碧き舞い花Ⅱ
106:二人の弟子
〇~〇~〇~〇
とある日、エァンダとフェースはルファのナパードで、活ける火山世界ゴォル・デュオンへと連れてこられた。
エァンダは滴る汗を拳で拭う。「暑い……」
その隣で同じように汗をだらだらと流すフェースが苛立たし気に言う。「こんなところでなにをする気、ルファさん」
「浸透式呼吸を教える」というルファ本人は汗がにじむ程度で、暑さにも、噴き出す炎の熱にも平然としていた。
「しんとうしき……」
「呼吸……?」
朦朧とする二人の子どもを前にルファは説明をはじめる。
「自然に身体を委ね、その自然に馴染むための呼吸法だ。イメージはな」ルファは自分の頬を軽く叩く。「肌で呼吸する感じだ。やってみろ」
「……」
じとっとルファを見返すフェース。
「……ぁぁ」
そして、エァンダはついにふらり、ふらりと倒れた。
目を覚ましたエァンダは、自分がベッドの上にいることに気づく。ルファの家だ。
もぞもぞと身体を動かしていると、家の外から話し声が聞こえてきた。
「影名だが『輝ける影』に決まった」
「『輝ける影』か、なかなか的を射てるな。で、どれだけやれるようになった?」
「気を抜けば俺たちでも敵わないかもしれないぞ。レオの血はビズの血になったと言っても過言じゃない」
「ほぉ、そりゃすごいね。俺も負けてらんないな」
「どうなんだ、そのお前のところの二人は?」
「ちょうど今日、環境への適応を教えてやろうと思ってゴォル・デュオンに行ってきたんだが、まあさすがにチビの方にはまだ早かった。今俺のベッドで休んでる。ちっとばかし才能を過信したな」
「ビズを超える可能性を見たってやつか」
「ああ。んで、その才能を着火剤にもう一人の向上心を燃やしてるから、きっと二人ともいい戦士になる」
「燃えてるのが向上心ならいいが、そっちの子、フェースといったか? ちゃんと見ててやれよ? 一人を育てるのだって苦労するんだ。片方に肩入れすれば向上心は嫉妬に変わるぞ?」
「大丈夫だ、フェースは賢い。安っぽい感情になんて振り回されないさ。なにより、俺たちだって一人の先生に二人の教え子だったろ、そして成功してる」
「メィズァ先生だからこそだろ」
「俺じゃ失敗するって言いたいのか?」そのルファの声には明らかに怒気が籠っていた。
「そうじゃない。師のやり方を全部真似する必要はないということだ」
「俺が二つも才能を見つけたことが悔しいのか? 嫉妬してるのはお前だな、ゼィロス」
「そんなことはない。俺は自分が育てた才能に自信を持ってる。その数にはこだわらないさ」
「そうかいそうかい、さすがは優等生のお兄ちゃんだ、徳が高い」
「ルファ、そう気を荒立てるな。俺は兄弟子として助言をしただけだ。言い争う気はない。ただ、今の助言を頭に置いておいてくれればそれでいい」
「場所をとるだけのオブジェなんていらねぇよ。自慢の弟子と仲良くやってろ」
「おい、ルファ……」
扉が閉まる大きな音がして、ゼィロスの声がくぐもった。
気の立った足音がエァンダに近づいてくる。彼はそっと、身体を起こしてルファを迎えた。
「おおなんだ、チビ公。起きてたか。いや、もしかして起こしたか?」
「今、大きな音がして、起きた」
「ああ、悪かったな。で、どうだ、具合は? 悪くないか?」
エァンダは身体を見回す素振りを見せる。「うん、普通」
「そっか、よかった。今日のことも謝る。さすがにいきなり過酷だった」
「大丈夫だよ、ルファさん。明日にはできるよ」
「ほおチビ公、言うなっ。じゃあ明日も行ってみるか?」
「うん」
翌日、ゴォル・デュオンには汗ばむことすらないエァンダの姿があった。
「まじかよ、俺以上じゃねえか、チビ公のくせに」
ルファは悪態を吐きながらも喜びを全面に押し出していた。そして共に来ていたフェースは汗だくの顔を顰めていた。
〇~〇~〇~〇
とある日、エァンダとフェースはルファのナパードで、活ける火山世界ゴォル・デュオンへと連れてこられた。
エァンダは滴る汗を拳で拭う。「暑い……」
その隣で同じように汗をだらだらと流すフェースが苛立たし気に言う。「こんなところでなにをする気、ルファさん」
「浸透式呼吸を教える」というルファ本人は汗がにじむ程度で、暑さにも、噴き出す炎の熱にも平然としていた。
「しんとうしき……」
「呼吸……?」
朦朧とする二人の子どもを前にルファは説明をはじめる。
「自然に身体を委ね、その自然に馴染むための呼吸法だ。イメージはな」ルファは自分の頬を軽く叩く。「肌で呼吸する感じだ。やってみろ」
「……」
じとっとルファを見返すフェース。
「……ぁぁ」
そして、エァンダはついにふらり、ふらりと倒れた。
目を覚ましたエァンダは、自分がベッドの上にいることに気づく。ルファの家だ。
もぞもぞと身体を動かしていると、家の外から話し声が聞こえてきた。
「影名だが『輝ける影』に決まった」
「『輝ける影』か、なかなか的を射てるな。で、どれだけやれるようになった?」
「気を抜けば俺たちでも敵わないかもしれないぞ。レオの血はビズの血になったと言っても過言じゃない」
「ほぉ、そりゃすごいね。俺も負けてらんないな」
「どうなんだ、そのお前のところの二人は?」
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「ああ。んで、その才能を着火剤にもう一人の向上心を燃やしてるから、きっと二人ともいい戦士になる」
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「大丈夫だ、フェースは賢い。安っぽい感情になんて振り回されないさ。なにより、俺たちだって一人の先生に二人の教え子だったろ、そして成功してる」
「メィズァ先生だからこそだろ」
「俺じゃ失敗するって言いたいのか?」そのルファの声には明らかに怒気が籠っていた。
「そうじゃない。師のやり方を全部真似する必要はないということだ」
「俺が二つも才能を見つけたことが悔しいのか? 嫉妬してるのはお前だな、ゼィロス」
「そんなことはない。俺は自分が育てた才能に自信を持ってる。その数にはこだわらないさ」
「そうかいそうかい、さすがは優等生のお兄ちゃんだ、徳が高い」
「ルファ、そう気を荒立てるな。俺は兄弟子として助言をしただけだ。言い争う気はない。ただ、今の助言を頭に置いておいてくれればそれでいい」
「場所をとるだけのオブジェなんていらねぇよ。自慢の弟子と仲良くやってろ」
「おい、ルファ……」
扉が閉まる大きな音がして、ゼィロスの声がくぐもった。
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