和風MMOでくの一やってたら異世界に転移したので自重しない

ペンギン二号

7 報酬はお気持ちだけで



「出せるなら出す。しかしさっきも散々言ったがそんな余裕がないのはお前も知ってるだろ!」


「だからって無報酬というわけにはいかないでしょ。冒険者を雇うためのお金、全部は無理にしてもいくらかは渡すべきです!」




 村長とスコットさんは、どちらも苛立ちを隠せないまま、軒先で言い合いを始めていた。遠くからこちらを訝しむ村の人たちもいて、ちょっと恥ずかしい。
 争う内容は私への報酬についてだ。


 私がしたことはすごいことで、きちんと対価を払うべきだと主張するスコットさん。
 そしてあるならそうしたいけど、無い袖は振れないんだよ、と食いついてくる彼に怒りを露にするのが村長さん。


 どっちも言い分は分かるんだけどねぇ。
 懐事情は寂しいものの、五十体以上のゴブリンの魔石もそこそこにはなるだろうし、そこまでがめついてはいない。
 別にいらないよ、と格好良く言おうとしたんだけど、




「ふん、昨日も自分自身で言ってただろ。責任を取るって。だから金を払う必要なんてないよ」




 と、村長の横でさえずるバカ息子にイラついてやめた。
 必要以上に畏まる必要はないけど、助けてもらっておいてこの台詞が吐けるんだから大したもんだよ。
 こいつのせいで何も受け取らないと、負けた気になって言い出せなくなってしまった。




「冒険者に払う予定の金があるでしょう? ゴブリンはいなくなったんだから丸々浮くはずです」


「いや、キャンセル料があるから、半分は取られるんだ」


「ならその半分でいいですから」


「お前も分かっているはずだ。みんながその金を捻出するのに、どれほど苦労したと思う? 親の形見をテレサに売って工面した家もあるんだぞ?」


「それは……」   




 すっかり私贔屓びいきになっているスコットさんもその言葉ばかりは逆らえないようだ。
 でもさすがにそろそろ終わらせてあげないといけないな。スコットさんたちが村長や村の人たちと仲違いするなんてのは望んでないのよ私は。
 豆太郎も私の足元でつまらなさそうにしているし、夫婦喧嘩は犬も食わないっていうけど、おじさんたちの喧嘩は私だってノーサンキューだ。




「ただ、そうだな。村に滞在する分の宿代は無料ってことでどうだ? もちろんあんまり長いと困るが数日ぐらいなら問題ない。すでにもらっている分も返す。悪いが本当にそれぐらいしか報いれないんだ」


「……分かりました。ありがとうございます」




 そこが妥協点と見てスコットさんが頭を下げる。 


 最初っからそんなに期待していない。
 ゴブリンにしたってこの人たちからしたら予想外の出費だったんだ。
 それをゴネるつもりはないよ。


 バカ息子はそれでも何か言いたそうだったけど相手にしてらんない。
 スコットさんも渋々という感じだけど、誠意はもらったし、十分だよ。




「仕方無いか」


「それじゃあ戻りましょう。まだお昼ご飯食べてないですよね? リズと奥さんがハラハラして待ってますよ」




 とりあえず話がまとまり、帰ろうとすると、




「――なぁ、ここが村長の家って聞いたんだけど」




 短く刈り上げたツンツンの金髪の少年が後ろから声を掛けてきた。
 少年といっても私よりは少し上ぐらい。革鎧と剣を装備しているところから冒険者というのが窺える。
 その剣は二つ重ねた鞘に一本ずつ入っており、そこから伸びた紐を斜めにして担いでいる。
 二刀流かな?




「ちょっとアレン、お話が終わるまで待った方がいいわ」


「こっちは緊急の用事なんだし、先に回してもらった方がいいよ。それにもう終わりそうだったよ。アレンが正解だって」




 その傍には、ローブを着た腰まで届く長い髪をした清純そうな女の子と、弓を背負ったボーイッシュな感じの女の子がいた。
 彼女たちはアレン――と呼んだ彼の両脇を固めている。




「なんだ君たちは?」




 今までの会話が重苦しいものだったせいもあるけど、小生意気そうな年下からの溜め口が癇に障ったのか、質問する村長さんの鼻に皺が寄っていた。




「なんだ、ってご挨拶だな。俺はアレン、こっちはミーシャとオリビアだ。俺はあんたたちに呼ばれてきたんだぜ?」


「なに?」


「ちょっと、君たち、待っててくれって言ったじゃないか」




 その後ろから息を切らせて小走りに現れたのはややぽっちゃりした男だ。身なりから村人っぽい。
 なんだか面倒くさそうな気配がしてきた。




「あんたの荷下ろしにまで付き合ってらんないよ。ここまで三日掛かってんだしさ」


「勝手に動かれても困るよ。まぁもうそれはいいや。村長、彼らがゴブリンを倒してくれる冒険者です」




 あぁやっぱりか。そんなこと考える暇もなかったが、そういや頼んでいたんだよね。つまりダブルブッキング二重依頼ってやつだ。
 しかし私が言えることじゃないけど、彼らに五十匹以上のゴブリンが倒せるようにはちょっと思えなかった。
 もちろん罠を仕掛けるとか、少数ずつ削っていくとかなら別だけど、どうもそういうタイプにも見えない。




「あぁ……それか。それはだな……」




 言いよどむ村長に新参者ニューカマーたちのきょとんとした瞳が八つ並ぶ。
 その視線にうっと息を呑む村長はスコットさんに何度も目配せをする。
 スコットさんは明確に嫌そうにしたが、はぁ、と息を吐くと仕方無さそうに頷き、ごほん、と咳払いしてから口を開いた。




「もう退治した。ここにいるアオイが昨日一人でやってくれた」


「「「はぁ?」」」




 目を丸くし口をあんぐりとするのはやっぱり事情を知らない四人だ。
 往復六日の旅が空振りになるのは申し訳ないけど、誰も傷つかなかったので良しとして欲しい。




「待て待て待て待て。そんな話があるかっての」 


「そうだよ、三日もお尻の痛くなる馬車に揺られてきたら終わってましたってのはないよ!」


「困りましたね。こういうこと経験が無くて、報酬はどうなるんでしょうか」




 すぐに反応したのは冒険者の三人だ。
 うーん、突っかかってきますか。




「ギルドの規定ではこういう場合、報酬は半分支払われる。だからまったくの無駄足にはならないはずだ」


「半分って。それじゃあなぁ」


「でも装備の消耗も怪我も無しに半分ももらえるのなら考え方によっては良かったんじゃない?」




 ローブの女の子――オリビアという女の子は、見た目もそうだけど三人の中では思慮深そうな発言をする。
 彼女はこの中では少し年上に見えた。十八~二十歳ぐらいかな。




「半分だと日当程度にしかならないぞ?」


「もちろん少ないのは少ないけど、それで誰も怪我が無かったのなら喜ぶところよ」


「そりゃそうだけどさ……」




 彼女のナイスアシストのおかげでアレンは不本意ながらも、矛を収めそうな雰囲気だった。
 たぶん彼がリーダーっぽいし、彼が納得するならきっと万事解決だね。




「待ってよ。私はまだ認めないよ。あたしたちより年下っぽいのに一人で五十匹は無いでしょ。ホラ吹いた可能性だってあるんじゃないの?」




 そこにずいっと良く通る声で前に出てきたのは赤毛のミーシャ。
 彼女は片手を腰に当てながらこっちを指差して喧嘩腰だ。いかにも気が強くて一言多そうなタイプ。
 こんにゃろ~。言いたい放題言いやがって。




「それは大丈夫だ」


「なんで? 倒すところ見たの?」


「あぁ見たよ。剣も魔術も超一流だった。それにゴブリンたちのリーダーは二回り以上大きい変異種だったのに、それすらもアオイは一撃で倒したんだ。ここを上がっていったところでそのゴブリンたちの死体を今解体中さ。信じられないなら見に行くといい」




 胸を張ってスコットさんが答える。
 嬉しいんだけど、なんであなたが自信満々なの。
 それにあの地獄絵図もう知れ渡っていたかぁ。




「むー」




 ここまで断言されると反論できず、ミーシャは気勢を削がれて悔しそうに風船みたいに頬を膨らませる。
 いやぁ一件落着だね。
 なのに、




「超一流だって!?」


「え?」




 今度はアレンが大きく反応した。
 そこに噛み付くの!?




「なぁお前、えっとアオイだったっけ? 俺と模擬戦をしないか? 俺より年下っぽいのに実力があるというのに興味がある」


「ちょっとアレン!? 何言ってるのよ。また悪い癖? やめとこうよ」




 なぜだか露骨にミーシャが嫌がった。




「やりません」


「なんで?」


「いやまったく私にメリットが無いし」


「待て。それじゃあ俺と勝負したら金貨一枚でどうだ? もちろん負けても金貨はやる」




 む、お金か。
 いやでも私そんなに好戦的じゃないし。
 てかなんでそんなに戦闘狂なのよ。やらないっての。


 諦めてもらうため私は努めて興味なさそうに肩を竦ませ二人を促す。




「要りません。ほら豆太郎行こ。スコットさんも」


『わかったー』


「あ、ああ」




 ぴょこっと私の声に豆太郎が起き上がる。
 スコットさんも変な方向に話が進みそうになる空気を感じてか応じてくれた。




「なんだその変な犬!? 小さくて気付かなかったぜ。そんなに小さくて生きてる価値あるのか?」




 その言葉にピタリと足が止まった。
 今こいつなんて言った?




「は? 今なんて言った?」


「生きてる価値があるのかって言ったんだよ。犬なんて狩りや牧畜の補助をする動物だろ? それがこんなに小さくて存在価値があるのかって――」




 その薄汚い口が全部話終える前に私は【荷物】から『クナイ』を取り出し投げつけた。
 狙いもせず顔の横に適当に放ると、その軌道はアレンの頬を薄く切り裂き、村長の家の柱に突き刺さる。
 彼の肌の表皮に血が一滴ぷくりと泡のように出ると、重力に従って滴り落ちる。


 誰もが凍りついたように動かなかった。




「気が変わったわ。気の済むまでやってあげる」




 豆太郎だけが、あちゃーと顔を手で覆っていた。






□ ■ □


 模擬戦、という名目で丘の上の開けた場所で戦うこととなった。
 話は村中にすぐに知れ渡ったみたいでギャラリーも多い。
 辺鄙へんぴな田舎では娯楽が少ないせいかみんな楽しそうだ。 


 その中にはリズも含めたスコットさん一家もいて、ちょっぴり後悔はしている。でも反省はしていない。
 豆太郎をけなされるのは、私を侮辱される以上に腹が立つ。
 しかも生きてる価値がないとかほざくバカは、きっと痛い目見ないと分からないのだ。だからこれは治療の一環だ。
 事態を正当化するためにはそう思うことにした。


 向こうは革鎧を脱いで腕を交差したりして体を解している。
 「相手が防具を装備していないのに自分だけできるかよ」とのことらしい。
 私が着ているのはただの黒装束に見えて実は鉄鎧より強いんだけどね。


 彼にはさっきまでと違い表情に余裕はない。
 くない投げつけられて笑ってたらサイコパスだけどね。
 二刀流だと思ったら、鞘ごと片方は仲間に預けていたのが不可解なところだったが、いちいち突っ込んでいられない。


 互いに真剣を使う。ただし重症を負わせるような攻撃はしないとどちらも誓っている。あちらは知らないけど私は守るつもりだ。リズとか子供たちもいるし凄惨な試合を見せるのは気が引ける。
 それに多少の傷はオリビアさんの回復魔法で治せるらしい。
 やっぱり魔法ってあるんだな、とそこだけは私の関心を誘った。


 ちなみに刀は長さこそ一緒なものの、夜鴉ではなく無銘の普段使わない数打ちの刀だ。
 あまりに強すぎても一方的過ぎるだろうし、それに『耐久値』の問題もある。
 大和伝では武器と防具には耐久値が設定されている。修繕するためにはその装備のキー素材を集めて鍛冶屋などに持っていかなければならない。
 さすがにガンガン減っていくわけではないが、こっちでは素材の補充もできず、それ以前に修復してくれる人もいないので温存中だ。 
 



「それではいいかな?」 




 立会人は村長だ。
 周りではどちらが勝つかテレサ――道具屋のお婆さんが胴元として余裕のある家だけで賭け事も行われているみたいだった。
 リズの母親もヘソクリで私に金貨二枚を賭けたようで、ヘソクリがあったことにスコットさんは驚いていた。
 あの人も病弱そうに見えてたくましいなぁ。ま、なけなしのお金を投資してくれたんだから応えないとね。




「いつでも」


「俺もいいぜ」




 私たちが両方とも口を揃えると村長が頷き離れていく。
 そして――




「では始め!」




 開始の合図と共に地を蹴る。
 本気は出せない。たぶん制御不能に陥りやり過ぎてしまうからだ。魔物相手ならまだしも、人間相手には軽々しく本領発揮すべきではない。
 だからシステムの位階制限レベルキャップを使った。これはレベル差がある仲間とパーティーを組むときや制限イベント、または修行のときに使うものだ。今の私はレベル三十。たぶんこれで何とかなるはずだ。


 お互いに仕掛けると、たちどころに距離は無くなる。
 すぐさま近接の間合いに入った。


 首や急所を狙うことができないから今は忍刀を逆手持ちではなく順手で握っていた。
 逆手は普通に考えたらあり得ないのだが、小さなモンスターや人間相手に格闘術を混ぜると稼動範囲の広さからむしろ理に適っている。だけど今回のように突き刺したりする手段が選べない以上、まともにやるしかなかった。


 あっちも取り回しやすい短めのショートソードだけど、こっちの刀身よりも倍近くは長い。この時点で不利なのだがそこは身体能力でカバーする。
 まずは右上からの袈裟斬りを対抗するように打ち合った。




「はぁ!」




 キン、と迎え撃った刃が甲高い金属音を奏で拮抗する。
 体格差や武器のリーチで勝る相手に互角なら十分やれそうだ。


 一歩引き、またかち合う。
 しばし剣戟の打ち合いが続く。
 これは必要な儀式だ。魔物ならいきなり斬れば済むのに、模擬戦となれば刃を当てられない。
 だから力や技で圧倒し、隙を作って何かしらの有効打を与え、自分からギブアップさせるか、立会人にこちらが有利だと見せなければならない。
 そのために実力を測り合い、戦略を練るためのステップ。


 何度も応酬を繰り返すと大体把握してきた。


 なら、と私は剣同士が重なっているタイミングで、いなすように体を捻って相手のわき腹に左足で蹴りを放つ。
 鍔迫りを無理やり中断した体勢だったので速度も威力も込められなく、アレンは後ろに飛んで辛うじて衝撃を避けた。
 私はちっ、と舌打ちをもらす。


 ――これは勝ち筋が見えにくいな。


 【忍者】という職業は万能職と言われている。もっとマニアックに言い換えるなら手数で稼ぐアタッカー。
 近接武器が装備できて忍術も使え、体術も俊敏だ。
 でもそれは裏を返せば、剣術は【侍】に敵わず、忍術は【陰陽師】や【神官】に届かず、体術は【僧兵】に劣る。
 だからこそそれを全て駆使しなければならないんだけど、今はいくつも制限されていてもどかしい。




「強ぇ……」




 大して時間は経っていない.
 それでも濃密な情報の遣り取りがなされ、彼は私の強さを肌で味わって理解したようだ。
 なのに降参はしないらしい。


 引きつりながらも笑い、むしろ闘気は上がっている。




「ここで止めるなら怪我はしないよ?」


「はっ、冗談。まだ始まったばっかりだろ」




 一筋縄ではいかないと判断したのか、次は冷静に間合いをじりじりと詰めてくる。
 リーチはあっちの方が上だ。だから私は後の先を狙うしかない。


 ピクリ、と僅かにアレンの体が強張ると攻撃が再開された。左からの薙ぐような一撃だ。
 私は両手を使い忍刀で受けきる。そしてすぐさま右手を外し、峰の部分に添える。


 一体何をするのか分からずアレンの片方の眉だけが動いた。


 そのまま相手の鍔まで刃を滑らすように、先に左足を前に出してから即座に右足を大きく踏み込む。鉄と鉄が滑り軋むきし生理的に嫌な音が発生し、火花が散る。
 体がぶつかるほどの超至近距離にまで接近し、僅かな腰の回転だけで肘を彼の鳩尾みぞおちに叩き込んだ。




「ぐはっ」




 アレンの苦悩の声が頭上からした。


 無茶苦茶な技だ。忍術でもスキルでもなんでもない。ただの体術。しかも生身では絶対にできないイメージ通りに忠実に動くこの体限定の攻撃方法。


 大和伝では対人との戦闘もシステムに組み込まれていた。
 それはシステム的なアシストもあったけど、圧倒的な肉体を使い魔法のような奇跡の術を手足のように駆使する者同士の超上的な戦いだ。


 大雑把なスキルに頼っているのは中級者まで。
 同じ挙動をするシステムの技は上級者には簡単に見切られる。
 なので上級者同士の戦いで勝つなら、相手の裏をかき、この体を如何なく発揮させる技が求められた。


 ――私が対人戦をした回数は‘千回’を越える。


 もちろんしょせんVRのゲームでの話だ。借り物の体、借り物の武器、借り物の能力。
 だから一度ゲームから抜けて、現実の女子高生の葵であれば男の子と戦うなんて体が竦んで動けもしないし、どれだけ頭の中で超人的な動きをイメージできても張子の虎のようなもの。パンチ一つロクに打てやしない。
 だけどこの体なら、私は理想の私を投影し体現できる。


 ゲームであるからこそデッドオアアライブ生か死かの戦い。騙し合いだって勝つためにする。相手の手首を切り取り、骨を容赦なく砕き、頚動脈を噛み切る。そんなことだって珍しくない。
 相手の命を気にせず、真剣勝負ガチンコを現実でどれほどの人間が体験しているのだろうか。その回数もそう多くないはずだ。
 対する彼はどう多く見積もっても対人戦は数十回も無いだろう。それに訓練でやっているのは寸止めや刃引きのした剣だと予想がつく。
 それではこういう技はどうしても思いつくはずがない。


 まぁ私も上の下がせいぜいなのだし、このアバターの力があってこそなのでまったく威張って言えないんだけど。


 アレンは体をくの字に折り曲げ苦痛に喘ぎながらも、またもや後ろに逃げようとする。
 すでに持っていたショートソードは地面に落としていた。




「逃がさないよ」




 追うように彼の足を踏んずけると、それだけでつまづきバランスを崩して後ろから倒れた。
 絶好のとどめのチャンスに追い討ちを掛けようとしたが、なんだかざわりと違和感を感じてむしろ二歩後ろへ下がった。


 マウントを取られそうになったのに必死でもがこうとする執念が見られなかった、それが根拠だ。 




「ごほっ、ごほっ……来ないのか?」




 仰向けに地面に背をつけて咳き込むアレンは、息を整えるとお腹を抑えながらゆっくりと起き上がってきた。




「なんだか嫌な予感がした」


「へぇ。正解だ。でも本当に強い。これでも俺、ギルドからも期待されてるんだぜ? 真正面からやって敵わないと思った年下は初めてだ」


「真正面ね。からめ手なら勝てるの?」


「というか、‘天恵てんけい’持ちなんだ。だから三人パーティーでもやっていける」


「天恵?」


「あれ、知らないか? まぁ滅多に授かるやつはいないからな。強力なスキルで使うのははばかられるが、かと言ってさすがにこのままじゃ終われねぇ。――見せてやるよ」




 不敵に笑みを作りながらおもむろにアレンは、足元に落とした自分の剣を拾うと、それを無造作に投剣してきた。
 投槍やクナイのように投擲するのを目的としていない造りのショートソードを雑に投げられても、その行為による驚きはあっても、速度も乗らないただのやぶれかぶれに間違っても当たる気はしない。
 数歩横にズレて避ける。


 自暴自棄になったのか? という思考が過ぎた。
 いや、と否定する。甘い考えだ。私はそれで何度も殺されてきた。




「後ろ、見た方がいいぜ?」




 そんな台詞は隙を作るための罠だ、というのが経験則だった。実際剣を無くした敵がその間に別の武器やアイテムを用意するのを嫌というほど体験してきた。
 しかし耳に微かに空気を切る音が届き、周囲の村人たちが度肝を抜かれるように私の後ろを凝視しているのを見て判断を変える。


 瞬時に振り返った。


 そこには重力の支配から逃れたかのような剣が、今にも切り裂こうと意思を持ったかのようにこちらに迫っている最中だった。







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