとは思えない。間違いはないと確信している。

 確かに感じたのだ。







 セラは姿を現した場所で、すぐさま戦闘態勢に入った。

 フォルセスを抜き、硬い拳を受け止めた。

 状況を確認する。

 目の前には瞳を黒く染めた上裸の男。後ろには膝を着くイソラの気配を持った自分自身。

 場所は、テムとコクスーリャが戦っていた場所だった。『土竜の田園』の高台だ。

「なんだ? お前も分かれるのか? そういう一族なのか? 渡界人ってさ。だってそうだろ、フェースに、群青の上から目線に、お前。三人もそうなら、そういうことだろ」

 理解は完全ではない。

 ただ、目の前の男はフェースと繋がりがあるようだった。そして後ろの自分は、理由はわからないが、消えていないセラの分化体だ。意識の繋がりは切れているのにどうして残っているのか。それにイソラの気配がなぜそこにあるのかもセラにはさっぱりだった。

 セラは考えるのをやめにして、鋭い声を男に向ける。「『夜霧』か」

「それ流行ってるのか? だってそうだろ? 一日に二度も聞かれるとかさっ!」

 男の目が見開かれた。

「!」

 セラは目を瞠る。途端、その場に花びらを散らして消え失せる。後ろの分化体も一緒に。

 男の視線をなぞるように石畳が剥げていく。そして前回分化体を通して見た景色には見受けられなかった、荘厳な台座を粉々にした。

「神?」

 双眸を険しく細めるセラ。男がゆらりと彼女のことを見た。

「『神喰らい』」

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