碧き舞い花Ⅱ
50:ナパスの英雄たち
「幽霊……」
「幽体化のマカ、できるようになった……ってかさ、俺って本当に死んだのか?」
「だって……ヌォンテェもイソラも……クィフォ…………」
「ズィプ! なんでお前がいるんだよ。なんで攻撃止められたんだよ!」
「おう、フェズ」満面の笑みでフェズに手を上げるズィー。「難しいことはわからんけど、空気の中から魔素を消したみたいだ。俺がいる理由は俺にわかんねぇ……いや、たぶんセラを助けるためだ」
ズィーはちらりと、だが確実にルビーをサファイアに向けた。そして再びフェズに向ける目は鋭い。
「で、なんか戦争がはじまったってのに、なんで二人が戦ってんだ? 俺はそっちの方が気になる。答えようによっちゃ、俺はお前の敵だぞ、フェズ」
「……『太古の法』やめっ」フェズは長く息を吐いた。「別にこれじゃなくてもいいし。ズィプより俺の方が強いから」
「今の俺は、ちょっとわかんねぇぞ? なんか知んねーけど、この辺の空気はすげぇ」
ズィーは勝気にスヴァニを構えた。
「セラ、たぶんお前が戦う場所はここじゃねえ。行け。それとも俺の勘は信じないか?」
「…‥終わったら、ヒュエリさんも一緒に話そう。だから、消えないでよ」
「おう」
彼の返事を聞くと、セラはコロシアムの穴の上に跳んだ。
ウェィラが入っていった穴を覗き込むと、暗くない。地下闘技場が下に望める。
そこにドルンシャとズーデルの気配はない。それどころか、辺りに二人の気配は感じ取れない。移動したのだろうか。
各地であらゆる気配が混線する中、二人のそれを探す。比較的わかりやすい気配だが、見つからない。ウェィラも呼びかけに答えてくれなかった。
「止まってる場合じゃない」
セラは躊躇いなく、穴に落ちていった。
術式の床を使いながら降りる最中、想うのはズィーのことだ。
生死は定かではない。それでも目の前にいたのは紛れもなくズィプガル・ピャストロンだった。理屈はわからないが、彼がいた。胸が熱くなった。
彼女の纏うヴェールが輝きを強める。
地下闘技場に降り立つと、セラはその壁に巨大な横穴が空いていることに気付き、足を向けた。
瞬間移動の類を使っていなければ、移動できるのは上の穴のほかにはそこだけだ。もしかしたら、ウェィラが飛ぶ前の揺れは、この穴が空いたことによるものかもしれない。
横穴はしっかりと明るい。
進めば進むほどに、明るさを増しているようだった。
行きついた先は、地上よりも明るい空間だった。眩さに視界が白む。
神々しくも思える静寂のなかに、セラはようやく気配を捉えることができた。
二つ。
ズーデルの異常に昂る気配。そしてもう一つは、セラの知らない大きな気配。ドルンシャの気配がない。
目が光に慣れてくると、人影がはっきりとしてくる。
ドルンシャはいた。鼓動を止め、燃え殻がごとくスカスカになって伏していた。当然ズーデルもいる。青雲のマント共々輝いていた。しかしセラには、それらがどうでもよくなった。
絶句。
ズィーとの再会すら、くすんでしまう。
彼がセラに目を向けた。
「ああ、やっぱりセラだったか。似てる誰かであってほしかったな……戦いに身を置かせてしまったのは、俺のせいか…………」
透ける手で持つツバメがフクロウの姿を重ねている。彼女の記憶にある彼の姿と遜色ない。
「でも、会えてうれしいよ、セラ。大きくなった」
「うん、ビズ兄様……っ!」
ビズラス・ヴィザ・ジルェアス。
『輝ける影』に『碧き舞い花』は笑顔で頷きを返した。
「幽体化のマカ、できるようになった……ってかさ、俺って本当に死んだのか?」
「だって……ヌォンテェもイソラも……クィフォ…………」
「ズィプ! なんでお前がいるんだよ。なんで攻撃止められたんだよ!」
「おう、フェズ」満面の笑みでフェズに手を上げるズィー。「難しいことはわからんけど、空気の中から魔素を消したみたいだ。俺がいる理由は俺にわかんねぇ……いや、たぶんセラを助けるためだ」
ズィーはちらりと、だが確実にルビーをサファイアに向けた。そして再びフェズに向ける目は鋭い。
「で、なんか戦争がはじまったってのに、なんで二人が戦ってんだ? 俺はそっちの方が気になる。答えようによっちゃ、俺はお前の敵だぞ、フェズ」
「……『太古の法』やめっ」フェズは長く息を吐いた。「別にこれじゃなくてもいいし。ズィプより俺の方が強いから」
「今の俺は、ちょっとわかんねぇぞ? なんか知んねーけど、この辺の空気はすげぇ」
ズィーは勝気にスヴァニを構えた。
「セラ、たぶんお前が戦う場所はここじゃねえ。行け。それとも俺の勘は信じないか?」
「…‥終わったら、ヒュエリさんも一緒に話そう。だから、消えないでよ」
「おう」
彼の返事を聞くと、セラはコロシアムの穴の上に跳んだ。
ウェィラが入っていった穴を覗き込むと、暗くない。地下闘技場が下に望める。
そこにドルンシャとズーデルの気配はない。それどころか、辺りに二人の気配は感じ取れない。移動したのだろうか。
各地であらゆる気配が混線する中、二人のそれを探す。比較的わかりやすい気配だが、見つからない。ウェィラも呼びかけに答えてくれなかった。
「止まってる場合じゃない」
セラは躊躇いなく、穴に落ちていった。
術式の床を使いながら降りる最中、想うのはズィーのことだ。
生死は定かではない。それでも目の前にいたのは紛れもなくズィプガル・ピャストロンだった。理屈はわからないが、彼がいた。胸が熱くなった。
彼女の纏うヴェールが輝きを強める。
地下闘技場に降り立つと、セラはその壁に巨大な横穴が空いていることに気付き、足を向けた。
瞬間移動の類を使っていなければ、移動できるのは上の穴のほかにはそこだけだ。もしかしたら、ウェィラが飛ぶ前の揺れは、この穴が空いたことによるものかもしれない。
横穴はしっかりと明るい。
進めば進むほどに、明るさを増しているようだった。
行きついた先は、地上よりも明るい空間だった。眩さに視界が白む。
神々しくも思える静寂のなかに、セラはようやく気配を捉えることができた。
二つ。
ズーデルの異常に昂る気配。そしてもう一つは、セラの知らない大きな気配。ドルンシャの気配がない。
目が光に慣れてくると、人影がはっきりとしてくる。
ドルンシャはいた。鼓動を止め、燃え殻がごとくスカスカになって伏していた。当然ズーデルもいる。青雲のマント共々輝いていた。しかしセラには、それらがどうでもよくなった。
絶句。
ズィーとの再会すら、くすんでしまう。
彼がセラに目を向けた。
「ああ、やっぱりセラだったか。似てる誰かであってほしかったな……戦いに身を置かせてしまったのは、俺のせいか…………」
透ける手で持つツバメがフクロウの姿を重ねている。彼女の記憶にある彼の姿と遜色ない。
「でも、会えてうれしいよ、セラ。大きくなった」
「うん、ビズ兄様……っ!」
ビズラス・ヴィザ・ジルェアス。
『輝ける影』に『碧き舞い花』は笑顔で頷きを返した。
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