碧き舞い花Ⅱ
68:虚実入り混じる世界
「ソクァム! どうし……あ、セラ! やっぱりいた!」
城内にいたシァンは王の部屋に早々に到着した。そうしてソクァムの隣、巨大な扉の前、開け放たれたその中を見るとセラの後ろ姿を指さした。
「シァン、あれはセラさんじゃないらしい。『夜霧』のルルフォーラだ」
「うそっ!?」
「これから『賢者狩り』を倒すのに協力することになったみたいだ」
「『賢者狩り』ってあの羽の子も?」
「そうらしい。ピョウウォルさんに成りすましてたのか、幻覚を見せられてたのか……とにかく、対象の一人だ。手加減はするなよ」
「うん……わかった。あ、そうだ。ネモとピャギーは『白衣の草原』。ネモはまた戻ってくる」
シァンにソクァムが頷くと、二人は揃って前線にいる三人の元へ駆け寄る。
「幻覚に警戒しろ、ですか」
プルサージはテムに向かって丁重な口調で嘲笑った。
「正しい指示だとお思いで? 先ほども申しましたが、天敵はすでに天敵ではないのです」
イソラを手で示した。
「人称に綻びがあったようですが、『無機の王』の姿形から気配まで、その真偽を、さらにはわたくしの存在を、盲目でありながら鋭利な洞察力を持つあなたが見破れなかった。それほどの深みのある幻覚を作れるのですよ、わたくしども、いいえ、我が子ユールはね」
プルサージが優しくおかっぱ頭撫でると、ユールは嬉しそうに目を細めた。
「あなた方は、この世界に入った時から虚実入り混じる空間にいるんですよ。当然気づきようはないですが」
「だったら」テムは鋭く言葉を返す。「そこにいるお前らは幻覚で、本当はもうこの世界にいない」
プルサージはその言葉に全く動じなかった。しかしユールのおかっぱ頭がピクリと揺れた。それをテムは見逃さなかった。彼はにっと口角を上げてユールからプルサージに視線を動かす。
「やっぱそういうことじゃなさそうだな。俺たちがいる前でこの世界から出ると不都合があるんだろ。そうだな…‥世界の外にまで幻覚が及ばないとか」
「……パパ、ごめんなさい」
「大丈夫だよ、ユール。彼らをここで眠らせてしまえば、また静かに暮らせるから」
「うん、ボク頑張る」
「ではまず、ばらけさせるんだ。外にいる者も。まとめて相手にしなければ、ユールの敵ではないからね」
「うんっ!」
ユールが元気よく首を振ると、風がそよぎ、その身体に集まって淡く輝きだした。
「外在力!」
テムが叫んだときにはイソラがユールの懐に入っていた。
イソラは動き出そうとした。
だが、彼女より先にテムがユールに向かって動き出したのを感じて、彼に任せることにした。
連盟の二人も、その仲間の二人も動こうとしない。
ルルフォーラは小さく肩を竦め、ナパードした。
シァンとソクァムは、自分たち二人と、イソラたち三人の間にユールがゆったりと舞い降りてくるのをまじまじと見ていた。
二人とも、重い空気に、動けずに。
ただ、見ていた。
空気が爆ぜた。
「ひやぁ~……」
街の屋根から、大爆発に形が失せる城を眺めるアルケン。
その視線は火山の噴火によって飛ぶ噴石が如き城の瓦礫の一つを追いかける。到達点はレストラン。なんの迷いもなく、ズィードたち三人がつくテーブルだ。
急に影が落ちた。
「ん?……んんっ!」
口いっぱいに食べ物を入れたズィードは影の主を見て、驚いた。それでも口の中の物は出さずに、仲間二人を叩く。
へばったケルバに、どこか遠くを見つめるダジャール。どんどん迫る影。
「……んぐんっ……ったく、やっぱ俺が団長だなっ!」
喉を鳴らして全部を飲み込むと、二人を掴んで後ろに放った。
そして瓦礫と影は一つにくっついた。
城内にいたシァンは王の部屋に早々に到着した。そうしてソクァムの隣、巨大な扉の前、開け放たれたその中を見るとセラの後ろ姿を指さした。
「シァン、あれはセラさんじゃないらしい。『夜霧』のルルフォーラだ」
「うそっ!?」
「これから『賢者狩り』を倒すのに協力することになったみたいだ」
「『賢者狩り』ってあの羽の子も?」
「そうらしい。ピョウウォルさんに成りすましてたのか、幻覚を見せられてたのか……とにかく、対象の一人だ。手加減はするなよ」
「うん……わかった。あ、そうだ。ネモとピャギーは『白衣の草原』。ネモはまた戻ってくる」
シァンにソクァムが頷くと、二人は揃って前線にいる三人の元へ駆け寄る。
「幻覚に警戒しろ、ですか」
プルサージはテムに向かって丁重な口調で嘲笑った。
「正しい指示だとお思いで? 先ほども申しましたが、天敵はすでに天敵ではないのです」
イソラを手で示した。
「人称に綻びがあったようですが、『無機の王』の姿形から気配まで、その真偽を、さらにはわたくしの存在を、盲目でありながら鋭利な洞察力を持つあなたが見破れなかった。それほどの深みのある幻覚を作れるのですよ、わたくしども、いいえ、我が子ユールはね」
プルサージが優しくおかっぱ頭撫でると、ユールは嬉しそうに目を細めた。
「あなた方は、この世界に入った時から虚実入り混じる空間にいるんですよ。当然気づきようはないですが」
「だったら」テムは鋭く言葉を返す。「そこにいるお前らは幻覚で、本当はもうこの世界にいない」
プルサージはその言葉に全く動じなかった。しかしユールのおかっぱ頭がピクリと揺れた。それをテムは見逃さなかった。彼はにっと口角を上げてユールからプルサージに視線を動かす。
「やっぱそういうことじゃなさそうだな。俺たちがいる前でこの世界から出ると不都合があるんだろ。そうだな…‥世界の外にまで幻覚が及ばないとか」
「……パパ、ごめんなさい」
「大丈夫だよ、ユール。彼らをここで眠らせてしまえば、また静かに暮らせるから」
「うん、ボク頑張る」
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ユールが元気よく首を振ると、風がそよぎ、その身体に集まって淡く輝きだした。
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イソラは動き出そうとした。
だが、彼女より先にテムがユールに向かって動き出したのを感じて、彼に任せることにした。
連盟の二人も、その仲間の二人も動こうとしない。
ルルフォーラは小さく肩を竦め、ナパードした。
シァンとソクァムは、自分たち二人と、イソラたち三人の間にユールがゆったりと舞い降りてくるのをまじまじと見ていた。
二人とも、重い空気に、動けずに。
ただ、見ていた。
空気が爆ぜた。
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