和風MMOでくの一やってたら異世界に転移したので自重しない

ペンギン二号

16 初めてのフレンド登録

 大量の蜘蛛をようやく退治し、そこにやってきた巨大ムカデの正体は実は狐の幼女で、泣きじゃくる彼女をイジメていると誤解され言いがかりをつけてきたくせに途中で忽然といなくなった青龍、さらに息つく暇もなく送られてきたフレンド申請。


 もう何がなにやらで一旦、休みたい気分だった。




『だれかくるよー?』


「え?」




 眉をしかめながらメッセージウィンドウを見て金縛りにでもあったように呆然としていると、男性が近付いてきているのに豆太郎が最初に気付いた。




『わーん、景保ぅぅー!!』




 反応は顕著だった。すぐに狐の幼女が立ち上がりその男性に目掛けて走っていく。
 本当は見逃すべきじゃないんだけど、色んなことが次から次へと起こり過ぎて頭の整理がつかなくなっていたので動く気になれない。
 二十歳前後に見えるその男性は彼女を抱き上げるとこちらに手を振ってきた。




「あれは……」




 突然の急展開で心の準備も欲しかったので彼がこっちへ到着するのを待つ。
 しっかりとした足取りで会話する距離にまで来るのにそんなに時間は掛からなかった。




「やぁ、こんにちは。初めまして『蘆屋景保あしやかげやす』と言います。格好から見ての通り【陰陽師】。この子はお供の小狐の『タマ』。の人だよね? お話、いいかな?」




 男性――景保さんはなおも泣き止まないタマというらしい幼女狐をしきりになだめ、苦笑しながら名乗ってくる。
 それにしてもタマって猫じゃないんだから。




「私は『アオイ』。【忍者】です。この子は『豆太郎』。あっちの人で合ってると思います。そっちもですよね?」


「うん、僕もです」




 あっちと私たちが暗に指しているのは『大和伝』のことだ。
 つまり彼も大和伝からこっちに来たプレイヤー確定で、偶然の巡り合わせに胸が高鳴る。


 彼の格好はアクアマリンのような僅かに緑が入っている鮮やかな千草色ちぐさいろと白のラインが入った装束を纏い、黒い烏帽子えぼしを被っている。大学生ぐらいかな。
 「おーよしよし」とさっきまで大ムカデだった幼女狐を小脇に抱きかかえ、少しだけ泣き止んだ彼女の頭を困り顔でしきりに撫でている。
 これでようやく一つだけ謎が解決された。なのにさらに謎が増えた。なんだか複雑な心境だ。




「とりあえずこれ申請してOKですか?」


「そうしてもらえると嬉しい。さすがにここで拒否されたら僕も泣いてしまうかもしれないから」




 冗談交じりに言う彼の目の前で『承認』ボタンを押した。
 ここに来てから灰色だったフレンド欄に一つだけ白い名前で彼の名前が表示される。
 レベルは私と同じ百だ。




「あの、それでその子のことなんですけど」


「いやぁ、蜘蛛に追われている君を発見してね、助けようと先行させたんだけど、どうもモンスターと勘違いされちゃって驚いて放り投げたみたいだね」




 げげ、私またアレンの時みたいに勘違いしちゃったのか。




「ごめんなさい」


「いいですいいです。あんな場面にムカデの姿で登場したら新手かと思うよね。それよりもさらに止めようと青龍を向かわせたら今度は勝手に攻撃するしで、こちらこそ本当にごめんね。あれで案外仲間想いみたいで、全然僕の言うことを聞かなくてね……」




 助けにきたところに私が敵だと思って攻撃しちゃったのがいけなかったらしい。
 うやむやにしてくれるようでほっとした。私だったら豆太郎が勘違いでも傷付けられたら平静ではいられないのに。
 ただ命令を無視する青龍についてはスルーできない話だ。




「言うことを聞かないって大丈夫なんですか?」


「あぁ、うん。大和伝とは違ってかなり気分屋になっているみたいでね、反抗したりすることもあってとても使いづらくなってる。防御や回復系の玄武や六合なんかは割と素直なんだけど」




 青龍とくれば同じ四神としてお馴染みの玄武も知っている人は多いだろう。【陰陽師】はそれら四神の他に八種類の仲間を呼び出すことが可能で六合はそのうちの一つだ。それらを【十二天将じゅうにてんしょう】と呼ぶ。
 陰りのある表情で語る表情からはなんだか苦労が垣間見れた。




『うー、景保痛いのぉ』


「本当にごめんね、これ食べる?」




 景保さんの陰陽師衣装にタマちゃんが痛くて構って欲しそうに顔を擦り付けるので、ウィンドウから『こんぺいとう』を取り出しタマちゃんの目の前の差し出す。


 結果的にこっちの勘違いだったし、こんな幼女を泣かせてしまったというのは私としても挽回しないといけないところだ。
 それにSP回復用のアイテムだがこれも大量にあるので一つや二つあげても差し支えない。


 彼女は涙目でそれを瞳に映すとピタっと一旦泣くのをやめて、おずおずとこんぺいとうを摘むと口に入れた。




『いいなー』




 物欲しそうにする豆太郎にもあげると尻尾を振って「わふわふ」と喜んだ。




「ほら、そろそろ立ちなさい」




 泣き止んだのを見計らって景保さんに下に降ろされると、タマちゃんはおっかなびっくり上目遣いにこちらを見上げて、




『ゆ、許してあげるの。タマも驚かせて悪かったの』




 謝ってきた。可愛い。お持ち帰りしたくなるね。
 よく見るとオデコが赤く腫れていた。たんこぶのようで、言わずもがな、この傷を作ったのは私だ。本気で蹴ってしまったしそりゃ痛いに違いない。
 申し訳なく思いながら景保さんに目を合わせると応じてくれる。




「いくよ。―【六合符りくごうふ治癒活性ちゆかっせい―」




 彼の宣言コールで指先から生まれたのは梵字の文様が描かれている符。
 それをタマちゃんの腫れている部分に飛ばし貼り付けると、薄緑色の光が輝き、傷が癒えていく。


 これが陰陽師の得意技である『符術』だ、
 多種多様で強力な『十二天符じゅうにてんふ』という符術を操る。
 他の職業では自分以外には、他のユーザー、相方の動物、もしくは傭兵として雇ったNPCだけしかパーティーに入れられないのに、この職業だけはさらに符術で召喚した十二種類の『式神』から一体を選んで共に戦うことが許されている。
 他のゲームで言うところの『サモナー』に近い存在だ。
 式神ありきなので当人のステータスやスキルは控えめなものになっているし、式神のレベルも召還者のレベル×0.8となる。ただそれでも最大五人パーティーの大和伝でもう一枠追加で六人目の存在が入るというのは、手数が増えてバリエーションが広がるし心強く頼りになっていた。
 ちなみに陰陽師五人パーティーだと十人編成も可能となる。でも突出した能力の者がいなくなり役割分担が難しいためボス戦ではネタ扱いとされている。




『痛くなくなったの! 景保、ありがとうなの』




 けろりと無邪気な笑顔を見せ、琥珀色の髪を揺らしながら彼の服の裾を掴むタマちゃん。着物スカートには穴が空いていてそこからふさふさとした尻尾が横に嬉しさを表現しているみたいに揺れている。


 ちなみに彼女が動物型じゃなく人型なのはわけがある。
 それは『課金』だ。
 私はそこまで人型に興味が無かったのとお金をケチったのでしていないが、課金により能力解放されたパートナーの動物は獣人の人型になることができる。


 
「あの、情報交換がしたいんですけど」


「うん、実は僕もそれが目的だったんだ。だけどとりあえずここから離れない? ほらあれ」




 あごをしゃくられそっちに目をやると、まだ村から蜘蛛が湧いてきてこちらへ突撃しようとしていた。




「うそ、まだいるの!?」


「理屈は分からないけど無数にいるみたいだよ。僕らならたぶん大丈夫だと思うけど、ゆっくり話すなら一応村からは距離を取った方がいいし、それにもう日が暮れそうだ。幸いあれは距離を取ると追ってこなくなるらしい」




 見ると太陽と地平線の位置が思ったよりも近くなっていた。午前中から三日以上掛かる距離を疾走してきたけど、さすがに半日掛かってしまい戦闘もあったし、ここら辺が今日のタイムリミットか。
 まぁ私は夜目があるから夜でも活動できるんだけどね。
 でも今気になる言葉を耳聡く拾った。




「らしいって?」


「あぁ、先客に聞いたんだ」


「先客?」




 景保さんは自身がやってきた森の方を指差す。




「あっちだよ。山小屋があってそこに集まっている」


「集まっている?」


「うん、探索に失敗したこの世界の冒険者たちがいるんだ」




 どくん、と自分の心臓が脈打つのが聴こえた気がした。
 暗い情報ばかりの中にようやく差し込んできた光。正直、最悪の結末を予想しないでもなかった。でもそういったことは考えないよう努めてきたのだ。




「その中に私と同じぐらいの年齢の男の子と女の子二人のパーティーがいませんでしたか?」


「あぁいたかな。ただ確か女の子は一人だったけど?」




 今跳ねた心臓が急に痛みを感じ始めた。圧迫されるようにぎゅっと苦しくそれを抑えたくて服を掴む。
 どっちだ? どっちだろう? くそ、そんなこと考えるな。
 最初の印象は悪かったけど快活で面倒見の良いところも見せてきたミーシャと、優しくて終始私を気遣ってくれたオリビアさん。
 どちらかが欠けているなんて思いたくない。




「あ、案内してください」




 蜘蛛の死体回収なんて二の次だ。
 喉が詰まるようにやっと出せた言葉は、自分で思ったよりもか細かった。






「アオイ?」




 山の中、景保さんに連れられ森の中の斜面をやや登った川の近くにその小屋はあった。
 猟師が使う山小屋で料理道具など小物類が持ち込まれているらしい。近くの木には繋がれた馬が四頭いる。
 そこに着いたときにはもう夜一歩手前というところだった。


 石で囲まれた簡易なかまどでパチパチと爆ぜる火に、焦げ跡が付いて使い込まれた鍋を乗せ、食事の支度をしているミーシャがこちらに気付いて声を上げる。
 火が照り返し半身が自慢の赤毛と同化するように赤く染められていた。
 その表情や振る舞いは憔悴しきっていることが窺える。




「来たよ」


「アオイ……!」




 私を見るなりくしゃりと顔が歪み、おたまを放り出して抱きついてきた。
 肩を掴む手は強く、心に鬱屈として溜まっている何かを堪えようというのが伝わってくる。


 ミーシャの声が聞こえたのか山小屋から数人の男たちが出てきた。その中にはアレンも混ざっていて、こちらを発見して口を開けて驚いていた。




「アオイ、どうしてお前が?」




 ほとんどの人とは初対面で警戒される中、アレンが「知り合いです」と慌てて他の人に声を掛ける。それで剣呑な雰囲気が和らいだ。




「ギルド長に様子を見てこいって頼まれちゃってね」


「そうか、援軍が来てくれたか! これなら……」


「おう、合理主義のおっさんだと思ってたが優しいところもあったんだな」


「だから待ってた方が良いって言っただろ?」




 なにやら勝手に盛り上がっているので一応釘を刺しておく。




「悪いけど、来たのは私だけだよ」




 私の遮る言葉に、一様に肩を落とし目線を足下に下げて露骨にガッカリする他の面子。




「そう落ち込む必要は無いと思いますけどね」


「そうは言うが、よく分からん格好のアンタとこんな若い子が増えたぐらいであの蜘蛛の数がどうにかなるもんじゃないだろ」




 景保さんがフォローを入れてくれるも、納得はいかないようで彼らは愚痴をこぼして俯く。
 まぁ烏帽子に狩衣かりぎぬなんてこっちの世界じゃないだろうし、うさんくさいだろうなぁ。
 というか、あの大ムカデになったタマちゃんを見てないのか。




「景保さんはいつ来たんですか?」


「ついさっきだよ。ここで彼らと鉢合わせして話を聞いてから下見がてらに村へ向かったら君を見つけたって感じ」


「そっちのカゲヤスさんだっけ? ふらっと子供と一緒に現れていつの間にかいなくなってたんだけどアオイの知ってる人なのか? 何となく見ない格好で顔付きや髪の色が似ている気がするけど」


「なんていったらいいんだろうね、同郷の人かな。さっきばったり会ってね」


「ふーん」




 アレンにどう説明したものかと悩んだが、ぼやかしながらも本当のことを言っておいた。
 ちなみに豆太郎とタマちゃんは私たちの足元でちょこんとお行儀よく待っている。
 精神年齢的には同じぐらいだし仲は良いみたいで、ここに向かう途中はずっとじゃれていた。




「まずは状況を知りたいんだけど、ちょっと説明してくれる?」


「あたしが説明するわ」




 気が緩んだのか鼻をすすり目が赤くなったミーシャが、私から離れて服の袖で涙を拭く。
 いつもの気丈さはやはり陰りがある。


 彼女の説明を簡単にまとめるとこうだ。
 村に到着したアレンたちは念のため馬車を村の外に止めさせ、探索を開始した。
 私と同じように村人の死体も発見できないまま中央部へ行くと、地面から出現した蜘蛛集団に襲われたらしい。
 あまりにも数が違い過ぎ、また蜘蛛の糸が切れにくい性質もあって糸で雁字搦めにされ、ほうほうのていで仲間を見捨てて村から逃げてきたんだとか。
 馬車も四台あったうち二台が途中で潰されたみたいで、この人数で救出を続けるか、町に救援を求めるかで揉めながらも留まっている状態って感じ。




「あたし、オリビアに庇われたの。本当はあたしがやられるところだった。なのに助けもせずに逃げ出した。最低よ」


「あの場はあぁするしかなかった。嫌がるミーシャを無理やり担いで後退したのは俺の判断だ。助け出すために一度体勢を整える必要があったから」




 しゃべりながらその時のことを思い出すように絞り出す。悔しそうに拳を握り懺悔するかのように話す二人は痛々しい。
 アレンは顔を少し伏せたまま続ける。




「あの蜘蛛たちは捕まえた人間を教会の大きな繭の傍に並べているだけですぐには殺さないんだ。だから取り戻そうと何度も襲撃したんだけど、そのたびにあの圧倒的な数に押されて村に入るまでに失敗している。でもさすがに飲まず食わずで捕まっているやつらの生命力がもうもたないし明日がリミットだ。だからお前が来てくれて嬉しい」




 私の実力をある程度まで認識している二人の目には希望の火が灯っていた。
 本当は今すぐにでももう一度村に行きたいけど、人質を抱えて逃げ切れるかどうかは不安だったし、ここは皆と連携できる朝まで悔しいけど待つしかないか。
 それにみんな知らないだろうけど、景保さんも私と同じぐらい強いはずだ。その期待には十分に応えられるだろう。




「もちろん捕まっている人を助けるよ」


「助かる。まずは今残っているメンバーを紹介しよう。皆、彼女は『アオイ』だ。そして彼が『ファイアーストーム』のサブリーダー『クロムウェル』さん」


「宜しく頼む。炎の魔術を使えるリーダーさえ救出できれば戦況は明るくなるはずだ」




 三十~四十代ぐらいの渋いおじさんだ。
 クロムウェルという人は薄い鉄鎧と槍を装備していて、仲間を攫われその面持ちは神妙で表情が固い。握手を求められ握り返した。




「こっちが『ブラッドビースト』のリーダー『ジ・ジャジ』さんと『リンクウッド』さん。あと俺とミーシャ、残っているのはこの五人だ」


「宜し――」


「なぁ今からでも遅くない。そっちの子連れの兄ちゃんもどうかと思うが、こんな子供まで戦力に数えるのはよさないか?」




 こっちから手を出そうとしたら、不快そうに口元を歪める男に遮られた。
 ええと、リーダーのジ・ジャジだっけ? 見た目はほとんどただの人間。でもよく見ると頭の上に獣耳が付いていて確かに獣人のようだ。顔の側面は長い毛に覆われていて人間の耳があるかどうかは確認できない。
 わお、初めての第一獣人に出会っちゃった。でもタマちゃんと比べたら見た目も言ってることもまったく可愛くもないんだけど。




「なぜです?」


「見たところギルドに登録して日が浅いだろう? どう考えたって足手まといにしかならねぇよ。こっちは仲間の命が掛かってんだ、これ以上しくじれねぇ」


「子供って年齢は俺と一つしか違いません。それに彼女は強いですよ。天恵を使った俺と互角以上に遣り合えます。ジさん、おそらくあなたよりも戦闘能力だけで言えば上なはずです」




 その台詞にピクリと眉が動く。
 アレンの率直だが失礼な物言いにプライドが傷付いたのだろうか。歯を剥き出しにし気色ばんで顔を近づける。




「本気で言ってんのか?」


「本気で言ってます」




 しばし睨み合いが続いた。
 真実を語るアレンは毅然きぜんとし、目を反らすこともなく断固として一歩も引かず対峙する。
 まるで抜き身の剣を持っているのかと錯覚しそうになるほどピリピリとした空気が張り詰め、誰もが声すら出せない。


 熱せられたかまどの木が爆ぜる音だけがそこにはあった。


 しかし、その確固たるアレンの態度に先に根負けしたのはジ・ジャジの方だった。
 彼は、突然「ふっ」と苦笑し、




「分かった。信じる。信じるよ。難癖つけて悪かったな」




 アレンの肩を叩いた。アレンも安心したように顔が綻び、それで空気が緩み誰もが喧嘩は回避されたと思った。




「――なんて言うと思うか?」


「ぐっ!」




 卑劣にも油断したアレンの腹にジ・ジャジの握った拳が刺さる。
 九の字に体を曲げるも、咳き込むぐらいで倒れるほどではなかったのはそれなりに加減をしたっぽい。


 ミーシャからは今にも食って掛かりそうな責めるような鋭い視線が飛び、ジ・ジャジは呻き硬直したアレンの肩を掴み耳元で囁くように忠告をする。




「どうしちまったアレン? 駆け出しだった頃にお前らの面倒を見てやったのは俺だぞ? 仲間を危険に晒したくないのなら客観的に判断しろと口を酸っぱくして教えたつもりだったがな。今更よく分からないのが二人増えたところで好転なんてしない。まだ新米ルーキーのつもりか?」


「な、ならあなたは……頭の固い年寄りロートルです」




 一瞬、アレンがその言葉を紡ぐのに戸惑った。それでも小さく頭を振り吐き出した。
 きっとお世話になったのは本当なんだろう。だから素直な性格から頼った人を悪し様に罵るのは躊躇があったに違いない。
 けれど殴られても説教されても、それでも自分の意思は曲げない。このアレンの返しにはその意図が組み込まれていた。
 しっかりとジ・ジャジの目を見て話しそれを示す。




「言うようになったじゃねぇか。それとミーシャもちょっとじゃれついてるだけだ。恩人に殺気を向けるな」


「あなたがいなければ確かに私たちは今ここにいたかも怪しいわ。でもここでアレンの話に耳を傾けずに傷を付けるだけならパーティーメンバーを守るために動かせてもらうわ」




 ミーシャのその覚悟と言い様に、さすがにこれ以上の騒動はまずいと判断してか「ちっ」と舌打ちをしてアレンを解放する。
 アレンはややよろけながらもちゃんと二本の足で立てているから大したことはないみたいだ。
 てか私のことを私抜きで決められても困るのよね。




「ねぇ、要は私たちの実力が分からないからゴネてるのよね?」


「あぁ? ひよこは黙ってろ!」




 取り付く島もない。私より頭一つ分は優にある上からの物言いには、本来なら恐怖を感じるべきなんだろう。
 でも私が感じたのはこの分からず屋のせいで話が滞っているということだけだ。 




「黙っていられるわけないでしょ、私のことについてアレンが殴られたのよ? もう他人事じゃないわ」


「……ならどうするよ?」




 目を細め私の動向を冷静に観察するように見据えてくる。
 さっきまで粗暴で頑固者というイメージしかなかったけれど、そういうちゃんとした面もあるようだ。




「そうね、実力を示したらいんでしょ? 戦ってもいいけど怪我させてもつまらないし、そこの木でも倒しましょうか?」




 あごで指し示したのはちょうど幅が私のウェストぐらいのやや細身の木だ。
 それでも斧で何十回か切れ目を入れてようやく倒せるかという代物。
 当然、斧を使い時間を掛ければ誰でも切り倒せる。だけどそんな当たり前の話ではなく、問題はかに焦点が当たる。


 ジ・ジャジは自らの獲物をちらりと見てから、自分ならどうやって倒すのかということを考えながら疑念の表情を向けてきた。
 おそらく彼の中では愚直に剣を叩き付けるぐらいしか思い浮かばなかったんだと思う。 




「そこまで言うならやってみろ」


「分かったわ」




 興味深そうに眉毛を上げて促される。
 私は腰の紅孔雀を抜刀した。が、やっぱりやめて鞘に戻す。




「それで切るんじゃないのか? そんな短いのでは刀身が足りないから無理だろうが。それとも誰かの武器を借りるのか? 刃が痛むだけだから誰も貸さんと思うぞ」


「んにゃ。別に借りないよ」


「あん?」




 私の返答に怪訝そうに声をもらしてくる。
 ちなみにレベル制限を解除したままなので私の今のレベルは百だ。




「刀でやろうかと思ったけど、刀が良いだけだろっていちゃもん付けられたら困るからね」


「そんなことするかよ――」




 彼が言い終わる前に動いた。
 踏み抜いた土が陥没する。風よりも速く人の意識が追い着かない速度で移動し、尋常ならざる力を持ってして目標の木を間合いに捉えた私はそれを‘蹴り倒す’。


 凄まじい木の折れる悲鳴が轟く。メキメキではなく、バキィと印象は雷が落ちたのに近いかもしれない。
 地中深く張った根は衝撃を逃がすことができず土ごと隆起し、まともに食らった幹は私が足首で刈るように放った上段廻し蹴りを当てた場所から粗雑に折れて、切り離された大部分の幹と枝葉が重力に従い倒壊していく。
 私は両手でそれが地面に着く前に拾い上げ、ジ・ジャジの頭の上で止めて突きつける。




「え……あ……?」




 軽く数百キロある幹が彼らの頭上を覆い、そのあり得ない事態に唖然として時間が止まったかのように誰もリアクションが取れない釘付け状態になった。




「これで証明になったかしら? ちなみにそこの景保さんも後衛職だけど私と同じぐらい強いわよ」




 一斉に全員が景保さんに目を向ける。
 え? って感じで話を振られた彼は当惑しながらも「蹴り倒すのは無理ですよ!?」と謙遜をした。
 でもそれはつまり他のやり方でなら簡単にできるとほのめかしているので、動揺する面構えは変わらない。


 私と景保さんだけが動いているような世界の中、少ししてから最初に茫然自失の状態から回復したのは当事者であるジ・ジャジだった。




「……すまなかった。謝る。俺らの仲間を助けるために力を貸してくれ。いやして下さい」




 深々と頭を下げてくる。それに倣って他の人たちも同じように腰を曲げる。
 ここまで劇的な改変は望んでなかったんだけど、目的のためならプライドを捨てて謝罪できるところは好感が持てた。




「もちろん、協力は惜しみませんよ」




 そもそも反対されたってオリビアさんを助けるために動くつもりだったし。
 私の言葉に緊張の糸が切れたようにみんながほっと息を吐いた。
 弛緩する雰囲気に木を地面に置いてもう一度彼に手を差し出すと、今度はちゃんと握ってくれる。




「ありがとう。心強い! それにアレンもすまなかった。確かに見た目だけで判断して頭が固かったのは俺の方だ」


「そんな。俺も色々言葉足らずだったかもしれませんし、それに見た目だけなら間違いなくそいつはちんちくりんですから!」




 おいおいアレン君。先輩の顔を立てたいのも分かるけど。ほお、そんなこと言うんだ?




「ええ使私が全力でやりますので安心してください」




 言いながら口の端を吊り上げアレンをチラ見した。
 ぎく、という音が出そうなほどアレンに動揺が走る。




「そういやお前さっき互角とか言ってたけど、どう贔屓目に見ても互角ってレベルじゃねぇよな。お前本当に良い勝負したのか?」


「ア~レ~ン~?」


「いや、けっこう惜しいところまでいってなかったか? あぁはい、いってませんよね、すみませんボロ負けでした」




 私たちに詰問されにじり寄られると本音がぽろぽろと出てきた。
 男の子だから格好つけたい気持ちは分かるんだけどね。
 まぁ謝ったから許してあげるけど。




「お前さすがになぁ。気持ちは分からないでもないが」


「いや最初はそこそこ試合になってたはずなんですよ! 手加減されてたんですけど!」


「本気の私とやるなら千アレンぐらい必要だよ」


「だからなんだよその単位!?」


「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」


「なに!?」




 和やかなムードになったところに今度は急転、ミーシャの悲鳴が響いた。
 戦慄が走り皆が一斉に武器を取り警戒すると、




「ごめんなさい、お鍋焦げちゃった」




 ミーシャが申し訳無さそうに指を指すのは黒い煙がもくもくと上がる鍋だった。
 ここまでの一連の騒動で目を離した隙にやってしまって、それに気付いただけらしい。
 勘違いさせたことと大げさに驚いてしまったこと、お鍋を焦がしてしまったことに「ご、ごめんなさい……」とバツが悪そうにしゅんとなりながら謝罪するその姿を見て、胸を一撫する。




「はは」




 誰かの笑みがこぼれた。
 それが伝播するように笑いが次々と波及し、ピリピリしていた空気がようやく綻んだ。




「明日こそはいける気がしてきたな。お前ら、やるぞ! 今日は二人一組で見張りをやり、早朝出撃だ。仲間を取り戻す!」


「「おお!!」」




 ジ・ジャジさんの号令に一堂が活気付いた。






 それから数時間後、作り直した鍋の食事を終え、比較的疲労の少ない私と景保さんが一番中途半端な時間帯の深夜の見張り役としてペアとなった。
 辺りはもう真っ暗で私が折った木が座るのにちょうど良いベンチ代わりになって、それに腰を下ろしながら、火が消えないようにたまに乾いた木の枝を投げ入れて周りを警戒するお仕事だ。
 とても静かで、虫の声や獣の息遣いの気配すらもしない。あるのは火が爆ぜる音と私たちのしゃべる声や衣擦れぐらいなものだ。
 この静寂さはあの蜘蛛たちと因果関係があるのかもしれない。もしそうなるとトレントたちが何かから逃げ出していたのと今回の騒動とを結び付けるのはとても自然な話だろう。たぶん、あいつらはここら一帯の山から逃げ出してきたに違いない。


 豆太郎とタマちゃんはオネムなのか、二人で木を枕にして寄り添いあいながらうつらうつらと舟を漕いで寝息を立てている。小屋で寝てていいって言ったんだけど、この子たちが一番落ち着くのは私たちの傍らしい。まぁこれでもスキルのおかげか敵が近付くとすぐに起きるので、今はむしろ安心していいってことだ。




「やけに静かでしたね?」


「いやぁ感心しちゃって」




 ほとんど口を開かなかった彼――タマちゃんと豆太郎を挟んで横に座って火をぼうっと眺めている景保さんのことが気に掛かった。




「感心?」


「いくらこのアバターの姿だとしても年上であんな強面たちと真正面から対等に話すなんてなかなか難易度高くてね。それを当たり前のようにやってのけるから見入ってしまって」




 たはは、と恥ずかしそうに頭を掻く。
 陰陽師の力を使えば町一つだって潰せるほど強いくせに何言ってんだろうか。




「ひょっとしてあんまりしゃべるのが得意ではないタイプですか?」


「お恥ずかしながら。就職活動も面接が一番苦手でね。あ、リアルの話はあんまりしない方がいいのかな?」


「こっちのことを根掘り葉掘り訊かれなければいいですよ。就職活動ってことは大学生ですか?」


「うん、そう。親の敷いたレールに乗りたくなくて自分なりにやりたいことを見つけるために頑張ったんだけど全然上手くいかなくてね。ストレスをゲームで発散してたんだけど、洞窟を探索中に穴に落ちて気付いたら『フォリクス』って町の近くにいた」




 まだ一週間ほどしか経っていないのに元いた世界のことがもっと昔のことみたいに聞こえる。
 思い起こすといつも決まった時間に登校し、誰かと競わされ、不確かな未来のためにみんなが同じことをしていた。
 こっちは生死が付きまとうけどいつだって自由だ。好きに食べ好きに動き回り、好きに寝る。ギャップがあり過ぎて戻ったときに適応できるかという不安が出てきた。


 それにしても、こっちも『穴』か。私も穴に落ちた。共通点はありそうだ。




「フォリクス?」


「そうフォリクスはここより西にある町でね、その魔術師ギルドからの要請でやってきたんだ」


「魔術師ギルド? そんなのあるんですか?」


「うん、冒険者ギルドの魔術師版みたいな感じなんだけど、実際のところは研究畑の人が多いね。知ってるかな? この世界の魔術は七十ニ種しかないらしい。それは女神様が大昔に人間でも魔法を使えるようにして伝えたものなんだって。魔術師ギルドはその伝わっている七十ニ種とは違う魔術を編み出そうとしているギルドだよ。ただ設立してから数百年、一つも新しい魔術は発見できていない。だから人数も冒険者ギルドより少なくてかなり寂れている」


「へぇそんなギルドがあるんですね」




 オリビアさんから魔術はリィム様がいるから使えるとか聞いていた。
 しかし七十ニって多いのか少ないのか。




「僕のクラス職業からしてそっちの方が近いかなって行ったんだけど、登録試験でちょっとやらかしてしまってね。すぐに期待の新人扱いされてしまったんだよねぇ」


「やらかしですか」




 焚き火に薪を入れる。火を見つめる瞳は遠くを見るような感じだ。
 どうも相当にやらかしてしまったらしい。たぶんチート陰陽師の力を使ったのかな。




「おかげでフォリクスの冒険者ギルドがこの村の調査にまごついている間に、先に解決して実力の違いを思い知らせてやって欲しいってお願いされちゃってさ。ギルド同士のいざこざでマウント取るために利用された感じ。まぁ報酬が良いからいいんだけど」




 肩を竦めて脇で眠るタマちゃんの艶やかな黄褐色の髪を撫で、彼は咳払いをして話を変えた。




「それよりもさ、この世界に来た経緯の方のすり合わせをしたい。僕は平泉岩手県マップの洞窟を探索中に穴に落ちて気付いたここにいたんだけど、そっちはどうだい?」


「私も似たようなものです。水戸茨城県マップのお城を忍び込む任務中に押入れに隠れたら壁が開いていつの間にかここに、って感じです」


「そうか。じゃあ次だ。神様からのメールは見たかい?」


「見ました。いつでもポーションを飲めば帰してくれるし、こっちの世界で好きにもしていいってやつですよね?」


「うん、それも一緒だね。ちなみに返信したけど何も返事は無かったよ。サポートは充実してないみたい」


「それは……しませんでしたね」




 そうか、一応返信できたのはできたのか。返事がもらえないなら意味はないけど。




「君はどう思う?」


「どうって?」


「本当にあのポーションを飲めば帰れるのかな?」


「えっ……」




 それは考えたことがなかった。鵜呑みにしていたと言われればそれまでだけど、そこを疑うとどうしようもない。だから無意識的に信じていたのかもしれない。
 指摘されれば確かに信用する根拠はどこにも無い。




「もちろん、僕らにメールなんて送れるのは神様みたいな人だけだろうし、考え過ぎているだけかもしれない。どっちにせよポーションを信じる以外に帰れるあてなんて無いしね。でも僕は小心者でさ、決心が着くまでこっちの世界にお世話になろうかと思っている。それにおかしいことは色々あるし」


「おかしいことってなんです?」


「例えば見たこともないモンスターもいるけど、ゴブリンとか知っているモンスターがいるよね?」


「ええ」




 ここに来るまでにゴブリンだけじゃなく、リザードマンやトレントなんてやつがいた。人によってイメージに差異はあっても大まかには知識にあるモンスターたちだった。おそらくテレビゲームをそこそこプレイしたことがある人だったら誰もが知っている異形の怪物たちだ。




「名前については自動翻訳が働いているみたいだから名詞ですら近しい既知のものに勝手に翻訳されている可能性もあるけど、僕らの世界で人間が勝手に空想したモンスターとの固体がいるっておかしくない?」


「あっ!」




 言われてみれば違う世界なのに、私たちのゲームやお話でよく知っているイメージ通りの中世風の剣と魔法の世界に出てくるモンスターそのものばかりだ。
 私たちの知っている空想上の生き物と見た目も名前も一致するというのがもうおかしい。もしモンスターがいるとしても全く別の姿形なのが当たり前なんだ。私たちの世界には魔物自体いなかったけれど、もしいたらここと似たような環境になっていたのだろうか? それともこっちが合わせている?
 思考は答えがない迷路に迷い込んでしまったみたいだった。




「それにここが魔法がある世界だとしても、大和伝の能力そのままの力やアイテムが使えるっていうのが変なんだよ。しょせんはゲームのキャラ、つまりただの電子データでしかないものがなぜ異世界にまで付随されその力を行使できるのか。神様のすごい力だと言われれば黙るしかないけれど、例えばここが異世界に見せかけてやっぱりゲームの世界でしたって可能性の方がよっぽどしっくりくると僕は思うよ。……いや、もう少し言うなら作られた世界かな。どこかおかしな印象がある。もちろん確かめる方法は無いし、あまりにもリアル過ぎるからそれもすんなりとは考えにくいんだけど」


「そこまで考えたことがありませんでした。でもそれならポーションを飲んでログアウトすればいいんじゃないですか?」


「まぁそうなんだけどね。でも仮にこの世界をゲームや新しいバーチャルな世界と仮定した場合、偶然迷い込んだ出来事であればメールが来ている時点で観測はすでにされているんだし、自由意思なんかに任せないで強制ログアウトをさせて助けない道理が無いんだよ。文面に書かれている通り、時間まで遡れるなんてことは残念ながら今の科学では不可能だから、意識の無い僕らの体が当然社会問題になる。それでも推し進めるというのなら、何らかの存在の意図を感じる。ならば、果たして帰還のアイテムは本当に帰還できるのか? 僕はそれにまったく信用が持てていない。それにファンタジーな異世界であっても同様に、会ったこともない神様ってのをすぐ信じるのは難しいんだよ。もし本当に親切な神様なら疑問を書いた返信にもちゃんと答えてくれるはずだ。なのに無視されている。どちらのパターンであっても納得がいかない。だからなぜ僕たちがここにいるのか、それが解明されない限り行動に移すのは危険だと僕は思う」




 景保さんの話はためになる考察だった。
 私はここに来て浮かれていただけで、深く考えようともしなかったのに。一人じゃなく、仲間がいて良かったと正直に思える。




「景保さんのようにあんまり考えてなくてすみません」


「まぁこんなの考えたところで結局は答えが出ないんだからあんまり意味は無いんだけどね。ところで君はどうしてこっちに残っているの?」




 少し恥じ入るように返すと、彼は謙遜するように頬を指で掻いて話題を変えてきた。




「具体的に何かしたいってわけじゃないんです。でもせっかくだし満喫してみようって思って。短絡的ですかね?」


「いや、別にいいんじゃない。異世界転生みたいなものは皆の憧れみたいなものだろうし。僕もあんなクソみたいな世界よりはこっちにいる方が得だとは思ってる」


「はぁ」




 クソ、って。こっちの方が格段に命の危険が身近にある世界なのに。少し景保さんの心の奥に入り込んだ気がした。




「問題はこの力に溺れる人がいるかもしれないってことかなぁ。僕だってまだ決めかねているけど、こんなチート能力があるなら残るのもアリだと思っているぐらいだし」




 確かにこれだけの能力があれば闇墜ちする人が出てきてもおかしくはない。
 悪人相手だったら何してもいいとは私も思ってるけど、だからって殺すまでの覚悟もまだ無いし、したくもない。


 でも、




「大丈夫じゃないですか?」


「なぜ? こんな万能な力があればタガが外れて自分勝手な欲望を満たそうとする人がいるかもしれないよ」


「うーん、大和伝のプレーヤーだから、かな」


「答えになってないよそれ」


「ならなんで景保さんはそうしないんですか?」


「僕はそういうのが嫌いだからだよ。ここはゲーム大和伝じゃない。仮にゲームでも暮らしている人は本物の人間にしか見えなかった。勝手にデータや自分の世界の人間ではないと決め付けて好き勝手に振舞えるほどケダモノじゃない。だから……」


「だから?」


「いや、なんでもない」




 一瞬、彼の双眼に影が映ったような気がした。どうにも何かを抱えているふうだ。
 だが押し黙るようにされてしまってはそれ以上深く聞くことができないし、火が照らす薄暗い光ではその感情までは読み取れない。




「ほらよく動物好きに悪い人はいない、みたいなのあるじゃないですか。それみたいな感じで景保さんみたいに大和伝のプレイヤーに悪い人はいないって感じです。決して自分から悪事を働いたりしないと思いますね」


「そんなの分からないよ」




 暗く沈んだ雰囲気を変えるためにおちゃらけたふうに言ってみたがばっさりと両断される。
 一体どこに地雷があったもんか分からなく、むふーと鼻から息をひねり出した。
 しばし止まってしまった会話の歯車を回すために頭を巡らしていると、景保さんの方からぽつりともらしてきた。




「君の豆太郎君は勇敢なんだね。自分より何十倍も大きな相手でも向かっていった」


「そうですね。でもそれはゲームのときもそうでしたし」




 彼は力なく頭を横に振る。




「タマは違った。臆病になったよ。今日だってHP的にはそんなに減って無かったはずだ。なのにタンコブができるぐらいのダメージで戦意喪失してしまった」


「……すみませんでした」




 原因は私の早とちりでそう答えるしかない。見た目が大ムカデだったとしても幼女の顔に蹴り入れたというのはなかなか心にくるものがある。
 景保さんは困ったような笑みを浮かべてタマちゃんの頭を触り、手櫛で髪を梳く。




「いや責めているんじゃないんだ。何が言いたいかっていうと、ここに来て良くも悪くも仕様が変わっていることが多くあるってことさ。例えばここに来るのに僕は式神の白虎の背中に乗ってやってきた。ものすごく揺れてもう乗りたくないんだけど、戦闘時にしか使えなかった式神が乗り物としても使えるようになった。これは良いことの方だよね」


「ええ、そうですね」


「でも回復アイテムのほとんどは食べ物で、使うと満腹度が上がるようになってしまった。これは悪くなった。ついでに言うなら召喚したNPCはわがままを言うようになったりもしたし、思うような行動をしてくれないこともある。正直扱い辛いと感じることすらある」




 召喚については分からないけど、確かにアイテムは丸薬はまだしも、おにぎりやみたらし団子を戦闘中にいくつも使うのは難しい。




「あんまりそいうの考えてませんでした」


「まぁ僕らの力はこの世界ではチート級っぽいからあまり突き詰めて考える必要は無いけどね。ただやれることとできないことの境界線が歪に変わっているからそれだけは覚えておいて。それに判断一つで取り返しのつかないことになるかもしれないから」


「はい」




 その声音に重く圧し掛かるものを感じ聞き入る。
 それからずっと時間が来るまで二人で飛ばされてから今日までに経験したことや、考察を話し合っていった。
 すると声が掛かる。




「交代の時間だよ。明日に向けてゆっくり休んでくれ」




 いつの間にか渋格好良いクロムウェルさんたちが交代のために起きており、そのために会話は打ち切られてしまった。
 けっこう時間が経ったんだなと天を仰ぐと、リズの村でお風呂に入りながら見た空と同じような光景がそこにはあった。
 雲は少なく月が煌々と輝いて見える。まだ白むには時間があって天気なんて読めないけど、漠然と明日は晴れそうな気がした。


 うん、頑張ろう。オリビアさんや他の人たちを取り戻すんだ。







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