碧き舞い花Ⅱ

御島いる

60:『賢者狩り』の正体

「それで、どうしてピョウウォルの世界なの、テム?」
 イソラは鍵によって開けた扉の中、隣を歩くテムにさっそく聞いた。
 これから向かうギーヌァ・キュピュテは賢者の一人ピョウウォルが『無機の王』として治める世界だ。
「その前に、イソラ、お前『賢者狩り』の正体に気づいたか?」
「あたしが聞いたのに……」少しむっとしながらも、イソラは頷く。「プルサージでしょ」
 シァンの力により共有した感覚の中では、イソラの視覚も昔のように働いてくれる。ポルトーが見た敵の特徴はしっかりと彼女にも伝わった。
 とはいえ、イソラがプルサージと巨人の世界で対面したのは、視力を失ってからのことだ。だから彼女が頼りにしたのは声だった。
「あの声、覚えてるよ。あいつ、やっぱ逃げてたんだあの襲撃の時」
「まあ、死体もなかったからな」同意して、テムは続ける。「フードの中が空になったのも、姿が変わったのも、ポルトーって人がルピさんを扉に投げたはずなのに、二人が一緒に見つかったのも、幻覚だ」
「うん。で、なんでピョウウォルのところ? もしかして、次に狙われるとか?」
「いや……」
 テムの声のトーンが落ちた。苦々しさがイソラに届いた。
「え? なんで! 裏切りっ!? 嘘だよ、そんなの!」
 イソラが突然に声を張ると、前を行くさすらい義団が足を止めて、揃って振り返った。それをテムが手で大丈夫だと示し、それからイソラに向かう。
「落ち着け、まだ裏切りって決まったわけじゃないけど、ほら、プルサージが言ってたろ、王の命令って。俺たちが知ってる『王』で、物を自在に操れるのってピョウウォルだけだ」
「それだけで疑うの。だってあの場にいなかったし、確かピョウウォルの力はその物に触らなきゃいけないんだよ!」
「幻覚には見せなくさせるともできるだろ。セラ姉ちゃんのときみたいに」
「……でも」
 しょんぼりと、括った前髪を垂らすイソラ。
「……最悪を考えすぎた。これからそれを確かめようってことなのに、決めつけるように言って、悪い。ルピさんの力は鍵なきゃ意味がないってことも、敵は言ってたし、なにか力そのものを奪う能力があるのかも」
「ルルフォーラみたいに……? ただの幻覚使いが? それに、ピョウウォルは眠らされてないじゃん」
「……うぅ、だから、その辺も含めて確かめに行くんだって」
「ぴゃぎっ!」
 義団がまた足を止め、ピャギーが鳴いた。
 出口だ。
「みんな、俺たちの会話聞こえてただろ」
 テムが確認すると、ズィード、ダジャール、ケルバのトリオだけがとぼけた反応を返してきた。「まあ、そうだよな」とテムは簡単に説明する。
「いいか、目的はあくまで確認だ。もしピョウウォルが裏切ってんなら、連絡もなしにこの人数で訪ねてる時点で、警戒するだろ。だから、一応疑われないように、お前たちにギーヌァ・キュピュテの案内をするついでに『賢者狩り』の警戒を促しに来たていで行く」
 イソラはテムの隣で眉を顰める。「裏切ってる前提なの?」
「仕方ないだろ、こればっかりは。こっちが疑いの目を持たずに行って、敵だった時どうするんだ」
「う~ん……」
「直接聞けばいいのにね」
 そんな声を上げたのは、円らな瞳のケルバだ。頭の後ろに手を組んで、能天気にあくびまでした。
「テムさん、もしあれなら」ソクァムが申し訳なさそうに言う。「この三人と俺は戻りましょうか?」
「いや、いい。行こう」
「へへへ、なんだかんだ楽しみだなぁ、ギーヌァ・キュピュテ。どんなところなんだろう」
 アルケンが期待に胸を膨らませ、純真に出口の扉をくぐった。
「みんなもアルケンみたいに頼むからな」
 テムがそう言って、アルケンに続いた。それから義団のメンバーが続く。
「テムさんの邪魔するなよな、三人とも」とソクァム。
「なんで俺たちだけなんだよ。団長だぞ、俺」とズィード。
「威厳ねーな、ズィード。俺が変わってやるぞ」とダジャール。
「喧嘩するなら、俺も交ぜろよー」とケルバ。
「あんたたちいい加減にしなさいよね」とネモ。
「ぴゃ、ぴゃ、っぴゃー!」とピャギー。
「イソラさん、ケン・セイ師匠のためにも、絶対あたしたちで解決しましょうね!」
「うん、行こう」
 イソラとシァンは揃って扉を抜けた。

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