碧き舞い花Ⅱ
44:子煩悩
「ふっかけてきたわりに、もう終わりかよ」
海底遺跡で幽体のズィーは、同じく半透明の愛剣を背中に収める。
ソルーシャは遺跡の揺れが収まると姿を消した。
ジュメニも納刀する。「この揺れも、『夜霧』?」
「わかりません……それより、大丈夫ですかジュメニさん」
シューロが心配して見つめるジュメニの姿は、ズィーからしても無茶の一言に限るものだった。戦いの最中は気にならなかったが、改めて見るとよく立ち回っていたものだ。相手が変に弱かったというのもあるが。
「うわっ、まじ大丈夫すか、ジュメニさん? 死にそうじゃないすか」
「……あんまりいい冗談じゃないな、ズィプくん。そもそも君の攻撃でこうなったんだ」
「俺じゃないって、あいつは。ま、いいや。とにかく、ユフォンのとこ行こうぜ。あいつなら治療できるだろ」
ズィーは二人に向かって手を差し出す。
「なるべく静かに飛ぶけど、セラみたいなのは期待しないでくれよ」
「うん、ありがとう」ジュメニがズィーの手を握る。「けどさ、ズィプくん。ユフォンくんの居場所、わかるの?」
シューロもジュメニに続いてズィーの手を取るのに合わせて、ズィーはただ一言だけ返した。
「勘」
世界が揺れ、収まり、ギルディアークの魔闘士を伸した。
魔闘士が気を失ったのを見た途端、螺旋頭の男は戦意と共に姿を消した。そしてすぐに二人、いや三人が紅き閃光と共に現れた。
「ジュメニっ!?」
半透明なズィーの存在に驚くより早く、ブレグは娘の大事に目を見開いて駆け寄った。
「なにが?」
「ズィプくんにやられた」
「ズィプくん?」
ブレグは娘の言葉に、彼女の傍らにいたズィーにようやく気付いた。目を瞠り、訝しみ、ズィーにくぎ付けになる。対するズィーはジュメニの物言いに不満でもあるのか、眉を顰めてダレ親子を交互に見やった。
「ブレグ隊長、ジュメニさんは確かにズィプさんにやられましたが、でも、それはここにいる幽霊の本物のズィプさんではなく、恐らく死体のズィプさんらしくて、えっと、その……なかなかうまく説明できませんが、とにかく今はジュメニさんをユフォンさんのところに……」
シューロが慌てて口を回すが、彼自身、情報の把握が充分ではないのだと窺えた。ブレグは娘への心配や、ズィプガルの存在を含めた現状がとにかく『混乱』なのだと、冷静に理解した。
「それで、どうしてここに跳んできた? ユフォンくんならコロシアムに跳ぶべきだろう?」
「いや、勘で跳んだんだけど、ユフォンに会えるだろうと思ったんだよ、ここなら」
肩を大きく竦めるズィプ。その彼の横にブレグは魔素濃度の揺らぎを感じた。ひび割れるように空間が歪む。
「おおっ、なにっ?」
驚くズィーをよそに、落ち着いた声と共に格式高い老人が姿を見せた。
「ブレグ様っ」
「ジイヤ殿」
「『白雲』による攻撃です。現在コロシアムにて、ドルンシャ様、フェズルシィ様、それからセラフィ様がボリジャーク帝と覇王ズーデルと交戦中でございます。ご同行を。非常事態緊急帝令です」
「はい」ブレグは質問もせずに、警邏隊の長として頷く。それからズィーとシューロに目を向ける。「ジュメニを頼んだ」
ジイヤに腕を伸ばすブレグ。その腕を半透明の手が掴んだ。
「ちょっと、待って。セラがいるんだろ、俺もいく!」
ズィーのその言葉に、ブレグは問答しない。時間がもったいない。連れて行くのが早い。
声もなく頷き返し、ジイヤにも頷いた。
自身を含めた三人の姿に空間と共にひびが入る。
すぐにコロシアムが視界に映ると思われたその時だった。
荒野の地面が爆ぜた。
五人は爆風になされるがまま身体の自由を奪われ、それぞれが荒野に切り立つ大岩や地面に身体を打った。
「なんだっ!」
すぐさま体勢を整えたズィーが辺りを警戒しながら叫ぶ。
「敵襲だ!」
ブレグは叫び返し、他の三人の様子を見回す。
すぐそばにジイヤがいる。ジイヤは苦痛に顔を歪ませているが、目立った外傷はない。すでに立ち上がろうともしている。老体とはいえ帝の執事、並の魔闘士以上に鍛えられた肉体を執事服の中に隠しているのだろう。
少し離れたところにシューロとジュメニを見つける。
遠くから二人に手の平を向けている魔闘士の姿も一緒に。
「っ!」
駆け出し、娘たちを通り越し、放たれた衝撃波を腕で払いのけ、そのまま魔闘士をタックルで押し倒した。
「娘に手を出すなっ!」
言葉と共に、魔闘士を殴りつけ、意識を奪った。
海底遺跡で幽体のズィーは、同じく半透明の愛剣を背中に収める。
ソルーシャは遺跡の揺れが収まると姿を消した。
ジュメニも納刀する。「この揺れも、『夜霧』?」
「わかりません……それより、大丈夫ですかジュメニさん」
シューロが心配して見つめるジュメニの姿は、ズィーからしても無茶の一言に限るものだった。戦いの最中は気にならなかったが、改めて見るとよく立ち回っていたものだ。相手が変に弱かったというのもあるが。
「うわっ、まじ大丈夫すか、ジュメニさん? 死にそうじゃないすか」
「……あんまりいい冗談じゃないな、ズィプくん。そもそも君の攻撃でこうなったんだ」
「俺じゃないって、あいつは。ま、いいや。とにかく、ユフォンのとこ行こうぜ。あいつなら治療できるだろ」
ズィーは二人に向かって手を差し出す。
「なるべく静かに飛ぶけど、セラみたいなのは期待しないでくれよ」
「うん、ありがとう」ジュメニがズィーの手を握る。「けどさ、ズィプくん。ユフォンくんの居場所、わかるの?」
シューロもジュメニに続いてズィーの手を取るのに合わせて、ズィーはただ一言だけ返した。
「勘」
世界が揺れ、収まり、ギルディアークの魔闘士を伸した。
魔闘士が気を失ったのを見た途端、螺旋頭の男は戦意と共に姿を消した。そしてすぐに二人、いや三人が紅き閃光と共に現れた。
「ジュメニっ!?」
半透明なズィーの存在に驚くより早く、ブレグは娘の大事に目を見開いて駆け寄った。
「なにが?」
「ズィプくんにやられた」
「ズィプくん?」
ブレグは娘の言葉に、彼女の傍らにいたズィーにようやく気付いた。目を瞠り、訝しみ、ズィーにくぎ付けになる。対するズィーはジュメニの物言いに不満でもあるのか、眉を顰めてダレ親子を交互に見やった。
「ブレグ隊長、ジュメニさんは確かにズィプさんにやられましたが、でも、それはここにいる幽霊の本物のズィプさんではなく、恐らく死体のズィプさんらしくて、えっと、その……なかなかうまく説明できませんが、とにかく今はジュメニさんをユフォンさんのところに……」
シューロが慌てて口を回すが、彼自身、情報の把握が充分ではないのだと窺えた。ブレグは娘への心配や、ズィプガルの存在を含めた現状がとにかく『混乱』なのだと、冷静に理解した。
「それで、どうしてここに跳んできた? ユフォンくんならコロシアムに跳ぶべきだろう?」
「いや、勘で跳んだんだけど、ユフォンに会えるだろうと思ったんだよ、ここなら」
肩を大きく竦めるズィプ。その彼の横にブレグは魔素濃度の揺らぎを感じた。ひび割れるように空間が歪む。
「おおっ、なにっ?」
驚くズィーをよそに、落ち着いた声と共に格式高い老人が姿を見せた。
「ブレグ様っ」
「ジイヤ殿」
「『白雲』による攻撃です。現在コロシアムにて、ドルンシャ様、フェズルシィ様、それからセラフィ様がボリジャーク帝と覇王ズーデルと交戦中でございます。ご同行を。非常事態緊急帝令です」
「はい」ブレグは質問もせずに、警邏隊の長として頷く。それからズィーとシューロに目を向ける。「ジュメニを頼んだ」
ジイヤに腕を伸ばすブレグ。その腕を半透明の手が掴んだ。
「ちょっと、待って。セラがいるんだろ、俺もいく!」
ズィーのその言葉に、ブレグは問答しない。時間がもったいない。連れて行くのが早い。
声もなく頷き返し、ジイヤにも頷いた。
自身を含めた三人の姿に空間と共にひびが入る。
すぐにコロシアムが視界に映ると思われたその時だった。
荒野の地面が爆ぜた。
五人は爆風になされるがまま身体の自由を奪われ、それぞれが荒野に切り立つ大岩や地面に身体を打った。
「なんだっ!」
すぐさま体勢を整えたズィーが辺りを警戒しながら叫ぶ。
「敵襲だ!」
ブレグは叫び返し、他の三人の様子を見回す。
すぐそばにジイヤがいる。ジイヤは苦痛に顔を歪ませているが、目立った外傷はない。すでに立ち上がろうともしている。老体とはいえ帝の執事、並の魔闘士以上に鍛えられた肉体を執事服の中に隠しているのだろう。
少し離れたところにシューロとジュメニを見つける。
遠くから二人に手の平を向けている魔闘士の姿も一緒に。
「っ!」
駆け出し、娘たちを通り越し、放たれた衝撃波を腕で払いのけ、そのまま魔闘士をタックルで押し倒した。
「娘に手を出すなっ!」
言葉と共に、魔闘士を殴りつけ、意識を奪った。
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