碧き舞い花Ⅱ

御島いる

113:本性

 〇~〇~〇~〇
 ブァルシュが言う。
「メィズァを殺したのは異界人だ。俺たちの仲違いを目論んでいるならお門違いも甚だしい」
 鼻で笑った彼に、ルファは首を横に振った。虎の目が年長者を見下すように細くなる。
「異界人に殺されたなんてのは嘘だ。俺は見てたんだぜ、ブァルシュ。あんたがメィズァを殺すところを」
「それこそ嘘だ。根も葉もない」
「そうだルファ」ゼィロスがブァルシュに加勢する。「メィズァ先生はそもそも影をまとめる勤めを担う気はなかっただろ。歴史の研究に主軸を置くために」
「そうだな。そうなんだよ、ゼィロス。俺もそこは引っ掛かってるんだ。別に殺さなくても影の長になれたんだ、ブァルシュは。でも、殺した」
 ルファはゼィロスからブァルシュに視線を向ける。
「なぁ、ブァルシュ? なんでだ? なんで、メィズァを殺した?」
「殺してなど――」
「いいんだ、俺にはわかってる。俺も同じだ。鬱陶しいんだよな、目の上のたんこぶってのは。存在してることが、苛立たせる。だから消す」
「話にならん」剣を構えるブァルシュ。「いくぞ、ゼィロス」
「はい」
「っは、話逸らしてるのバレバレだっての!」
 マラカイトと赤紫アジサイが衝突する。
「弟子を育てるのが忙しかったか、ゼィロス? 一撃でわかる……殺しがいがないなぁ!」
 剣を滑らされてできたゼィロスの隙。ルファの掌底がゼィロスの顎を打つ。そうして後退したゼィロスと変わって、ブァルシュがルファに剣を突く。




「駄目だ」
 エァンダは先達のナパスの動きにケチをつけた。二人ともルファに比べて鈍いのだ。きっとあの二人ではルファには勝てない。最初の三人のように殺されはしないかもしれない。だが深手を負わされて、取り逃がす。そんな先が思い浮かんだ。
「ビズも戦った方がいい」
「え?」
 ビズラスは少年の言葉と雰囲気の僅かな変化に訝る。
 そしてそんな彼を残して、エァンダは戦いの中に跳ぶ。




「なっ!?」
「エァンダっ」
 間に現れたエァンダに二人の戦士は目を瞠った。
 そんな二人に構うことなく、エァンダはルファに迫っていたブァルシュの剣にそっと手を触れる。瞬間、エァンダはブァルシュと共にルファから離れた場所に跳んだ。
 空を突く剣。
「なにをする、少年っ!」
「おじさんを助けたんじゃん」
「なに?」
「ほら、戦うんでしょ。やるならもっと真剣に頼むよ」
 言い残して花を散らすエァンダ。呆気に取られるだけのブァルシュが立ち尽くす。




 再びルファの前に跳ぶと、エァンダにルファの剣が振り下ろされる。
 対してエァンダは素手を構えて待ち受ける。
 カンッ――。
 手の甲で峰を弾くエァンダ。
 最中、睨み合う元師弟のタイガーアイズとエメラルド。
 二人を中心に、空気が動く。ぶつかり合う二つの気配が、唸る。
 殺気と殺気。
「おうおう、やる気だな。チビ公」
「あんたの弟子だったんだ。度胸だけじゃない」
「ほんとに惜しい。俺のすべてを教え込めれば、お前は俺より強くなれたってのによぉ」
「必要なものは、あとで自分で知ってくよ」
「あとで? がははは! お前がそんな楽観主義者だったとはなっ」
 エァンダの腹に蹴りが入った。ぐぐぐとめり込み、力が解き放たれると彼の身体は吹き飛ぶ。後ろにいたゼィロスに向かっていく中、エァンダは体勢を自分から変えていく。
 ゼィロスの身体に到達すると、器用に勢い保ったまま巻き付いて、それから己だけ跳んだ。
 ルファのすぐ横。揃えた足でルファの顔を狙った。
「そっちはできてねえな!」
「くっ……」
 ナパードの音でばれ、足首を掴まれた。エァンダは地面に向かって振り下ろされる。だが激突はなかった。
 ビズラスが二人に触れて、谷の上部までナパードしたのだ。
 体勢を崩すルファ。エァンダを投げ離し、体勢を整えながらビズに視線を向ける。当のビズラスは空中にも関わらず、芯のある姿勢で剣を構えていた。
「今回は殺してもいいって言われてるみたいだなっ、王子様っ!」
 まだ整っていないながらも、むしろその体勢の悪さを利用して弾みをつけて剣を振るったルファ。その一撃をビズは黙って受け流し、足から衝撃を放って動くと、ルファの脇腹を裂いた。
「ぐふぅ……!」
 〇~〇~〇~〇

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