碧き舞い花Ⅱ
114:迎えるその時
二人のナパスに先んじて地面に向かっていく中、エァンダはその様子を見上げていた。着地に頭は向いていなかった。
ルファの鮮血が降ってくる。しかしそれはエァンダを汚すことはなかった。
彼の姿はそれを見たすぐあとに、ビズとルファより上にあった。
エァンダは追撃に出ようとしていた。
後ろ目にルファの姿を捉えると、身体を回転させ、その勢いのまま脚を振り抜く。
距離があった。だから傍目から見れば空振り。この場ではエァンダとルファを除いた三人がそう思っただろう。
「俺が教えてんだ。不意打ちになんかにはならねえぞ、エァンダぁ!」
ルファは腕を力強くエァンダに向けて突き上げた。
すると二人の中間点で打ち合う音がした。
これはルファがチルチェの外在力を模して考案した戦闘術だった。体動により起こる空気の動きを制御し、攻撃に用いる。制御するということはその振動も抑えることができるということ。だから三人のナパスの戦士は、未知の技術ということに合わせ、それを感じ取ることができなかったのだ。
「不意打ちするのは俺じゃない」
エァンダがそう言っているときには、すでにビズラスが動いていた。さっきと同じように衝撃を足から放ち、空中で反転した彼がルファを背中から貫いた。
「っく、は…………」
すんでのところでルファは身体を僅かに動かしたらしく、ビズの一撃は心臓の下、鳩尾に狙いがずれた。それでも脇腹を裂く以上の深手なのは言うまでもない。
これならばもうルファを逃がすことはない。エァンダは確信した。
ビズが剣を刺したまま、また衝撃波を用いて宙を移動する。谷の壁面に向けて。そうして衝突を目前にすると、ルファの身体を蹴り、自らは衝突を免れる。
かと思うと、壁にぶつかったルファに遅れて壁に着地すると、ルファを掴んで地面に向けてものすごい速さで駆け出した。ルファはなにもできずに壁に押し付けられ、引きずられ落ちていく。
そこまで見届けたエァンダは自由落下に身を任せながら地上に目を向けた。そこには彼を見上げるゼィロスがいて、両腕を前にして待ち構えていた。
あまり重力の力を受けて加速してしまってはゼィロスに申し訳ないなと、エァンダはその場でゼィロスの腕を目掛けてナパードした。
「ぉうっ……大丈夫か」
「そっちこそ腰、大丈夫?」
言いながらひょいとゼィロスの腕の中から降りるエァンダ。
「雰囲気が変わったな……エァンダ」
「俺のことよくも知らないくせに、知った風なこと言うなよ、ゼィロス」
「…………ああ、すまない」
少年の物言いに呆気にとられるゼィロス。そんな彼を傍目にエァンダは壁に沿って降りてくるビズとルファの方へ目を向けていた。
仕上げにビズがルファを地面に叩きつけ、壁から離れたところに見事に着地した。
ビズの隣にブァルシュが歩み寄る。「まだ生きているな。ならば拘束だ」
「はい」
頷いたビズとブァルシュが土煙に覆われたブァルシュの元へ近づいていく。
ようやくルファとの修行の旅が終わりの時を迎える。エァンダの心持は、この渓谷のように凪いでいて、それでいて渓谷とは違い血の臭いはなく澄んでいた。
「エレ・ルファ。師としてのあなたは偉大だった」
誰に言うでもなく、呟いた。
「ブァルシュ様っ!」
ビズの叫びだった。
エァンダの心を騒がせる声だった。
隣のゼィロスが駆け出していた。
エァンダはその場に立ち尽くして、口を開く。
「なんで……?」確信が砕かれた。「なにしてんだよ!」
ルファに腹を刺され、抱きつく形のブァルシュの姿をエメラルドが映す。
〇~〇~〇~〇
ルファの鮮血が降ってくる。しかしそれはエァンダを汚すことはなかった。
彼の姿はそれを見たすぐあとに、ビズとルファより上にあった。
エァンダは追撃に出ようとしていた。
後ろ目にルファの姿を捉えると、身体を回転させ、その勢いのまま脚を振り抜く。
距離があった。だから傍目から見れば空振り。この場ではエァンダとルファを除いた三人がそう思っただろう。
「俺が教えてんだ。不意打ちになんかにはならねえぞ、エァンダぁ!」
ルファは腕を力強くエァンダに向けて突き上げた。
すると二人の中間点で打ち合う音がした。
これはルファがチルチェの外在力を模して考案した戦闘術だった。体動により起こる空気の動きを制御し、攻撃に用いる。制御するということはその振動も抑えることができるということ。だから三人のナパスの戦士は、未知の技術ということに合わせ、それを感じ取ることができなかったのだ。
「不意打ちするのは俺じゃない」
エァンダがそう言っているときには、すでにビズラスが動いていた。さっきと同じように衝撃を足から放ち、空中で反転した彼がルファを背中から貫いた。
「っく、は…………」
すんでのところでルファは身体を僅かに動かしたらしく、ビズの一撃は心臓の下、鳩尾に狙いがずれた。それでも脇腹を裂く以上の深手なのは言うまでもない。
これならばもうルファを逃がすことはない。エァンダは確信した。
ビズが剣を刺したまま、また衝撃波を用いて宙を移動する。谷の壁面に向けて。そうして衝突を目前にすると、ルファの身体を蹴り、自らは衝突を免れる。
かと思うと、壁にぶつかったルファに遅れて壁に着地すると、ルファを掴んで地面に向けてものすごい速さで駆け出した。ルファはなにもできずに壁に押し付けられ、引きずられ落ちていく。
そこまで見届けたエァンダは自由落下に身を任せながら地上に目を向けた。そこには彼を見上げるゼィロスがいて、両腕を前にして待ち構えていた。
あまり重力の力を受けて加速してしまってはゼィロスに申し訳ないなと、エァンダはその場でゼィロスの腕を目掛けてナパードした。
「ぉうっ……大丈夫か」
「そっちこそ腰、大丈夫?」
言いながらひょいとゼィロスの腕の中から降りるエァンダ。
「雰囲気が変わったな……エァンダ」
「俺のことよくも知らないくせに、知った風なこと言うなよ、ゼィロス」
「…………ああ、すまない」
少年の物言いに呆気にとられるゼィロス。そんな彼を傍目にエァンダは壁に沿って降りてくるビズとルファの方へ目を向けていた。
仕上げにビズがルファを地面に叩きつけ、壁から離れたところに見事に着地した。
ビズの隣にブァルシュが歩み寄る。「まだ生きているな。ならば拘束だ」
「はい」
頷いたビズとブァルシュが土煙に覆われたブァルシュの元へ近づいていく。
ようやくルファとの修行の旅が終わりの時を迎える。エァンダの心持は、この渓谷のように凪いでいて、それでいて渓谷とは違い血の臭いはなく澄んでいた。
「エレ・ルファ。師としてのあなたは偉大だった」
誰に言うでもなく、呟いた。
「ブァルシュ様っ!」
ビズの叫びだった。
エァンダの心を騒がせる声だった。
隣のゼィロスが駆け出していた。
エァンダはその場に立ち尽くして、口を開く。
「なんで……?」確信が砕かれた。「なにしてんだよ!」
ルファに腹を刺され、抱きつく形のブァルシュの姿をエメラルドが映す。
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