碧き舞い花Ⅱ

御島いる

24:一対一対一対三

 ゼィロスははっとなって姪に聞き返す。
海上森林ノータトトスの風使いだろ」
「違うって、気配がこの風全体から感じられるから気体人間だよ」
「操っているんだ、風から気配を感じるのは当然」
「じゃあ答え合わせっ!」
 セラは得意げな顔で左腕を淡く輝かせる。外在力だ。
「うわっ、天敵っ……」
 突如、空気そのものが震えて、ぐぬぬぅと踏ん張りのきいた絞る声が二人の渡界人に耳に届いた。
「ほらね」
「んん」ゼィロスは苦笑して肩をすくめた。「さすがは俺の弟子だな……」
「で、もっ……」空気がひと際大きくうねった。「抜けられるっ!」
「ぅわ」
 セラは左手を大きく引っ張られ、崖から投げ出される。
 纏った空気を自ら解放し、セラは口を動かす。
「術式展開、フロア歩調ステップ同調チューン
 碧き花散るステンドグラスが、セラの足踏みに合わせ足を宙で支える。そのまま空中に立って、セラは崖に目を向ける。
 凪が訪れ、ゼィロスとの間、崖の先端に空気が集まっていた。
 竜巻が胴、四肢、頭となって空気は人型を成した。
 子どもだ。
 ゼィロスが目を細める。「見た目通りなら、かなり若いな」
「う~ん、おじさんなら勝てると思ったんだけどな」空気は悔しそうに両腕を振る。「意外と粘るんだもん」
「さすがに少年に引導を渡されるわけにはいかないな」
「……ねぇ、わたしもいるんだけど、二人だけで進めないでよ」
 セラが呆れ気味にそう言うと、空気の少年は振り返って驚いた。彼女が崖の下に落ちたと思っていたらしい。
「うっそ、人が空に立ってる!?」
「あなたも浮いてるけど?」
「え、当たり前でしょ?」
「まあ、そうなんだけど……」
 セラは一つ息を吐いて、フォルセスを構えた。
「え、待って! まだ二対一なの!?」少年は身体をささくれ立たせて驚く。「俺、このおじさんと一対一になったと思ってたのに」
「まあ、確かにな」ゼィロスが人型の後ろで頷く。「考えてみれば俺とセラが手を組んで戦う必要はないな。協力するのも作戦の一つだろうが、この予選では全員が敵というのが本質なのだからな」
「一対一対一ってこと?」と訝るセラ。
「一対一対一っ!」と楽し気な空気の少年。
「違うよ!」
 不意にゼィロスの後方から猛々しい大音声が響いた。
 崖よりもさらに高い山の頂に少年が一人、二本の得物を携えて立っていた。マグリア警邏隊のマントを羽織ったその少年自体の気配は小さい。彼より活力を持つのは、彼が持つ包丁に見えるほど短い二本の刀の方だ。
「一対一対一対三だ!」
 剣の子と番刀。
 ブレグ・マ・ダレの弟子。
「ドード・ワンス、いざ参るっ!」
 番刀が一本、木枯らしを掲げて、ドードは頂から跳んだ。
 ゼィロス目掛けて降ってくる、相も変わらずの少年。しかしとセラは考えを改める。よくよく見ると、木枯らしと春一番の二本は、彼女の記憶にあるものより長くなっているようだった。
 成長、かな。セラは心中で小首を傾げながらも、戦いに集中していく。
 気体人間との戦いははじめてだが、液状人間との戦いの経験はこのマグリアでのものを含めて、彼女には二度あった。
 液状人間には物理的な攻撃は効果が薄い。意のままに斬る思惟放斬を除けばだ。
 フォルセスにより力を引き出されているセラには、思惟放斬は集中もヴェールもなくして繰り出せる技術だ。
 しかし、とセラ意を決める。
 生命の波を用いた力を多く使うには、いい機会だと。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品