碧き舞い花Ⅱ

御島いる

104:生存確認

 ~〇~〇~〇~
「なんだと?」ゼィロスは目を瞠った。「どうして報せてくれなかった」
「僕も動ける状態になかったから。それにセラがここを離れた時も、すぐにゼィロスたちのところへ行くだろうと思ってたから、伝えなくても本人と会ってるだろうと……むしろ、僕の方が驚いているところだよ、セラが戻ってないなんて」
 ノアは心配そうな顔をして、それからすっとゼィロスの黄緑色の瞳を見る。
「それで、僕ができる協力って?」
 ~〇~〇~〇~




 ゼィロスがヲーンからトラセークァスのネルの研究室に戻ると、そこには部屋の主であるネルのほかに、ヅォイァ老人とその孫モァルズ、そしてエァンダとユフォンがいた。
 ヅォイァとモァルズに関しては、セラの目撃情報をもらったのち、ちょうどセラを探すための道具の試作品が出来上がったというネルの元へ共に足を運んできたから驚くことはない。しかし他の二人、別の場所にキノセとサパルの気配を合わせると四人だが、彼らがこの地にいることには驚きを隠せない。
「エァンダ、ユフォン。それにキノセとサパルもだな……どうしてお前たちが? トー・カポリへ向かったとホルコースから聞いたが」
「そのトー・カポリからここへ」とユフォン。「セラを見つけました。もちろん、ポチューティク大虐殺の男とは別で。……すぐに跳んで行ってしまいましたが、生きてるとわかりました」
 希望に満ちた笑みを見せるユフォンにゼィロスは頷く。
「生存に関してはこちらもノアから情報を得た。ホワッグマーラから死んだセラを彼が連れ出し、一ヶ月、セラはヲーンにいたんだそうだ。想像の及ばないところだが、心臓をノアのものに付け替えて蘇生したらしい」
「心臓を!?」
「どういうことですの、それは!」
 ユフォンとネルは訝しみと好奇心を織り交ぜた顔で、ほとんど同時にゼィロスに問い返してきた。
「詳しいことは俺にもわからない。あの世界の地下には高度な文明が完成していた。『糸杉の箱庭』というごく小さな集団だったが、その科学技術力は俺が知る中では頂点だと言い切れる」
「それは、興味がありますわ。お話がしてみたいですわ、そこの人たちと。ゼィロスおじさま、あとで通信機を持って行ってくださります?」
「ああ、構わないが。だが今はこれが先だろう」
 ゼィロスは言って、赤い液体の入った細長い瓶を取り出した。




 ネルはゼィロスから液体を受け取ると、セラを探すための準備をはじめた。
 その間に、エァンダはゼィロスを研究室の外へと促した。
 廊下を少し歩いたところで、エァンダは口を開く。
「ポチューティク大虐殺の『碧き舞い花』はルファだったよ」
「……」
 ゼィロスは深刻な表情で窺うようにエァンダを見据える。
「わざわざ嘘なんて言わないぞ」
「いや、疑ってはない」ゼィロスは大きく息を吐きながら、腕を組んで壁によりかかった。「まさかあいつがそこに繋がるとはな」
「タェシェにあいつの剣を覚えさせた。いつでも追える。けどだ」
 エァンダは右腕を身体の前に上げる。
「こいつと争ってる状態じゃ勝てそうにない。もちろんゼィロス、あんたじゃ到底敵わない。同じ潜むでもアズじゃなく、ルファみたいに時濃度の薄い世界にしとけば話は変わったかもしれないけどな」
「……はっきりと言ってくれるな。あの場所はそういった事情よりも大事な場所なんだ。それに時濃度が薄かろうが、歳月を重ねれば結局衰えと戦うことになる」
「それならそれで時の流れに抗うもんじゃないぜ。無理に若さを取り戻そうとするより、身を任せればそれで万事上々。あいつはちゃんと力になってくれる」
「クァイ・バル人にでもなったつもりか?」
「似たようなもんだろ?」と右手をひらひらとしておどける。
「……。ルファの話に戻そう」ゼィロスはエァンダの右手首を掴んで止めた。「こいつを取り除ければ勝算があるのか?」
 エァンダはエメラルドで真っすぐゼィロスを見返す。
「別に取り除かなくても、方法はある」
「なに?……まさか、お前」
「そんなことさせないぞ、エァンダ」
 渡界人二人は割って入ってきた声に、揃って視線を向ける。
 キノセに寄り添われた、髪や服が湿ったサパルがいた。
「全然ネルフォーネ連れてこないから」とキノセがさらっと言った。
 エァンダはサパルに目を向けたまま、すぐに会話を再開させる。
「そんなことってなんだ、サパル」
「しらばっくれるなよ。みんなわかってる」
「わかってるなら、聞くなよ」
「エァンダ」腕を握る手の力を増すゼィロス。
 彼を睨み返すエァンダ。「痛いぞ」
「お前は自分の命を軽く見すぎだ! この手も、スウィ・フォリクァも、俺の元を去ったのもの……エレ・ナパスの保持もだ」
「ちょっと待て。エレ・ナパスに関しては俺だけじゃないし、どちらかというとあれで命かけたのはサパルの方だ」
「……とにかく、悪魔の解放なんてさせないぞ」
 ゼィロスは低く言って、エァンダの手を振り放った。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品