碧き舞い花Ⅱ
26:紅蓮の対峙
「ズィプくん……!?」
ジュメニは知り合いの登場に構えを緩めた。だがその瞬間、遺跡を強風が吹き抜ける。
次いで空気が大きな塊となって、ジュメニとシューロに迫る。
「ジュメニさんっ!」
シューロがジュメニの前に躍り出て、障壁のマカを張った。
空気の塊が、魔素の壁を強かに打つ。そして、へし壊す。
「うあっ!」
「ああっ!」
シューロとジュメニは共々、吹き飛ばされた。しかし地面に伏すことはなく、二人ともきれいに受け身を取って、すぐさま立て直す。
ジュメニは今一度、ズィーに目を向ける。
所々に包帯を巻いている。左腕にはブレスレット。そして剣は手にも背にもない。その三点を除けば彼女の知るズィプがいる。二年前に会った時と変わらない姿で、そこに立っている。
「その包帯……もしかしてセラちゃんが言ってた、ウィーズラルのフォーリスに『夜霧』の博士が使ったっていう、死者を生き返らせるってやつじゃ……」
「死者を、生き返らせる? なんですか、それ……!?」
シューロは青ざめ、眉を顰めてジュメニに目を向ける。
「詳しいことはわたしにもわからない。でも、セラちゃんが言うには、普通には殺せないし、フォーリスは外の世界で無限にマカを使えたらしい」
「それって、異常じゃないですか」
「そうだ。もしあの包帯がそうなら、ズィプくんも異常だ。気を抜くなよ、シューロ」
「はい」シューロは固唾を飲んだ。「ジュメニさん」
「セラはどこだ」
空気を纏ったズィーが、その拳をジュメニに振りかざす。
「さあ、わたしにはわかんないよっ」
ジュメニは父と同じく魔闘士には珍しい剣を抜き、魔素を張り巡らせてズィーの拳を受けた。それから、ズィーの身体に魔素の綱を巻き付ける。
「シューロ!」
「はい!」
シューロが火炎が盛る拳でズィーの脇腹を打った。
きれいに入った。
しかし、ズィーには苦悶の声も、表情もない。
転じて、身体に力を巡らせると魔素の綱を破り、その勢いに乗せた空気で再び魔闘士二人を吹き飛ばした。
今度は二人とも受け身を取ることは叶わず、遺跡の床に転がる。
そのただ一度の衝撃に、ジュメニとシューロは立ち上がるのがやっとというほどまでに体力を奪われた。
「……なに、この強さ」
「やっぱり、あの包帯が…………」
ジュメニはふらつきながら、紅の騎士へと向かっていく。
「ジュメニさんっ、駄目です、退きましょう……!」
シューロは歩むジュメニに向かっていく。彼もまた、足取りは不安定だ。
「駄目だ! これはわたしの仲間の死への冒涜だ! わたしが、開拓士団護衛隊の長として、亡き仲間を安らかに眠らせなきゃいけないっ!」
剣を空で振るうジュメニ。彼女の身体に雷が閃いた。
バチチ、バチチと連鎖的に爆ぜて、ついにはジュメニの三つ編みをふわりと浮かせる。
「ジュメニさん、それ、予選じゃ使わないって……」
「そんなこと言ってる場合じゃないっ!」
バチン――。
ジュメニの姿は紫電の切れ端を数本残して、消えた。
遺跡を雷鳴が揺らした。
その音の切れ間。
ジュメニがズィーの真横で、剣を突き出していた。届く距離ではない。が、遅れて、今度は雷そのものが、剣の切っ先から轟音を引き連れてズィーに襲い掛かった。
焦げ臭さと黒煙が漂い、ズィーの姿を隠す。
次第に薄らぎ、輪郭が明らかになる。
「っ!?」
ジュメニは咄嗟に身を引いた。
決して彼女の反応が遅かったわけではない。
ただ反撃があまりにも早すぎた。
ジュメニの視界は眩さに覆われ、次の瞬間には雷鳴が耳に届いた。
「ジュメニさーんっ!」
傍らで見ていたシューロは、先ほどとは真逆に放たれた雷撃にただ叫ぶことしかできなかった。
海底遺跡に放射状の焦げ跡が鏡映しのように、二つ。
どちらも両端の方が濃く、中心は全くと言っていいほど黒くなかった。まるでそこをなにかが遮ったかのように。
黒煙が退場して、シューロには包帯を巻くズィプガルとジュメニの姿が見えてきた。
二人とも雷による外傷は全く見て取れない。
そして、ジュメニの前にもう一つ、薄っすらと人影があった。
それはシューロが知る、六年前の『紅蓮騎士』の姿だった。同い年だった彼が、今の自分よりも若い、当時の姿で。
「どうなって……」
それ以上、言葉が出ない。シューロはだらしくなく口を開けていることしかできなかった。
「……どうなってんだ、これ? 俺、服着替えたっけ……てか、俺?」
背景を透かす若い姿のズィー。当の本人である彼もまた、状況を理解していないようだった。自身と、目の前にいる自分を困った顔で何度も見比べていた。
ジュメニは知り合いの登場に構えを緩めた。だがその瞬間、遺跡を強風が吹き抜ける。
次いで空気が大きな塊となって、ジュメニとシューロに迫る。
「ジュメニさんっ!」
シューロがジュメニの前に躍り出て、障壁のマカを張った。
空気の塊が、魔素の壁を強かに打つ。そして、へし壊す。
「うあっ!」
「ああっ!」
シューロとジュメニは共々、吹き飛ばされた。しかし地面に伏すことはなく、二人ともきれいに受け身を取って、すぐさま立て直す。
ジュメニは今一度、ズィーに目を向ける。
所々に包帯を巻いている。左腕にはブレスレット。そして剣は手にも背にもない。その三点を除けば彼女の知るズィプがいる。二年前に会った時と変わらない姿で、そこに立っている。
「その包帯……もしかしてセラちゃんが言ってた、ウィーズラルのフォーリスに『夜霧』の博士が使ったっていう、死者を生き返らせるってやつじゃ……」
「死者を、生き返らせる? なんですか、それ……!?」
シューロは青ざめ、眉を顰めてジュメニに目を向ける。
「詳しいことはわたしにもわからない。でも、セラちゃんが言うには、普通には殺せないし、フォーリスは外の世界で無限にマカを使えたらしい」
「それって、異常じゃないですか」
「そうだ。もしあの包帯がそうなら、ズィプくんも異常だ。気を抜くなよ、シューロ」
「はい」シューロは固唾を飲んだ。「ジュメニさん」
「セラはどこだ」
空気を纏ったズィーが、その拳をジュメニに振りかざす。
「さあ、わたしにはわかんないよっ」
ジュメニは父と同じく魔闘士には珍しい剣を抜き、魔素を張り巡らせてズィーの拳を受けた。それから、ズィーの身体に魔素の綱を巻き付ける。
「シューロ!」
「はい!」
シューロが火炎が盛る拳でズィーの脇腹を打った。
きれいに入った。
しかし、ズィーには苦悶の声も、表情もない。
転じて、身体に力を巡らせると魔素の綱を破り、その勢いに乗せた空気で再び魔闘士二人を吹き飛ばした。
今度は二人とも受け身を取ることは叶わず、遺跡の床に転がる。
そのただ一度の衝撃に、ジュメニとシューロは立ち上がるのがやっとというほどまでに体力を奪われた。
「……なに、この強さ」
「やっぱり、あの包帯が…………」
ジュメニはふらつきながら、紅の騎士へと向かっていく。
「ジュメニさんっ、駄目です、退きましょう……!」
シューロは歩むジュメニに向かっていく。彼もまた、足取りは不安定だ。
「駄目だ! これはわたしの仲間の死への冒涜だ! わたしが、開拓士団護衛隊の長として、亡き仲間を安らかに眠らせなきゃいけないっ!」
剣を空で振るうジュメニ。彼女の身体に雷が閃いた。
バチチ、バチチと連鎖的に爆ぜて、ついにはジュメニの三つ編みをふわりと浮かせる。
「ジュメニさん、それ、予選じゃ使わないって……」
「そんなこと言ってる場合じゃないっ!」
バチン――。
ジュメニの姿は紫電の切れ端を数本残して、消えた。
遺跡を雷鳴が揺らした。
その音の切れ間。
ジュメニがズィーの真横で、剣を突き出していた。届く距離ではない。が、遅れて、今度は雷そのものが、剣の切っ先から轟音を引き連れてズィーに襲い掛かった。
焦げ臭さと黒煙が漂い、ズィーの姿を隠す。
次第に薄らぎ、輪郭が明らかになる。
「っ!?」
ジュメニは咄嗟に身を引いた。
決して彼女の反応が遅かったわけではない。
ただ反撃があまりにも早すぎた。
ジュメニの視界は眩さに覆われ、次の瞬間には雷鳴が耳に届いた。
「ジュメニさーんっ!」
傍らで見ていたシューロは、先ほどとは真逆に放たれた雷撃にただ叫ぶことしかできなかった。
海底遺跡に放射状の焦げ跡が鏡映しのように、二つ。
どちらも両端の方が濃く、中心は全くと言っていいほど黒くなかった。まるでそこをなにかが遮ったかのように。
黒煙が退場して、シューロには包帯を巻くズィプガルとジュメニの姿が見えてきた。
二人とも雷による外傷は全く見て取れない。
そして、ジュメニの前にもう一つ、薄っすらと人影があった。
それはシューロが知る、六年前の『紅蓮騎士』の姿だった。同い年だった彼が、今の自分よりも若い、当時の姿で。
「どうなって……」
それ以上、言葉が出ない。シューロはだらしくなく口を開けていることしかできなかった。
「……どうなってんだ、これ? 俺、服着替えたっけ……てか、俺?」
背景を透かす若い姿のズィー。当の本人である彼もまた、状況を理解していないようだった。自身と、目の前にいる自分を困った顔で何度も見比べていた。
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