碧き舞い花Ⅱ

御島いる

61:奔放なる義団

 ギーヌァ・キュピュテの住人は全員が毛むくじゃらではない。毛むくじゃらなのは『無機の王』の名と技術を継承した者だけだ。
 滑らかな表面の建物が並ぶ都市に、無毛の民。なにもかもが、王の見た目とは正反対の世界。
 つるんとした街並みを陽光が撫でる大通りを、さすらい義団とヒィズルの二人は歩く。
「みんな寒くねーのか?」
 唯一、全身を体毛で包んだ獣人ダジャールが鼻で笑いながら肩をすくめた。
「服着てるじゃん。そういうの差別っていうんだよ、ダジャール」
「なんだとアルケン。俺だって服は着てる」
「暑くないのぉ?」
「捻り潰すぞっ」
「……別に貶めるつもりはないけど」そう前置きをしてソクァムが疑問を口にする。「まつ毛とかもなくて、目にゴミは入らないんだろうか?」
「それは俺も最初不思議に思ったよ」テムが賛同する。「でも、大丈夫なんだ。ピャギー」
「ぴぎゃぎゃ!」
「相変わらずの男嫌いだな……いいよ頼まないよ」テムはピャギーを手で小さくしっしと払い、ソクァムに耳打ちする。「彼らはピャギーと同じように瞬膜を持ってるんだ。瞼の内側に。それで目を守ってるんだ。たまに瞬きとは違う目の動きをするから、よく見てみるといい」
「なるほど」
「なぁなぁ、あれなんだ!」
 ズィードがはしゃいだ声を上げた。彼が指さすのは路肩に数基並べて設置された、筒状の装置。そこに度々ギーヌァ・キュピュテ人が入っては、数秒後に出てくるという行為をしていた。
「出てくると、よりピカってるな」
 ケルバも物珍し気にして、ズィードと共に目を止めている。
「あれはここの人たちにとってのお風呂と床屋なんだよ」イソラが彼らに並んでにこやかに言った。「あの中に入って、身体を少し削るんだって」
「削るの? 痛くないんですか、それ」
 若干引いたネモがイソラに言うが、前髪を揺らしてイソラは笑う。
「あたしたちだって、髪切るけど、痛くないでしょ?」
「あ、そっか」
「ちなみに」
 イソラは装置たちの後ろにある店舗を示す。そこには異世界人の、特に女性が出入りしていた。
「外の世界の人もできるらしいよ。つるつるの肌になるって、おしゃれな人たちには有名」
 言いながらも、イソラ自身にはまったく興味がないことで、どこか他人事な説明だった。聞いていたネモは興味津々で、鼓動を躍らせていた。
「行きたいの?」
「もちろん! イソラさんも一緒に行きましょう!」
「あたしはいいよ。目的にもないし」
「わたしたちを案内するついでですよねっ」
「……え、そうだけど」
「決まり! みんな、わたしとイソラさん、ちょっと抜けるわ」
 ネモは強引にイソラを店の方へと引っ張っていく。
 イソラはテムに向かって叫ぶ。
「テム、ごめーん! すぐ戻るからー!」
「ちょ、おい!」




「すいません」怒りの表情のテムに、ソクァムが頭を下げた。「どう見てもネモですよね」
 ケルバが言う。「俺たちも観光?」
「いいな。そうしよう!」
 ズィードがケルバ賛成するのをソクァムが止めにかかる。
「おい、ズィード! テムさんに迷惑かけるなよ」
「え~、いいでしょ、テムさん。王様のところ直行しても、案内されてなきゃ、つまんない顔しかできないし、怪しまれるよ」
「あぁ……」 ニタつくケルバに、テムは頬を引きつらせる。「セブルス兄ちゃん、どうやったらこんな自由な奴らまとめられるんだ……?」
「ねぇねぇ、ズィード。向こうからおいしそうな匂いするよ。行ってみよう!」
「アルケンが言うなら間違いないな、よし、行こう」
「腹ごしらえだぁ!」
「誰が一番食えるか勝負と行こうぜ」
 ケルバ、ダジャールと続いて、四人の男子が去っていく。
 残ったのは一羽と三人。そうテムが思ったところに、追い打ちをかける声が。
「ごめんなさい、テムさん。そういうことなら、あたしも! ピャギー、空から見てみよう!」
「ぴゃーっ!」
 宝石を散りばめたような羽を広げたピャギーに跨ると、シァンは空高く舞い上がって行った。
「外の世界に憧れた人間な集まりなんです、ごめんなさい」
「……ソクァム、君もその一人だろ?」
「はい……でも、自重します」
「それはどうも」
 テムの溜息が、滑らかにギーヌァ・キュピュテの地を這った。

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